意思を持つマネキン=RiRiとLuLaによるミステリアスなマネキンラップデュオ、FEMM(フェム)。彼女たちが最新アルバム『80s/90s J-POP REVIVAL』を完成させた。
この作品は、彼女たちが16年から進めてきた「80s/90s J-POP REVIVAL PROJECT」の集大成。
渡辺美里の“My Revolution”やhitomiの“CANDY GIRL”、Winkの“淋しい熱帯魚”、小沢健二 featuring スチャダラパーの“今夜はブギー・バック”といったJ-POPシーンの名曲を題材にしながらも、それをカナダのMonstercatなどから作品をリリースするUK在住のトラックメイカーMYLKや、DiploやNERVOのRemixを手がけるRadical Hardcore Cliqueと共にリアレンジすることで、全12曲がフューチャーベースやトラップ、トロピカル・ハウス以降の音楽を通過した、シーンの最先端とも言える楽曲群に生まれ変わっている。
果たして今回のアルバムは、どんな風に完成したのだろうか? 意思表示は出来るものの言葉は発することが出来ないメンバーに代わって、FEMMのエージェントの2人が答えてくれた。
Interview:FEMM(Honey-B&W-Trouble)
——FEMMはマネキンラップデュオという形態や、海外の最新の音を取り入れたサウンド、最新のテクノロジーを使ったライブなど、ユニークな活動で話題を呼んできました。エージェントのお2人が、これまでの活動で印象に残っているのはどんなことですか?
Honey-B デビュー作の制作期間中に一気に12曲分ぐらいのMVを一挙に撮影して、マネキンの2体も初めての経験が多かったと思うんですが、振付師ユニットの左(Hidali)がつけてくださる振りがユニークで難しいもので、まるでパズルのようだったんです。特に“Whiplash”のMVは、ワンテイクで撮影する難易度の高い振り付けになっていて、今観返してみてもぶっ飛んでいるし、2体もよくやってくれたと思います。
ダンサーのみなさん、クリエイターのみなさん、そしてマネキンがみんなで力を合わせて作っていくような雰囲気で、あのときは現場にいた私たちエージェントも感動したのを覚えています。
——その過程で、チームとしての絆が深まっていったんですね。
Honey-B その通りですね。
W-Trouble 私は横浜にて行ったVRDG+HでのARライブが記憶に残っています。最新のテクノロジーを使っていたので、FEMMの未来のライブの可能性がすごく感じられたというか。この形でやればライブがより面白くなるんじゃないかという、貴重な経験になりました。
——全米チャートの「ワールド・ミュージック部門」にランクインしたり、海外のメディアから取材を受けたりすることも、2体にとって貴重な体験だったのではないでしょうか。
Honey-B きっとそうだと思います。もともとそのきっかけになったのは、デビューしてすぐにYouTubeで公開した“Fxxk Boyz Get Money”で、この曲がMVも含めて向こうのティーンやインフルエンサーの人たちの間で、短期間のうちに広がっていったことでした。アメリカやイギリスなど英語圏が中心でしたね。
W-Trouble FEMMのことを気にかけてくださる人たちは、海外の人たちの方が数としては多いんですよ。コメントを見ていても、ブラジルから、台湾から、アメリカから——と海外の方が本当に多くて、日本よりも知名度があると思います。FEMMを受け入れてくれる人たちがこんなに世界中にいるんだと、嬉しい気持ちでいっぱいですね。
——そうした活動の中で、「FEMMにしかできないこと/FEMMならではの魅力」というものが、エージェントのお2人にも分かってきた部分があるんじゃないですか?
W-Trouble Honey-Bが最初に話していた、デビュー作に向けてMVをたくさん撮影していた時期は、私たちもどういう風にすればマネキンを生かせるのか、ということがまだまだ手探りの状態で、活動を続ける中で「こんな振りがいいんじゃないか」「服はこんなものがいいんじゃないか」と、”FEMMらしい表現”というものを見定めていきました。
最初はダンスや衣装はFEMMに足りない感情表現を補填するものでしたが、徐々に人間のアーティストと同じように踊ったり着たりする部分も出て来ました。「80s/90s J-POP REVIVAL PROJECT」でも、当時の時代そのままの衣装を2体に着てもらったりと、今までの方法論を崩すということが出来るようになってきていますね。
——アルバム『80s/90s J-POP REVIVAL』は、まさに“当初のイメージを崩していった”ことの集大成だったんですね。このプロジェクトは、どんな風にはじまったんでしょう?
W-Trouble FEMMの2体にとって、80から90年代は彼女たちにとって、見たことも聞いたことない全く未知の時代なんです。でも、今はインターネットを通して時代に関係なく色々なものに触れられる世の中なので、「80年代」「90年代」が彼女たちにとってすごく新鮮なものとして映って、興味を持っていったようです。
加えて、80〜90年代は日本で暮らす多くの人々にとっては自分たちが経験してきた時代でもあるわけなので、このプロジェクトを通して日本の多くの人々にもFEMMを知ってもらうことが出来るんじゃないかと思ってはじまった形です。
——そもそもFEMMはマネキンなわけですから、どんな音楽でも自由にインストールできるわけですよね。自分たちが生きていない、80~90年代のJ-POPであっても。
Honey-B その通りです。ただ、これは大きなチャレンジでもありました。というのも、これまでFEMMは、主に欧米のクリエイターと共にサウンド面を制作していたこともあり、「J-POP」はこれまでの音楽性とはかなり違うものなので。「これが果たして受け入れられるのか?」という不安はあったと思います。J-POPを題材にすると、当然これまでの英語詞とは違って日本語で歌うことになるわけですが、海外のファンの方たちからすると、これまでは自分たちも分かる英語詞で歌っていたグループが、自分たちの理解できない言語で歌いはじめるということになると思いますしね。
でも、“淋しい熱帯魚”を公開したところ、「I love Wink!」という反応を返してくれる方も結構いて。もともとFEMMに興味を持ってくれる海外の方たちは、日本の音楽やアニメ、マンガなどを全部ひっくるめて好きな人たちだったので、昔の日本の音楽も知ってくれていたみたいですね。そういえば、むしろ「日本語で歌ってほしい」というリクエストも、以前からずっと来ていたんですよ。
——なるほど。新しいことをやった結果、実はそれを待ってくれている人がたくさんいた、と。
Honey-B Instagramで色々なポストをした中でも、今回のプロジェクトの投稿には「いいね」の数が最も多く付きました。FEMMのファンは10代から20代の子が多くて、当時のことは知らないはずですが、リバイバルが盛り上がっている時代ならではかもしれませんね。