——4人での最初のリハーサルはどんな感じでした?
H 不思議なことに、これが、かなりうまくいったんだよ。何も傑作を書き上げたってわけじゃないけど、「わあ、7年じゃなくて7カ月ぶりみたいだ」と感じたのを覚えてる。とにかく最初から、ドラムがあって、ベースがあって、ギターがあって、ヨーナスの声があって、ミューの音が鳴っていたんだ(笑)。当然のことなんだろうけど、どういう結果になるか想像がつかなかったんだよね。だから全員がほっとしたと思う。「うん、だよね、これが僕らの音だ」ってしっくり来たから。特に無理をしたわけじゃないし、逆に努力する必要なんかなかった。「そうそう、これこれ!」みたいな。もちろんその後本格的に曲作り始めて、いい曲を書かなくちゃいけなかったわけだけど、ラッキーにもそれが実現したのさ。
——7年間ほとんどベースには触れなかったと、過去のインタヴュー記事で読んだんですが……。
H そうなんだ! もうひとつのバンドではギターを弾いていて、ちょっとベースから距離を置きたかったんだよね。でも、バンドにいなかったのと同じで、ベースを長年弾いていなかったからこそ、今すごくエキサイティングに感じられるんだ。改めてベースって楽器と恋に落ちた気がする。以前はちょっとばかり飽きていたところがあるんだよね。物足りなく感じて。でも今の僕には、バンドにおけるベースの音の重要性が分かる。バンドのエネルギーのカギでもあって、ある意味、バンドのグルーヴでもあるよね。バンドを前へ前へと駆り立てるような役割を担っていて、うん、もう二度とギターには触れないよ(笑)。
——ミューのメンバーは結成以来ずっとほかの人とプレイしたことがなかったわけですが、ここにきてヨハンはザ・ストーム、ヨーナスはアパラチックの一員としても活動しました。そういう経験を経て、ミューの素晴らしさを再認識したところもあるんじゃないですか?
H まさにそうだね。僕らが一緒に育ったことも、ミューとしてほかと切り離された環境で音楽作りをしてきたことも素晴らしいし、だからこそ独自のサウンドを築き上げられたわけで、結成から最初の6〜7年の体験は非常に重要だったと思う。でも、一旦自分たちらしさを確立してからは、ほかの枠組みでプレイすることで得られることがたくさんある。より優れたソングライターに、より優れたアレンジャーに、より優れたプレイヤーになれるし、ミューに対して客観的な視点を持てる。そしてバンドの外で得た体験をミューに反映させて、バンドを進化させられるんだ。だから、みんながサイド・プロジェクトをやればいいと思ってるよ。客観性って音楽作りにおいて本当に大切だし、こんな風に長い間バンドの外に身を置いてみて、その結果得たことを新作に反映できたと思うんだ。何が有効で、何がそうじゃないか分かるんだよ。ヨーナスもアパラチックで素晴らしいミュージシャンたちとコラボして、多くを学んだはずだしね。
J アパラチックでの活動で何に驚いたかって、ファースト・アルバムを僅か9日間で完成させたんだよ。レコーディングとミックスを9日で終えたんだ。しかもスキー旅行のついでにね。日中はスキーをして、夜はレコーディングをして。それだけの時間に凝縮できるなんて、信じられなかった。それが可能だってことを知ったのは、大きな収穫だったよ。でも確かに、ひとつのプロジェクトに自分の全てを注ぎ込もうとすると、どこかで無理が生じて、そこに当てはまらないものが出てくる。このアルバムはそういう意味でも素晴らしくて、全員がミューはどういうバンドなのか理解していたんだ。だってバンドはメンバーそれぞれとは別個の、独立した存在だからね。僕ら個人のエゴは捨てて、4人一緒にバンドにとってベストなことをやるのさ。で、バンドでは消化できないアイデアがあれば、ほかのプロジェクトを設けて消化したらいいんだよ。
H うん。ヨーナスが言う通り、何もかもひとつのプロジェクトに押し込もうとしても、絶対に消化し切れないし、それを消化する方法がないと、フラストレーションを抱いてバンド内に良くないヴァイブが生まれる。課外プロジェクトを持つことで、バンド活動を円滑に進められる環境が生まれるんだ。よりハッピーな、居心地いいバンドになるし、それって重要だからね。
——この『+−』は非常に多彩で、ミュー史上最も直球の曲があるかと思えば、最も複雑な曲もありますが、どんなヴィジョンを抱いて取り掛かったんですか? 全体像があったんでしょうか。それとも曲単位で捉えていた?
J 僕らは複数の曲を同時進行させていたんだけど、どっちかっていうと、それぞれの曲が、その曲にとって自然な形でポテンシャルを全うできるよう心掛けた。例えばここには、これまでで一番長い曲もあって、それは決して敷居が低い曲とは呼べないんだけど、その一方でものすごくシンプルな曲もあって、うん、すごく多彩だよね。それは意図したことだよ。僕らが出来に満足できる、色んな曲のコレクションにしたかった。1枚のアルバムとしてのコンセプトにこだわるんじゃなくて。もちろん今後またコンセプチュアルな作品を作る可能性もあるけど、今回はこういうアルバムを作るべきだと感じたんだ。
『+−』ジャケット