<サマソニ>は新しい音楽やバンドをしっかりとオーディエンスに浸透させることができるフェス(プラグ)
――では、プラグさんは<サマソニ>にどんな印象を抱いていますか?
プラグ 2大洋楽ロック・フェスのひとつと呼ばれていますけど、<サマソニ>に出ることがアーティストの成長を促す部分もあるし、ライヴ後にドカンとアルバム・セールスが伸びたり、反応がダイレクトに返ってくるフェスですね。やはり「SONIC STAGE」の存在は大きくて、ブロック・パーティー、アークティック・モンキーズ、リトル・バーリーなどは、あそこを経験したことでイギリス本国に負けない人気を獲得しました。自分たちの手がけるアーティストを広めるという意味では、すごく重要なイベントだと思っています。あとは、とにかく「暑い!」ということですかね(笑)。
――フェス文化の根付いているイギリスで育ってきたプラグさんにとって、<サマソニ>のどんな部分に面白さを感じていますか。
プラグ 日本のマーケットはすごく独特で、「洋楽」というのはある種マイノリティでもありますよね。そういった中で〈ホステス〉の音楽を広めていく作業というのは、多くのプロセスを必要とします。たとえば日本では数百枚しかCDやチケットが売れないようなバンドでも、UKではフェスのトリ前を務めていたり、状況の違いというのも多々ありますよね。でも、<サマソニ>は日本のオーディエンスが求めているものを理解しながら、新しい音楽やバンドをしっかりとオーディエンスに浸透させることができるフェスだと思っています。
清水 <サマソニ>はやっぱりオーディエンスの先を行き過ぎちゃいけないし、一歩二歩先を行くぐらいのものでないと、みんなついてこれなくなっちゃいますよね。かといってその動きがスローになり過ぎると、新しいオーディエンスは掴めない。その“スピード感”というのはすごく難しい部分なんですが、常に“リスナー目線”で考えることが大事。だから、良くも悪くも音楽シーンのトレンドには左右されます。最近のラインナップがポップ寄りになっているのも時代の流れに合わせてのことですが、いっぽうで「SONIC STAGE」なんかを楽しみにしている従来のファンにも納得のいくものを見せる……。そんなバランスも含めて成り立っているフェスだと思いますね。
プラグ イギリスでは<End of the Road>、<Latitude Festival>、そして<Festival No 6>といった新しいフェスが次々と生まれていて、ライフスタイルを含めた「カルチャー全般」にこだわる中流階級の人々から人気を集めています。ただ、今の日本でそれをやろうとするとAKB48がドン詰まりなのかな……? と感じる部分はありますし、その国独特の音楽シーンも反映しながら、ひとつずつ見極めていくのが大切なことかもしれません。
――“スピード感”というお話がありましたが、2007年にアークティック・モンキーズが史上最年少でヘッドライナーを務めたのは象徴的な出来事でした。
清水 アークティック・モンキーズは、実はプラグと一緒に勝負を仕掛けたものなんですよ。当時、次のヘッドライナーを決めるのに悩んでいたら、彼がアークティックの新譜(07年の2nd『フェイヴァリット・ワースト・ナイトメア』)の音を持ってきてくれて。それを聴いた瞬間、「とてつもないことになるぞ……」と確信したんです。イギリスやヨーロッパでは間違いなくヘッドライナーとして出てくるだろうし、普通に考えたらヘッドライナーの前に持ってくるのが順当なんですね。でも、ここは思い切って彼らをトリにしよう! と提案したらプラグもすごく肯定的で。ただ、当時はそういった機運もあったんですよ。今よりもはるかにロック・シーンが盛り上がっていたし、アークティックが勝負できる絶好のタイミングだった。
――なるほど、<コーチェラ>も今じゃEDMが中心ですもんね。
プラグ たしかに当時はロック・シーンがすごく健全だったし、彼らを後押しできる勢いがありました。イギリスの聞いたこともないような街から出てきたけど、デビュー作(06年の『ホワットエヴァー・ピープル・セイ・アイ・アム、ザッツ・ホワット・アイム・ノット』)のときから高い人気を集めていましたよね。<サマソニ>のヘッドライナーを務めたことはもちろんですが、その前にZEPP TOKYOでライヴをやったことも大きかったと思っています。彼ら自身は積極的にイギリス国外をツアーするバンドではなかったんですが、あえてリリース前に来日してもらって盛り上がりを作り、アルバムを出して、フェスでトリを飾る……という非常に美しい流れが成功したケースでした。数値的な面でも、ここ数年は1stがドカーンと売れて、2ndでセールスが落ちるのが当たり前になっていましたが、アークティックの2ndはそういったギャップもほとんどなかったですね。
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