イベントや音楽を届けることへの工夫
––––〈ホステス〉さんと〈ビート〉さんは、日本でインディペンデントな音楽を紹介するレーベルの中でも人気のアーティストを数多く抱えていて、レーベル主催の人気イベントも開催していてと、共通点が多いようにも感じられますね。
飯沢 そうですね、うちはインディに特化しているというよりも、アーティストからのリクエストにフレキシブルに応えよう、という意識からの、ということなんですけどね。
––––アーティストにとっての「ホステス」になるということですよね。
飯沢 そうなんです。うちは社員が十数人しかいない会社ですけど、そのフレキシブルなところというのは、インディだから出来ることなのかもしれないです。
白川 今の時代、フレキシブルじゃないとやっていけないところはありますよね。
飯沢 YouTubeもSoundcloudもそうですけど、アーティスト独自で完結できるシステムがある中で、今までみたいにすべてをレーベルがお膳立てするんじゃなくて、アーティスト自身も自分たちで動きたいという意思が強くなってきていると思いますし。実際、そういう意味でホステスと契約したいというアーティストが増えてきた部分もあったりはします。
白川 あとは、自社イベントがあると、「単独公演をやって、夏フェスに出て、その後にイベントにも出られる」という流れを作ってあげられる。
飯沢 そうですね。うちも本当にそうです。
––––イベント運営ではどんなことを心がけてますか?
白川 完璧なプロダクションをパッケージとして見せて、その感動を対価で頂くという意味でイベントの値段が決まっていくと思うんですけど、うちで言うと<SonarSound Tokyo>だと2日間で出演者が50組ぐらい。<Electraglide>でも一晩で20組ぐらいです。それでチケットの値段が1万円を切るのって実はほとんど利益がないんですけど、そこは頑張っています。ただ、最近はみんなフェスに慣れてきたからか、それでも「高い」って言われるんですけどね(笑)。
––––ビートさんの興行はいつも安いと思いますよ。安すぎるぐらいです。
白川 音楽が詳しい人に「このラインナップでこの値段は安い!」と言ってもらえるのは嬉しいですね。でも一方でイベントの規模が1万人以上になってくると、熱心な音楽ファンだけでは成り立たないところもある。「音楽が好き」「踊るのが好き」「話題になってるから行きたい」、という人にも来てもらいたいんですよ。
飯沢 やっぱり、チケットの価格は意識しますよね。
白川 あと、うちの場合はニッチなアーティストが多いんで、興行を成功させるためにも、ヘッドライナーをバチッと入れたいという気持ちはあります。たとえばアンダーワールドが来るとなれば、「ああ来るんだ、行ってみるか」ということになるわけですし。
飯沢 逆に<HCW>の場合は、ヘッドライナーに左右されないイベントにしたい、という気持ちがあります。それこそどのアーティストがヘッドライナーでもお客さんが来てくれるような、そんなイベントになれば理想的というか。うちの場合も、2日間で10アーティストが出演して単独公演に毛が生えたような価格なので、これも破格だと思います。もともとイベントでお金儲けという風にはしていなくて、あの場所自体がショウケースのような意味合いを持っているんです。
––––イベント自体で収益を出すというよりも、それをアーティストを知ってもらう機会にして、後に繋げていくということですね。
飯沢 そうです。このイベントでこれから人気が出そうなアーティストや、レジェンドでも(若いリスナーだと)知らないアーティストに触れてもらおうというスタンスですね。たとえばニュートラル・ミルク・ホテルは、まさにそういう存在だったと思います。
––––実際、<HCW>の早い時間帯に出演した新人アーティストが、その後人気を獲得していくという流れも出来ているように思います。
飯沢 2014年で言うと、アウスゲイルとテンプルズは好例ですよね。最初に来る時には早耳の人たちだけが「おお、来るんだ!」って注目しているわけですけど、実際に来日してライヴを観てみたら、他の人も「結構いいじゃん」となって、そこからどんどん名前を聞く機会が増えていく。それがうまく行く時も行かない時もあるんですけど、これから広がる可能性があるアーティストに関しては、まずはそこで実際に観てもらうということですね。
Temples – Shelter Song at Hostess Club Weekender 2013/11
––––ライヴの“場”を作るという意味で、何か工夫していることはありますか。
白川 アーティストのパフォーマンスをベストな状態で観られるようにする、ということは意識しています。たとえば最新セットを持ち込んだ今回(14年12月)のフライング・ロータスの単独公演もそうですし、アモン・トビンもそうなんですけど(立方体を組み上げた巨大セットを使う<ISAM Live>のこと)。
飯沢 あれは凄かったですね。
白川 予算をケチって簡略化したものを見せるんじゃなくて、出来るだけ海外と同じもの、ホンモノを見てもらいたいんです。あと、うちはクラブ・ミュージックが多いこともあって、会場の空気感や全体の流れにも気を遣いますね。たとえばライヴを離れてバーにいった時に「これもいいね」と思えるようなちょっとした仕掛けがあったりとか。<HCW>さんでも、ライヴ以外に物販スペースやサイン会などを設けていますよね?
飯沢 そうですね。ライヴ以外でも、転換中に場内で様々なアーティストのミュージック・ビデオを流したり、ほぼ出演全アーティストのサイン会を行っていたりと、音楽やアーティストに触れ合える場所を作るということは大切にしています。
Photo by 古溪 一道(コケイ カズミチ)