——石若さんが書いた曲で、とくに印象的だった曲をひとつあげるとしたら?
駿君の曲は全部好きですけど、なかでも“アンディ・アンド・パール・カムホーム”が一番好きですね。「こんな明るい曲を書くんだ」って驚きました。テレビ用に書いたのかもしれないけど(笑)。でも、そんななかに、独特なハーモニー感を持ってるし、私は思いつかないグルーヴだったりする。それがすごく面白くて、ピアノを弾いてて楽しかったですね。
——インプロヴィゼーションの曲が2曲入っているのも興味深いですね。
駿君が言ったんですよ。「インプロ入れよう」って。以前、駿君のシンバルレガートを聴いて「シルクみたいにレガートをするね」って言ったことがあったんですけど、そしたら駿君が「俺は“シルク駿”だ」って言い出して。それで今回「どんな風にインプロする?」って話をした時に、駿君が「1曲はシルクで行く」って(笑)。そして、もう一曲は「現代音楽みたいな感じでやろう」ってことになったんです」
——「シルク駿」ってカッコいいですね(笑)。シルクに対して、桑原さんはどんなイメージで弾いたんですか?
何だろう……サテン?(笑)。
——「サテンあい」(笑)、エレガントな感じで良いですね。でも、即興演奏となると、より気が抜けないのでは?
たしかにいつも以上に耳は澄まさないといけないかもしれないですね。駿君は色彩豊かなドラムなので、ピアノでその色彩をどういう風に出していくのか、常に考えさせられますね。
——さらに今回、ボーナストラックがユニークです。マッシヴ・アタック“サタデイ・カム・スロウ”とマルーン5“サンデイ・モーニング“。土曜日と日曜日の曲ですね。
はい。『サタデーステーション』『サンデーステーション』にちなんで。土曜日と日曜日がタイトルに入っている曲から、純粋に良い曲を選んで、さらにピアノとの相性の良さとか、二人でやった時の面白さ、その曲をやる意味とか、いろいろ考えて選びました。カヴァーするにあたって、「なんとなく好きだから」選ぶというのは許されないと思うので。
——曲の雰囲気が対照的ですね。
“サタデイ・カム・スロウ”は以前から好きな曲で、この空気感はピアノとドラムでやっても絶対合うと思ったんです。私、わざとテーマを倍にして弾いているんですけど、そうするとイスラエルのジャズみたいな感じになるんですよね。そういう変化がつけられるのも面白いと思いました。“サンデイ・モーニング”は、「ラフにセッションしている曲をアルバムに入れたいな」と思って選びました。メロディーだけ確認して「せーの!」でやっちゃうみたいな、アンコール曲みたいな感じですね。ボーナストラックって、私にとってはアンコールっていう感覚なんです。
——なるほど。それにしても、ピアノとドラムのデュオって珍しいと思うのですが、すごく音の広がりを感じさせるアルバムになりましたね。
「もっと音色があったらいいのにね」とか絶対言われたくなかったんですよね。なので、「二人でもオーケストラが出来るんだよ」っていう風なサウンドにしたかったんです。ピアノとベースのデュオとか、ピアノと管のデュオとかだったら、もうちょっと歌う曲とかが多かったりするかもしれないですけど、ピアノは鍵盤楽器だし、弦楽器だし、打楽器なので、リズムの部分でドラムと一緒に追い打ちをかけていける。そういうところもピアノとドラムのデュオの面白いと思います。
——曲によっては二人でスパーリングしているみたいでした。
ああ、それも無意識にやろうとしていたんだと思います。リズムの面白さっていうのは、音楽のなかで一番大事だと私は思ってるので。歌えるメロディーとリズムの面白さっていうのは平行してあるべきで、そこは駿君とやってとてもおもしろかったです。
——ストレスというより、緊張せずにできるってことでしょうか?
そう、まったく緊張せずに、いい塩梅で相手に委ねることもできるし、「ここは私がしっかり引っぱって行こう」って思う瞬間もあったりするんです。お互いに受け入れたり無視したり、駆け引きしながら演奏できる。その駆け引きができたらデュオってめちゃくちゃ楽しいものなので。観客として、演奏してる姿を見てても面白いと思いますね。
——ちなみに、今後、二人でのライブの予定は?
今のところ決まってはいませんが、是非やりたいです。向き合ってライブしたいですね。シルク駿とサテンあいで(笑)。
text & interview by村尾泰郎