3Dプリンタよりもっと斬新なものが出て来るかもしれないけど、
それでも人の手には敵わないかもしれない

――初音ミクはちょっと違うかもしれませんが、木村拓哉さんのドラマ『安堂ロイド』や、マダム・タッソー東京の壇蜜さんフィギュアなどなど、「擬人化」が最近のトレンドとなっているような気もします。そのあたりは意識されていますか?

靍久氏  僕らにとっては昔からずーっとやってきたことなので、スタンスとしては何も変わってないんですよ。過去にも話題に取り上げられるタイミングが重なったことがありましたし、誰かしらタレントが紹介すると波紋になったりもするんですけど、ウチはブレずにやり続けてきてますからね。

――今後、3Dプリンタの普及で誰もがハイレベルなドールを作れる時代が来るような気がしています。3Dプリンタについてはどうお考えですか?

靍久氏 ウチも3Dプリンタを使用したドールを扱っているんですが、2次元の世界で「写真」が出てきた時と同じようなことだと思うんですよ。当時は風景画や肖像画を描く画家の誰もが仕事を奪われると危惧したでしょうが、実際にはそうならなかった。やっぱり「描く」っていう行為には気持ちとか表現する「想い」が込められるわけだから、写真を見るのと画家が描いたものを見るのとでは、入り込み方が違う。作者が何年もかけて心を込めた絵画というのは、じーっと夢中になって見ていられるけど、写真はある程度見たら飽きてしまったり……。それが、3Dの世界にもあると思うんですよね。機械ですごく精密に作られたものと、彫刻家が一から起こして着色したものを見比べたら、前者はすぐに飽きてしまうんじゃないかな。魂を込めて作られたものは、いつまでだって見ていられる。

――なるほど。

靍久氏 たとえば顔にしても、世界中にこれだけ色んな人々がいるのに、まったく同じ顔の人っていないじゃないですか? 両眼の間隔とかも1ミリ違えば表情はまるで違うわけで。(紙パックのお茶を手に取りながら)こういうプロダクトだったら同じものを作ってもそんなに変わらないし、ピストルのような工業製品は機械でも事足りると思うんですよ。でも、こと顔になると全然変わってくるんですよね。将来的には3Dプリンタよりもっと斬新なものが出て来るかもしれないけど、それでも人の手には敵わないかもしれない。

――たしかに、見る側にも作り手の想いって伝わりますよね。

靍久氏 昔、彫刻の先生から聞いた話があって、とある家族から亡くなった子どもの彫像を作ってくれと言われたらしいんです。で、その子の写真をいっぱい集めてもらって作ったらしいんですが、来客の方々はみんな「良く似てる」と絶賛した。でも、唯一その子の母親だけは「似てない」って言ったそうなんです。そして改めて作り直したら、最初に褒めた人達からは「似てない」って言われたのに、母親は涙を流して感謝してくれたんですって。どうして2回目の作品が認められたかというと、母親に一番好きな写真を選んでもらったそうなんですね。その写真は、明らかに他の写真と表情が違うんだと。おそらく、その子がお母さんにしか見せない表情をしていたんでしょう。その想いを込めて作ったことが、母親に伝わった。断片だけを捉えても、気持ちや想いは伝わらないんですよね。

――似顔絵とかも、瞬時に特徴を捉えるのは上手いですけど、表面的ですもんね。

靍久氏 だから、もし今回の「GAGADOLL」もガガさんに実際会ってから作っていたら仕上がりが全然違ったかもしれません。もっとクールでとんがっている人だと思ってたら、すごく優しかったし(笑)。でも、それが「人が作る」ってことだから。

大澤氏 ポーズ師の児玉(延之)くんも同じようなイメージだったらしくて。もし次回作ることがあったら、ガガさんのチャーミングな部分もポーズに取り入れたいと言ってましたね。1回自分のフィルターを通すのと、実際に本人に会うのとでは、動きとか行動まで変わってくるのかなと。
【インタビュー】あの「GAGADOLL」の制作を請け負ったオリエント工業に直撃。ガガとリアルドールを通して浮かび上がる、“ものづくり”の本質とは? feature1226_ladygaga-orient-2

――「3次元の未来」と言うと大袈裟かもしれませんが、「GAGADOLL」プロジェクトを経て今後オリエント工業さんがチャレンジしていきたいことは何ですか?

