――制作する上でのキー・ポイントになった曲はありますか?

今回、アルバムの中で一番最初に出来た曲が1曲目の“バッファロー”だったんだけど、これが『マタドール』という作品全体の種のようなものになったね。テンプレートのようなものというか、「(ソロの)ファーストとは違う作品が出来るんだな」という手応えを感じることが出来た曲。あとは3曲目の“ザ・イングリッシュ・ルース”。これは「自分の好きなこういう音楽のこういう部分を捉えてるな」ということが実感出来る曲だった。

――それは具体的に言うとどういうものですか?

それが、ひとつじゃないから言いようがないんだよ(笑)。たとえばロウなドラム・サウンドとか、ルーズなビートとか……。俺が聴いて「これだ」って思えるサウンド。「スピーカーで聴いてゾクゾクするような音楽」。俺は毎回それを求めてるんだと思う。ちょっとした中毒症状みたいなものさ。けれど、それが何をしたら体験出来るのかということは分からない。曲によってはそこに辿り着くまでに色々と考えなければいけないし、曲によっては何気なく出来てしまう時もある。そういう、マジックのようなものなんだ。

GAZ COOMBES – “BUFFALO”

――今年はスーパーグラスとしてのデビュー作『アイ・シュド・ココ』のリリースから20年にあたる年でもありますね。あのアルバムとソロ新作とを比べると全く異なる音楽性になっていて、それがあなたのこれまでのキャリアを物語っているようでもあります。

ああ、(『アイ・シュド・ココ』を出した当時の)俺はまだ10代で……メンバーみんな若かったし、バンドを始めたばっかりで勢いもあった。アドレナリンを出しながら、勢いに任せてやってる感覚だったね。あの頃、ダニー(・ゴフィー)はとにかくガンガンとドラムを叩いていたから、自分もギターのアンプの音を上げなきゃいけなかった。そうしたらもちろん、ベースも音を上げなきゃいけない。そういうことが積み重なって、ああいうパンクっぽいサウンドとして形になっていたんだ。あの作品にはとても満足してるよ。そして、今回の新作はそれとはまったく別のところから出来た作品だと言えると思う。20年間色々あって、今もまた違った作品を作ることが出来ているのは、本当に幸運なことだね。

Supergrass – “Alright”

――当時が20年前と考えると、10代の人たちはまだ生まれていない時代の話になりますね。

ああ、確かに。

――そうした人々に、ブリットポップという時代や当時の雰囲気について説明するとしたら、あなたはどんな言葉を使いますか。

80年代の後半から90年代の初頭までは、ダンス・ミュージックやレイヴ・カルチャーが盛り上がっていた時代だった。つまり、俺たちがバンドを始めた頃は、あまりギター・バンド、インディ・バンドみたいなものが盛り上がっているような感じではなかったんだ。ところが、前の時代からの反動なのか、あのタイミングでイギリスから俺たちも含む多くのバンドが登場することになった。俺たちはスーパーグラスとして活動していて、パルプがいて、オアシスがいて、ブラーがいて……。と同時に、アメリカからもニルヴァーナのようなバンドが出てきて。もしもロックンロールが好きだったなら、最高に面白い時代だったと思う。

あと、俺たちの世代がラッキーだったのは、50年代から続くテープ/アナログ・レコーディングの時代の最後を体験出来たということ。そこにギリギリ入り込めて、スーパーグラスとしてのファースト・アルバムをアナログ・レコーディングで録音出来たのは凄く光栄だったし、勉強になった。98年ぐらいを境にテクノロジーが進んでいって、デジタル・レコーディングに切り替わっていくわけだけど、もちろん、デジタルが登場したことでよくなった部分もある。作業の時間が短縮されたし、思いついたらその場でどんどん録音出来る。その即効性というのは素晴らしいと思う。でも、自分たちはその両方をリアルタイムで体験することが出来たんだ。だからいまだに、それぞれのいい部分を混ぜて作品を作るようにしてる。あの当時というのは、今思うとそういう転換期にあたる時代でもあったと思うな。

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