かたやレーベル設立20周年、かたやバンド結成20周年と互いに音楽シーンを生き抜いてきた異なるバックボーンを持つ両者——オーストラリアにヒップホップを根付かせた〈Hydrofunk Records〉代表のジョルト・リゲル(Zsolt Reggel)と、大きな括りではロックでありつつ、ファンク、ソウル、ヒップホップなどを独自に昇華。言語表現としてラップを取り込む2ピースバンド、UHNELLYSのフロントマン、Kimによる対談が実現した。
20年前と言えば日本では未だCDバブルの余韻で音楽産業は潤い、またフェス文化のスタート地点として<フジロック>の第一回が開催され、現在より圧倒的に日本と海外の音楽を並列して聴く音楽ファンも多く、洋邦混在する音楽専門誌、例えば『SNOOZER』や『BUZZ』も最盛期。その後、ネットを介してアーティストや楽曲は時代を超えて並列に聴取されるようになり、今や楽曲は無料でクラウド上から自由にセレクトできる……。そんな状況も日常的になった感。一方で情報は溢れているにも関わらず、国内では超ビッグネーム以外の来日公演は厳しい状況にあり、コアな洋楽のリスナーはますますコアになり、一般層とはある種の分断も起こっている。だが、生まれる音楽の幅はこれまで以上に多様で、昨年は国内外問わず新譜に胸躍らせたリスナーも多かったはずだ。
そうした音楽を取り巻く状況の変化の中でインディペンデントに自身のレーベルを回してきたジョルトと、ジャンルにもバンドのスタイルにも拘泥せず活動してきたKimから見た音楽シーンそのものや制作環境、そして果たして世界は狭くなったのか? について訊いた。なお、UHNELLYSは〈Hydrofunk Records〉所属のタイガーモスとのコラボ7inchの制作も予定。そのトピックにも触れてもらった。
Interview:Zsolt Reggel(Hydrofunk Records)× Kim(UHNELLYS)
——まず、〈Hydrofunk Records〉20周年の中でジョルトさん自身が大きなターニングポイントとなった出来事は何でしょうか?
Zsolt Reggel(以下、ジョルト) レーベルの大きなターニングポイントは、レーベルがヒップホップ&ファンクなインディペンデントなレーベルの第一人者としてオーストラリアに広まったことですね。オーストラリアに関してはロックンロールとかそういうシーンが多いんですけど、そこの中にヒップホップやファンクの音楽が認知されたことは大きいと思います。その後レーベルとしてアリーナや大きなフェスにも出演しました。
——いろいろなマネジメントもしていますが、その中で何か記念的だったことはありますか?
ジョルト アジーリア・バンクスと今仕事をしていることですかね。さらに個人的なハイライトとしては、ルディメンタルというイギリスのアーティストと仕事をした事が今までのマネジメントの中では記念的だったと思っています。
——KimさんはUHNELLYSとして活動をして20周年中になりますが、そのターニングポイントはどこですか?
Kim 今は僕が歌っているんですけど、ボーカルがもともといてそこが抜けて2人になった時があるんです。それ以前はガレージみたいな音楽をやっていたのを、そこからヒップホップへと変えていったというのが一番大きいですね。確か10年以上前になるのかな……? 同じUHNELLYSという名前でもそこからは全然違う音楽をやっていました。そういう事もあってその10年はターニングポイントでしたね。演奏する場所も徐々に変わっていったし。
——今度ジョルトさんと一緒にお仕事されるんですよね?
Kim そうですね、レーベル所属のタイガーモスというトラックメイカーとUHNELLYSで共作をリリースします。
——そのきっかけは何だったんですか?
Kim きっかけは、今回も同行していただいているジョルトさんの通訳の渡辺さんですね。もともとオーストラリアのアーティスト達のコーデネーションをしている方で、そこで僕も知り合った感じです。タイガーモスも来日したいというタイミングが重なったこともあり、話の流れでコラボに至ったわけです。僕はもともと〈Hydrofunk Records〉のアーティストを知っていたわけではなかったんですけど、今回コラボするタイガーモスの作品を聞いた時に僕が好きだった音楽の感じを作っているアーティストだなと思ったんですよ。ずっと俺の中では和風な感じがしたんですよね。それでコラボとかどうですかねという話をこちらからして、そこからどんどん仕事へと繋がっていきました。
Tigermoth – Bladerunner
——逆にUHNELLYSから話があった時はジョルトさんはどう思いましたか?
ジョルト 自分の主催しているレーベル自体もメインストリームとは違く、アンダーグラウンドな音楽を追求しているんですよね。今回、仙伺さんからUHNELLYSの音楽を紹介されてそれをとても気に入ったんです。自分自身が何度も日本に仕事で行き来して、その中で日本のアーティストとコラボレーションはしてみたいなとは思っていたので、そこで今回UHNELLYSとリリースしてみたいなと思ったわけです。少し違うジャンルでもありますが、同時に2つの国でリリース出来ることが本当に楽しみです。
Kim 光栄ですね(笑)。
——Kimさんも世界中で活動していますが、オーストラリアにはどのようなイメージを持っていますか?
Kim オーストラリアには実は一回だけ行ったことがあるんですよ。知り合いも何人かいて、どこの国もアンダーグラウンドの部分って通じる部分が多いので、彼もそこを気に入ってくれたのではないかなと思っています。
——ちょっと大局的な話をするんですが、この20年の間に大きな変化はありましたか? 例えばインターネットとかは大きく変化していったと思うのですが。
Kim 音楽を作る上ではあまり変化はないですね、インターネットによってお客さんとの距離は近くなったのでそれは大歓迎なのですが。
——レーベルオーナーとしてはそこの変化はどうですか?
ジョルト 世界的には、洗練され狭くなってきたと思います。ただ一般的な売り上げっていうのは変化してきたと思います。インターネットが普及したこともありますし。大変なことですけど時代に沿ってチャレンジしないといけないと思っています。
——配信すらしないアーティストもいますが、そういう人が出てくると作り手としてはどう思われますか?
Kim 売り上げで生活しようとするとやはり大変だとは思うんですけど、僕は全然そんなことは考えていなくて……。それより多くのお客さんに聞いていただける方が良いとは思っていますね。
——ジョルトさんはレーベルオーナーとして実際に他のやり方も考えているとは思うのですが、そこについてはすでに取り組んでいるのでしょうか?
ジョルト やはりアーティストを尊重する事が一番大事ですね。デジタル配信などを好まないアーティストがいればその意向を尊重しています。自分のレーベルに関して言えばカルト的なファンも多いのでそういうのは別に気にしてはいないですし、デジタルダウンロードに関しては自分たちで独自のサービスも作っています。アーティストによってはそれだったら大丈夫という事で承諾してくれることもあります。