Interview:オリエント工業(ドール造形師 靍久暢行氏、ドールメイク 草野真希子氏、
ドールディレクター 大澤瑞紀氏

※一部〈ユニバーサル〉の「GAGADOLL」プロジェクト担当による返答

人形って一瞬の表情だけでも印象が決まっちゃうんですよね
そこを上手く捉えないと、「その人」ではなくなってしまう

――そもそも、「GAGADOLL」プロジェクトは誰の発案で、どのようにスタートしていったのでしょうか?

ユニバーサル担当者 そもそもはレディー・ガガのニュー・アルバムのプロモーション案の発注をPARTYが受けたのが発端です。プロジェクト開始当初はレディー・ガガの来日が未定だったこともあり、本人に代わって日本のファンと交流できる「分身」を作るのはどうか、というシンプルなアイディアがチーム内で出てきました。せっかく等身大のドールを作るのだから、「よりリアルに、よりハイクオリティに、より美しいもの」を目指すという方向性から、ここしかないと考えてオリエント工業さんに共同制作を依頼し、今回のプロジェクトがスタートしたのです。

――モデリング(型取り)はどうやって行ったのでしょう? 海外まで赴いたのでしょうか。

靍久暢行氏(以下、靍久氏) いえ、本人から直接型を取ったわけではないんですよ。コンピューター・グラフィックスのように、最初は3Dデータのスキャンを元に制作が進んでいきました。それをモデリング担当の人に立体へ起こしてもらったんですけど、どこか実在感のないゲーム・キャラクターみたいで…(苦笑)。ただ、ウチ(オリエント工業)のボディに合わせた大きさというのが前提だったので、出来上がったものをベースにガガさんの写真や素材を集めて、より人体的な骨格に落とし込んでいきましたね。

【インタビュー】あの「GAGADOLL」の制作を請け負ったオリエント工業に直撃。ガガとリアルドールを通して浮かび上がる、“ものづくり”の本質とは? feature1226_ladygaga-orient

靍久暢行氏(ドール造形師)

――「GAGADOLL」で使用されたシリコンというのも、普段制作されているドールとは違うスペシャルな素材なんでしょうか? 

靍久氏 素材は同じものです。ただし今回は骨伝導を使用したので、ドールの中身をくり抜いたり細工は施しましたけど。もちろん、表面のメイクや着色にはかなりこだわってます。

――ドールを等身大人間型試聴機にする…というアイディアはどうやって生まれたのですか? また、ガガさん本人のアイディアや意見はどこまで採用されていますか。

ユニバーサル担当者 ただレディー・ガガの分身であるGAGADOLLを作るだけではなく、胸の部分に骨伝導スピーカーを仕込んで音源を聞けるようにすることで「新しい試聴体験」が作れるのではないか、と考えました。これを体感するために多くのファン達にGAGADOLLをハグしてもらう、という交流方法までをデザインしたいと考え、このアウトプットに至ったのです。「リアルドールが自身の分身としてアルバムのプロモーションを行う」というアイディアについては、ガガ自身、セクシュアルなことへの挑戦的な姿勢やテクノロジーへの強い関心もあって、企画初期の段階からすんなり受けて入れて頂いたと聞いています。最終的な造形段階においては、ドールの顔立ちやスタイルに加えてガガの雰囲気をきっちり再現してほしい、ということを強くお願いされていました。

――世界的なビッグ・スターがモデルだったわけですが、外国人のドールを制作されたのは今回が初めてになるんでしょうか。

靍久氏 いや、ウチのラインナップの中にも外国人仕様のものは何体かあるんですけど、全っ然売れないんですよ(笑)。外国の方が買うだろうと思って作っても、向こうのお客さんも日本人のドールを買って行くんですよね。やっぱり「オリエンタル・ビューティー」じゃないと気に入らないみたいで、西洋人の顔は見飽きてるのかな(笑)。

――これまでのドールの造形と比べて、どのような点で苦労しましたか?

靍久氏 やっぱり、ガガさんは写真によって見た目が全然違うから…(笑)。見れば見るほど、どれを基準に合わせたら良いのかわからなかったですよね。今回は制作期間も10日程度とすごく短かったのですが、完成へと近づくに連れて「あ、なんか違うかも」と思わせるような新しい写真が次々に出てくるし。映像も研究して、ホントに締切日の朝ギリギリまでずーっと手直ししていましたよ。本当はある程度のスパンがないとドールを客観的に見られないんですが、とにかくやるだけやってみようと思ってね。

――12月1日(日)の記者会見では、ガガさん本人と一緒に4体の「GAGADOLL」が登場しましたけど、他にも何体か候補となったドールはあったのでしょうか。

靍久氏 いえ、あの4体だけです。メイクの段階で他のは残ってなかったんじゃない?

草野真希子氏(以下、草野氏) 普段のドール制作でやっているナチュラル・メイクとは全然違いましたし、ガガさん自身のメイクも変幻自在じゃないですか(笑)。だから実験的に顔の部分だけをいくつか作ってみたりはしました。“アプローズ”(『アートポップ』からのリード・シングル)のイメージ写真でも、絵の具を指で伸ばしたようなメイクがありましたよね。ああいうのもヒントにしながら、日夜試行錯誤してました。

【インタビュー】あの「GAGADOLL」の制作を請け負ったオリエント工業に直撃。ガガとリアルドールを通して浮かび上がる、“ものづくり”の本質とは? feature1226_ladygaga-orient-3

草野真希子氏(ドールメイク)

――スチール撮影の際は、実際のメイクアップ・アーティストも参加していましたよね。人間らしさを表現する秘訣はどこにあるのでしょうか?

草野氏 人間の場合は表情がコロコロは変わるので、その人独特の表情や印象がわかるんですけど、人形って一瞬の表情だけでも印象が決まっちゃうんですよね。そこを上手く捉えないと、「その人」ではなくなってしまう。だから、ちょっとした目の下の膨らみで優しい表情にしたりとか、そういう細かなポイントを繰り返し繰り返し直していくことで、ちょっとずつでもその人…というか「人間」に近づけています。あと、人間って長時間じっと見るのは難しいことが多いですけど、人形だと遠慮なく何十分でも何時間でも見ていられますよね。特に今回は、骨伝導で人々がドールに密着することも想定されたので、爪の甘皮まで描いてみたり、眼の淵の粘膜の色まで再現してみたり、かなり細密に描写をしています。

次ページ:オリエント工業のドールで「GAGADOLL」を作るというのが面白いですし、せっかく日本で作るんだから「ジャパン」という部分を打ち出したい