オリエント工業のドールで「GAGADOLL」を作るというのが面白いですし、
せっかく日本で作るんだから「ジャパン」という部分を打ち出したい

――クリエイティブ・ディレクションを手がけたPARTYさんと、タッグを組むことになった経緯は?

大澤瑞紀氏(以下、大澤氏) 実は、このプロジェクトで声をかけていただくまでPARTYさんの存在は知らなかったんです。ありがたいことに「GAGADOLL」の企画段階から「オリエント工業でドールを作ってもらったら面白いんじゃない?」ってプッシュしてくれたみたいで。プロジェクト自体も極秘だったから、最初にオファーをいただいた時も、モデルがレディー・ガガだというのは教えてもらえてなかったですね。

【インタビュー】あの「GAGADOLL」の制作を請け負ったオリエント工業に直撃。ガガとリアルドールを通して浮かび上がる、“ものづくり”の本質とは? feature1226_ladygaga-orient2

大澤瑞紀氏(ドールディレクター)

――PARTYさんからは3Dデザイナー(田中直美さん)の方も参加していますが、その方が起こした設計図を参考にして制作を進めていったのでしょうか? それとも、先ほどおっしゃられたようにオリエント工業さんのドールを元にデザインを調整していったのですか。

靍久氏 すごく参考になりましたよ。やっぱり写真で見るよりも立体になってるんで、デザインがあった方が特徴の捉え方も早かったですし。あとはCGっぽさを無くして人間に近づけるためのアレンジはしましたけど。

――全4体の「GAGADOLL」がありますが、それぞれのエピソードを聞かせてください。

【インタビュー】あの「GAGADOLL」の制作を請け負ったオリエント工業に直撃。ガガとリアルドールを通して浮かび上がる、“ものづくり”の本質とは? feature1226_ladygaga-gagadoll-5

左から:WHITE SUITS/TABLOID

【インタビュー】あの「GAGADOLL」の制作を請け負ったオリエント工業に直撃。ガガとリアルドールを通して浮かび上がる、“ものづくり”の本質とは? feature1226_ladygaga-gagadoll-4

左からJUMP SUITS/OIRAN

大澤氏 今回、衣装は3体分が届いて、ドールは4体完成していたんですね。余らせてしまうのは勿体ないので、ガガさん本人に見てもらう前に、ウチからも何か提案できないかと思って。そうしたら社内から「花魁がいいんじゃない?」ってアイデアが出たんです。そもそも、オリエント工業のドールで「GAGADOLL」を作るというのが面白いですし、せっかく日本で作るんだから「ジャパン」という部分を打ち出したい。ガガさん本人も「ぽっくり下駄」からインスパイアされたっていう厚底の靴を履いてるじゃないですか?

靍久氏 ウチのドールの最上級となると、やはり花魁とか太夫(遊女)になるんじゃないかと。結果として、本人は花魁の「GAGADOLL」を一番気に入ってくれたんですよ。あの衣装も自分で着てみて、頭にかんざしも挿してましたからね(笑)。YMOの『イエロー・マジック・オーケストラ』(78年)のジャケットなんて、まさにあんな感じでしたよ!

――『アートポップ』には立命館大学の北岡明佳教授による錯視アートも使用されていて、ある意味では日本の技術・叡智を結集した作品でもあると思います。今回の「GAGADOLL」プロジェクトを経て気づいたことや、最大の発見は何ですか?

靍久氏 リアルドール自体は世界中にありますけど、「日本発」なら性能が良いというか…将来アンドロイドが出てくるなら日本からだろうという期待もあったりするんですよね。だから、日本のリアルドールでガガさんを作った――というのが革新的だったんじゃないかな。

大澤氏 以前、ロボットメーカの社長から聞いた話ですけど、フランス人は日本がガンダムを作ってくれると本気で思っているぞって(笑)。

靍久氏 映画の『ブレードランナー』(82年)なんかでも、スラム街は秋葉原のパーツ・ショップみたいだったでしょ。文化的にも『鉄腕アトム』の時代から日本のロボットっていうのは注目されてますからね。75年頃に『等身大の恋人』というフランス映画があったんですけど、ドールが港から運ばれてくるシーンでも箱に「天地」、「こっちが上」とか日本語で書いてあったりして…(笑)。そんな時代からドール=日本ってイメージがあったんだろうなと。日本から来たからこそ価値があるっていう。

――すごい(笑)。ところでガガさんといえば、音楽以外にも俳優業やヘッドホンのデザインなど多岐にわたって活躍していますが、いちクリエイターとしてどんなところにインスパイアされますか?

靍久氏  やっぱり、人を喜ばせたり驚かせたりするっていう面では共通の部分はありますよね。ウチも現実的に「こういうものがあったら面白いんじゃないか」、「人が喜んでくれるんじゃないか?」という気持ちでやってるんで。それと、ガガさん本人に会ってみたら彼女左利きだったんですよ。僕も草野さんも左利きなんですけど、この右社会の中で必死に生きて来たんだな〜って、思いがけず共感させられたりして(笑)。

草野氏 『ミュージックステーション』に出演された時のメイクとか、パンダみたいなメイクとか、普段だったら人にはしないようなキャラクター的なメイクが面白いですよね。「GAGADOLL」でも再現できたら良かったんですが…。

靍久氏  常に新しいクリエイトなものを探求していますよね。僕は高校も大学もバンドをやっていたんですが、練習もしないで見せ方とかばっかり考えていて、よくギターの奴に怒られたんですけど(笑)。やっぱりトータル的なものだと思うんですよ。「見せる(魅せる)」というショービジネスの世界では、ファッションも、メイクも、音楽も、すべて一緒になって表現するってことだから。それはすごく共通するポイントだと思いましたね。

次ページ:3Dプリンタよりもっと斬新なものが出て来るかもしれないけど、それでも人の手には敵わないかもしれない