靍久氏 将来的にはアンドロイドが普通に歩いている時代がやって来ると思うんですけど、僕らが生きている間は難しいかもしれません(笑)。ただ、ウチの会社が全部をやることは不可能でも、僕らに賛同してくれたバイオテクノロジーの人だとか、ロボット技術者の人らが協力する“キッカケ”になるものを今世紀中に残せるかもしれない。そうしたら、2000年代の初頭でもこんなことをやっていたグループがあったんだ! といつか知ってもらえるかもしれないですよね。そのパイオニアになれたら嬉しいです。

草野氏 ずっと見てても飽きない、人間の女性よりもセクシーなドールを作ってみたいですね。

靍久氏 やっぱ人形も色気がないとね。

大澤氏 技術的に切り込んでいって新しいものを作るというよりは、ウチの会社ってちょっと「職人」っぽかったり芸術家肌な要素を求める部分が相当強いと思うんですよね。僕はそこがすごく魅力だとも思ってます。スタンスとしては「ど美術」ですよね。

靍久氏 ハンドメイドだからねえ。あんまり大きな会社にもしたくないし(笑)。

大澤氏 スタンスという意味でも。ウチらって、そんなに仕事が早くはないじゃないですか?

靍久氏 うん、まず「作る」ことが楽しいからやっているのであって。ぶっちゃけ出来上がったものに対してはあまり興味ないんですよ(笑)。作ってるプロセスが楽しいのであって、子どもがプラモデルを作って完成したら誰かにあげちゃうのと同じ。社長がどう思ってるのかは知らないけど(笑)。

大澤氏 直しもしつこくやってる気がするし、メイクの作業とか見ても引いたり離したりをずーっとやってるのって、もう完全にアーティストだと思うんですよ。造形屋さんだと「似せる」のが最終地点だったりするから単純にカタチをそのレベルまで持っていけば到達する。ただ、それは技術だけの問題ですよね。

靍久氏 たぶん意志が強いんだろうなと思って。「鼻っ柱が強い」ってよく言うけど、それは今回の「GAGADOLL」プロジェクトでも同じ。納期がめちゃくちゃ短いのに、ドールの中にガガさんの辿ってきた「歩み」も入れたいっていう欲求が出てきちゃったし…。

大澤氏 きっと「ゴール」ってないんですよね。草野さんとか見てても、納期さえ無ければずーっと作業してるだろうから(笑)。

靍久氏 ミュージシャンも同じだよね。常にワンランク上を目指しているというか…。これで完成、これ以上のものは出来ない! っていうことは、ホントはないと思うんだ。

【インタビュー】あの「GAGADOLL」の制作を請け負ったオリエント工業に直撃。ガガとリアルドールを通して浮かび上がる、“ものづくり”の本質とは? feature1226_ladygaga-jk

(interview&text by Kohei Ueno)

Program Information

「GAGADOLL」にも興味津々だけど、やっぱり動くガガ様も観たいッ!
レディー・ガガの<iTunes Festival 2013>ライブがWOWOWで観れるゾ!!

iTunes Festival 2013
2014.01.12(日)20:00
放送チャンネル:WOWOWライブ
【インタビュー】あの「GAGADOLL」の制作を請け負ったオリエント工業に直撃。ガガとリアルドールを通して浮かび上がる、“ものづくり”の本質とは? feature1226_ladygaga-itunesfes_2

【インタビュー】あの「GAGADOLL」の制作を請け負ったオリエント工業に直撃。ガガとリアルドールを通して浮かび上がる、“ものづくり”の本質とは? feature1226_ladygaga-itunesfes_1

豪華な出演者&ライブをリアルタイムで高画質ストリーミング配信を行ない、毎年大きな注目を浴びている<iTunes Festival>。2007年からスタートした、正にインターネット時代を象徴するロンドン発の音楽イベントで、今年も例に漏れず9月1日から30日間連続で開催されました。会場はカムデンにある歴史あるライブヴェニュー「ラウンドハウス」で、エルトン・ジョン、ジャスティン・ティンバーレイク、ジャック・ジョンソンら計60アーティストが出演。その錚々たる出演者の中でも特に注目が高まったのは、初日を飾ったレディー・ガガと最終日のケイティ・ペリー! 両者ともニュー・アルバム発表直前のライブだっただけに、新旧の代表曲を交えた気合いの入ったステージを華麗に繰り広げたことは言うまでもアリマセン。目前に迫った<グラミー賞>では、「MusiCare Persons of the Year」に選ばれたキャロル・キングを讃える授賞式前イベントに出演するガガ様。一方、<グラミー賞>にノミネートされているケイペリ嬢。全世界が注目するこの2大ディーヴァの最新ライブは必見!!
収録日:2013.09.01(日)、09.30(月)@イギリス・ロンドン ラウンドハウス

問い合わせ:0120-808-422(受付時間:9:00〜21:00)
※「Qeticを見た」とお伝えください

Release Information

2013.11.06世界最速発売!
Artist:LADY GAGA(レディー・ガガ)
Title:ART POP(アートポップ)
ユニバーサルミュージック
デラックス盤:CD+DVD/UICS-9140/¥2,980(tax incl.)
通常盤:CD/UICS-9139/¥2,300(tax incl.)
※初回生産限定盤は「特殊フォイル・ジャケット仕様」!