今注目のレーベル〈Dirty Hit〉から『We Slept At Last』リリース

ロンドン・インディの新世代、マリカ・ハックマン。「ロック・サウンド」の最新作で切り開いた新章の幕開け music_marikahackman_3-700x467

元々はイギリス南部のハンプシャー生まれだった彼女は、2012年から本格的な音楽活動をスタートさせた。はじめに、彼女の音楽はジョニー・フリンによって見出され、彼のプロデュースの下、デビュー・シングル“ユー・カム・ダウン(You Come Down)”を発表。さらに同曲のパフォーマンス映像がイギリスを代表するファッション・ブランド「バーバリー」のスタッフの目にとまり、デビューしたてにも関わらず「バーバリー」の2012年春夏のアイウェア・キャンペーンのモデルに抜擢されることになる。それには、十代前半の学生時代から友人だったというモデル/女優のカーラ・デルヴィーニュ(2011年に「バーバリー」のキャンペーンに登場した)の推薦もあったようだ。ただ、著名ブランドの広告塔になるという経験は彼女にとって必ずしも良い思い出ではなかったようで、当時を振り返って「ミュージシャンがああいった形で晒されるのは、間違っている。」という趣旨の発言をしている。

Marika Hackman – You Come Down

ともあれ、そのキャンペーンによって彼女の存在と音楽が多くの人に知られるようになったのは間違いない。The 1975やウルフ・アリスらを擁し、今最も重要なUKレーベルである〈ダーティ・ヒット(Dirty Hit)〉と契約を交わして、彼女は2013年1月に初のEP『フリー・カバーズ(Free Covers)』を発表。同作はウォーペイント(Warpaint)、ニルヴァーナ(Nirvana)、ニコ、ザ・ナイフ(The Knife)、ダスティ・スプリングフィールド(Dusty Springfield)という時代もジャンルも様々なアーティストの楽曲をカバーした、彼女の音楽的バックグラウンドを開陳するような一枚だった。

続く翌2月には、早くもオリジナル曲7曲を収録したミニ・アルバム『ザット・アイアン・テイスト(That Iron Taste)』をリリース。同作は、2012年にマーキュリー・プライズを受賞したアルト・ジェイ(alt-J)の『アン・オーサム・ウェイヴ』等を手掛けたチャーリー・アンドリューがプロデュースを務めた。それから最新作『アイム・ノット・ユア・マン』に至るまで、彼女の作品は基本的に彼がプロデューサーとして参加しており、蜜月の関係性を築いている。

2013年、マリカ・ハックマンはローラ・マーリング(Laura Marling)のヨーロッパ・ツアーにオープニング・アクトとして帯同。ロンドンのニュー・フォーク・シーンを象徴する存在であるローラ・マーリングとの共演は、彼女にとっても大いに刺激となったのだろう。その後、2013年12月に『シュガー・ブラインド(Sugar Blind)』、2014年4月に『デフ・ヒート(Deaf Heat)』と、EPをコンスタントにリリースしキャリアを着実に重ねていった。

2015年2月には、ついにファースト・フル・アルバム『ウィ・スレプト・アット・ラスト(We Slept At Last)』を発表。同作は、ノア・アンド・ザ・ホエール(Noah & The Whale)やローラ・マーリングらに端を発する、ロンドンのニュー・フォーク/インディ・フォークの血脈を受け継ぎつつ、現代音楽やポスト・クラシカルの実験にも手を伸ばした、野心的なフォーク・レコードとなった。

アコースティック・ギターの生々しい爪弾きと、自然のメタファーや戯曲の引用が散りばめられたメランコリックな歌詞。そこにアンビエントなサウンド・エフェクトや音響処理が加わり、重層的な世界観が丁寧に形作られていく。このアルバムはUKチャート60位を記録し、批評的にも高評価を受けた。2015年の年末には、レディング出身の期待の新鋭、サンダラ・カルマ(Sundara Karma)の楽曲“プリズンズ・トゥ・ピュリファイ(Prisons to Purify)”にもヴォーカルとして参加。英国中の同業者から愛される「ミュージシャンズ・ミュージシャン」としての信頼も確たるものとしている。