——コペンハーゲンでレコーディングをしたのも久しぶりですよね。それはいい影響を与えましたか? それとも居心地が良すぎたとか?

J もしかしたら、ちょっと居心地が良すぎたかもね(笑)。

H うん。いい部分とそうじゃない部分があるよね。今の僕らの人生は昔とは少し違って、3人は子持ちだから、このアルバムは間違いなく子供に合わせたスケジュールで作った。つまり9時から5時までってこと。それも時間がかかった理由のひとつで、集中できないところがあるんだけど、その一方で、毎日家族のもとに帰って普通の生活ができた。それって大切なことだろう? もちろんこの先また海外でレコーディングすることもあるだろうし、集中してスピーディーにレコーディングするには、そのほうがいいのかもしれない。

J とにかく、常に学ぶことがあるんだよ。海外でアルバムを作るのも大変なプロセスで、長い間故郷から離れて、何カ月も友達に会わずに過ごすなんて、おかしな生活だよね。そんな人生を送る人ってそうそういるもんじゃない。やっぱり消耗するし、そういう生活に対処する術を身に付けなくちゃいけない。だから今後は作業を分散させるのがいいんだろうね。長期にわたって曲作りをして、また長期にわたってレコーディングをして……という日々が続くと、世界から切り離されたような気分になる。自分たちだけで洞窟で暮らしているかのような。かと思えば、アルバムが完成すると今度はツアーで、毎日大勢の人の前でプレイするという全く逆の生活が待っている。すごく極端なんだよね。でも今回はレコーディング中にツアーをすることで、世界との接点を保てた気がする。そうしないと本当に不穏な空気が流れ始めるから!

H うん。色んなやり方をミックスしたいんだ。例えば、来週新曲をレコーディングするんだよ。映画のための曲なんだけど、こんな風にニュー・アルバムの発表を前にして、ほかのプロジェクトのために新しい曲を作るというのは、これまでやったことがない。そういうスタンスを取り入れて活動するべきだと思う。もっとフレキシブルにね。そうやって刺激を与えることでバンドにもいい効果があるし、スタジオに戻るのを楽しみにしてるよ。

J 僕もだ。

——それは地元の映画監督の作品に提供する曲なんですか?

H かなり極秘なプロジェクトだから詳しくは話せないんだ。でも素晴らしい曲だよ。

——アルバム・タイトルは誰の案だったんですか?

J 今回は短いタイトルにしたいってことだけは、最初から分かってたんだ。前作のタイトルはやたら長かっただけに、今度は1文字だけとか、とにかく短くしようって。でも元を正せば、エムエムパリのマティアスの感想がきっかけなんだ。彼は一番最初にアルバムを聴いた人のひとりだったから。っていうか、当時はまだ完成してなかったんだけど、マティアスは「電池みたいなアルバムだね」と言ったんだよ。恐らくそれは、“エネルギーを取り戻した”というニュアンスだったんだと思うけど、そこからアイデアが膨らんだのさ。電池、+極と−極、対極にあるものが引き合う……という具合に。このアルバムにぴったりだと思った。すごく多様なアルバムで、どの曲も行けるところまで、極限まで掘り下げられたと感じるしね。それにもちろん、シンプルなタイトルでもある。

H うん。『+−』って提案された時、すぐに気に入ったよ。僕らの場合、ややこしいタイトルが多くて、すぐには呑みこめないからね。「えっと……なんだっけ?」みたいな(笑)。

J 「凧(kite)がなに?」ってね(笑)。

H その通り(笑)。好きになれるまでに時間がかかるんだよ。でも今回は、アルバムそのものも即効性が高いという点でタイトルと合致しているし、見た目もクールだよね。あと、インターネットで検索できないっていう話も訊いた。それも僕ららしいよね。

J うん。

H とにかくいいタイトルだと思うし、興味を持ってもらえる。ありきたりなタイトルじゃないから、「どういう意味なんだろ?」って関心を引くよね。タイトルってそうあるべきなんだよ。

——歌詞についてはどうでしょう? 前作からよりパーソナルな題材を扱うようになったわけですが、今回もどうやらその路線の延長上にありそうですよね。

J そうだね。でも色々あって、今回は従来より明瞭で包み隠さない歌詞を書きたかったんだ。みんなでもそう話していたんだよ。でも少し書いた時点で読み返してみて、「これは直截的過ぎてミューっぽくない」と感じた。なんだか告白調に寄り過ぎるように思ったんだ。それはミューには適していなと思うし、バンドの本質から離れ過ぎたような気がして、結局また書き直したのさ。僕らの場合、どのアルバムにも何曲かすごく明快で率直な内容の曲があるんだけど、リスナーが好きなように曲を自分のものにする余地を残しておきたいんだよね。そうすれば曲の意味が、当初込めた意味に捉われずに、さらに広がるように思うんだ。リスナーそれぞれの心の中で曲がどんどん成長するような気がする。僕にとって昔からそれはすごく重要なことで、「これはこういう意味の曲」と言わせたくないのさ。だから今回もいい感じのミクスチュアになったと思うんだけど、確かに、かなりストレートに物語を伝えている曲もあるね。

——エンディングもいつも独特で、ハッピー・エンドなのかどうかはっきりしない、相反する感情が入り混じった状況で終わります。

J うん。はっきりした意味は分からないシンボみたいなものって有効だと思うんだ。意味が分からなくても、何かを伝えているような気がする。あの『2001年宇宙の旅』に登場するモノリスがいい例で、推測はできるけど最後に明瞭な答えが得られるわけじゃない。でも潜在意識のレベルで何かを感じる。僕らも、音楽を通じてそういうことを表現できたらと願っているんだ。

Mew – “Witness”

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