スロウダイヴのレイチェル・ゴスウェル(ヴォーカル、ギター)、エディターズのジャスティン・ロッキー(ギター)、モグワイのスチュアート・ブレイスウェイト(ギター)、そして映像作家でジャスティンの兄弟であるジェイムスの4人により結成されたバンド、マイナー・ビクトリーズがファースト・アルバム『マイナー・ビクトリーズ』をリリースした。本作は、レイチェルとジャスティンを中心に制作されたデモに、スチュアートがギターをオーヴァーダビングしていく、というプロセスを経て完成したもの。レコーディングはグラスゴーにておこなわれたが、それ以外の作業はEメールでのファイルのやり取りが中心だったという。そのためだろうか、個性の強いメンバーが集まっているにもかかわらず、どの楽曲からもメンバーの「エゴ」のようなものは一切見当たらない。レイチェル、ジャスティン、そしてスチュアートそれぞれの持ち味が、バランス良く配合されているのである。

奇しくもオバマ米大統領が広島平和公園で献花した直後、「核の恐怖」をテーマにしたマーク・カズンズ監督によるドキュメンタリー『Atomic: Living In Dread and Promise』(昨年8月にBCCにて放送)のサウンドトラックである『アトミック』をひっさげ、モグワイのメンバーとして来日したスチュアート・ブレイスウェイト。彼に、マイナー・ビクトリーズ結成の経緯やアルバム制作の裏話、そしてモグワイの、今回の非常に画期的な試みについても聞いた。

Minor Victories – Folk Arp

Interview:Minor Victories(Stuart Braithwaite)

ーーとても豪華なメンツですが、どのような経緯で結成に至ったのかを最初にお聞かせください。

スチュアート・ブレイスウェイト(以下、スチュアート) 最初はジャスティンとレイチェルが、二人で何か音源を制作していたのだと思う。それで、「ギターを誰かに弾いてほしいね」ってことになり、僕のことをレイチェルが推してくれたらしい。それで、彼らに呼ばれてスタジオに行き、完成途中の音源を聞かせてもらって……っていうような感じで、すごく自然な形で進んでいったよ。それからは、送られてきた音源にどんどんギターを足していたら、いつの間にかアルバム1枚分になっていたんだ(笑)。

ーージャスティンとレイチェルからデモ音源を聞かされた時は、どんな印象を持ちました?

スチュアート とてもよかったよ。元々ジャスティンはスタジオワークに長けているから、デモといっても本チャンのクオリティとさして違いがなかったんだよね。それに、人間的にも二人のことは大好きだから、一緒に作品作りができて嬉しかったし楽しかったよ。

ーー実際に、バンドの中でどんな風に貢献できると思いました?

スチュアート 実を言うと、最初に聞かされた段階ですでにギターがたーっくさん入っていたんだよね(笑)。だから、「何したらいいの、俺?」って感じではあった。まあ、その上からさらに(ギターを)重ねたんだけどさ。

ーー(笑)。どの曲も、レイチェル、ジャスティン、そしてスチュアートの良さがバランス良く散りばめられているなと思いました。ギターに関しては、モグワイでのアプローチと同じでしたか? それとも意識的に変えた?

スチュアート やっぱり、モグワイと全く同じ音になっちゃうのも……って思ったから、モグワイでは使ったことのないエフェクターもいろいろ試してみたよ。例えば、えーっと、BOSSのGuitar Synth(BOSS SY-300?)とか。あとは……ちょっと今は思い出せないんだけど(笑)。アプローチに関しては、特に頭で考えていたわけじゃなくて、思いついたフレーズをそのまま弾いただけだよ。僕以外の人が書いている楽曲だし、そもそもモグワイとは違うものになると思ったからね。

ーーなるほど。それでも一聴して「スチュアートのギターだな」ってわかるのは何故なんでしょうね。自分ではどう思われます?

スチュアート あ、ほんとに? なんでだろう。やっぱり、お気に入りのペダル・エフェクターとなると、結局いつものディレイとディストーションになっちゃうからかなあ。あははは(笑)。

ーーサウンドももちろんなんですけど、フレージングにもスチュアートならではのクセというか、美学がありますよね。

スチュアート わあ、ありがとう。そう言ってもらえるのはすごく嬉しいな。確かに、自分なりのスタイルを持っている人のプレイは聴いていてすぐわかるよね。それはギターに限らず、ピアノでもドラムでもそうだと思うけど。

ーーところで、スロウダイヴとエディターズのことは、どんなふうに思っていました?

スチュアート もちろん、どちらもすごくいいバンドだと思うよ。ただ、マイナー・ビクトリーズに関しては、それぞれのバンドからメンバーが集まって……というよりは、一個人が集まってバンドになったという印象なんだよね。例えばレイチェルが、スロウダイヴではどのくらい歌詞を書いているのか僕は知らないのだけど、このバンドで彼女はほとんどすべての歌詞を担当している。そこでのレイチェルは、「スロウダイヴのレイチェル」ではなく、個人としてのレイチェルがよく表れていると思うんだ。

ーー個人としてのレイチェルは、どんな印象?

スチュアート 彼女はとにかく、情熱的な人だよ。バンドに関しても、他のことすべてに関しても。勢いがあるというか。あと、すべてを把握していないと気が済まない人で、それってモグワイのメンバーにはなかなかない資質だったりする(笑)。とはいえ、基本的にはすごく気さくな人だから、一緒に作業する上ではとても楽しかったのだけどね。

ーーもう一人のメンバーであり、ジャスティンと兄弟のジェイムス・ロッキーは、このバンドでは主に映像制作を担当しています。彼が手がけた“A Hundred Ropes”のPVでは、日本のサムライが登場しますが、これはどんなアイデアから生まれたもの?

スチュアート そういう映像を作るっていう話は聞いていたけど、僕自身はあまり映像には関わっていないんだ。あれ、日本のサムライっていうよりは「イングリッシュ・サムライ」って感じだよね(笑)。でも、ジェイムスは黒澤明の大ファンらしく、それは映像からも伝わってくるよね、僕もクロサワは大好きだよ。

Minor Victories – A Hundred Ropes

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