ザ・ビッグ・ムーン参加!最新作『I’m Not Your Man』で遂げた変貌

ロンドン・インディの新世代、マリカ・ハックマン。「ロック・サウンド」の最新作で切り開いた新章の幕開け music_marikahackman_2-700x1050

しかし、マリカ・ハックマンはファースト・アルバムで確立した立場に安住せず、「ニュー・フォーク」という枠組に押し込められることを嫌って、貪欲に自身の音楽性を進化させる道を選んだ。2016年、彼女はデビュー直後から所属していた〈ダーティ・ヒット〉と袂を分かつことに。イギリスでは〈AMF〉、アメリカでは〈サブ・ポップ(Sub Pop)〉を新たな所属レーベルとして、セカンド・アルバムの製作に着手することになった。2016年末にクリスマスEP『ワンダーランド(Wonderland)』のリリースを挟んで、マリカ・ハックマンの新章幕開けを告げる作品として届けられたのが、『アイム・ノット・ユア・マン(I’m Not Your Man)』というわけだ。

前述したように、チャーリー・アンドリューのプロデュースの下、ザ・ビッグ・ムーンとの全面的なコラボレーションによってロック・ミュージックへと大胆なメタモルフォーゼを果たした同作。レディオヘッド(Radiohead)の“マイ・アイアン・ラング”を連想せずにはいられないリード・シングル“ボーイフレンド(Boyfriend)”を皮切りに、ザ・ピクシーズ(The Pixies)を髣髴させるクワイエット/ラウドな“グッド・インテンションズ(Good Intentions)”、まるでPJハーヴェイ(PJ Harvey)のような“マイ・ラヴァー・シンディ”など、グランジ前夜/ブリット・ポップ前夜の90年代初頭を思わせるバンド・サウンドが展開される。バンドのダイナミズムを基調としつつも、ファーストにも通じるアトモスフェリックな音響処理が細部にまで行き届き、ただ衝動的なだけではないギター・ロックとなっている点において、本作と最も近いヴァイヴを持つ作品はレディオヘッドの『ザ・ベンズ』と言えるだろう。

Marika Hackman – Boyfriend

Marika Hackman – Good Intentions

また、女性やLGBTといったジェンダーの多様性が広く認められるようになった現代ならではの人間関係を描写する歌詞も、実にユニークで魅力的だ。例えば“ボーイフレンド”は、男友達の彼女と友情を超えた夜を過ごしたにも関わらず、「女性だから安心だ」と思い込んで関係に気付かないままでいる男の愚鈍さを揶揄した一曲。音楽的には90年代初頭を髣髴させる本作だが、これはただの懐古趣味ではなく、しっかりと今様の時代性を反映させた作品なのである。

ロンドンのインディ・シーンは、今まさに地殻変動の時期を迎えようとしている。初期からイギリス中の多くの著名人、同業ミュージシャンの寵愛と支援を受け、キャリアを重ねてきたマリカ・ハックマン。その彼女が、新章の幕開けに新鋭ザ・ビッグ・ムーンとのコラボレーションによるロック・サウンドを選んだ事実は、今のロンドンで起きている重大な変化の証左と言っていいだろう。本作『アイム・ノット・ユア・マン』を聴くと、マリカ・ハックマン自身の行く末はもちろん、ロンドン・インディの未来にも明るい希望と大いなる期待を抱かずにはいられない。

RELEASE INFORMATION

I’m Not Your Man

ロンドン・インディの新世代、マリカ・ハックマン。「ロック・サウンド」の最新作で切り開いた新章の幕開け music_marikahackman_4-700x700

2017.06.21(水)
マリカ・ハックマン
HSU-10138
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¥2,100(+tax)[amazonjs asin=”B06Y5VKSLZ” locale=”JP” title=”アイム・ノット・ユア・マン”]

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text by青山晃大