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PR Presented by Sony Music Records

宇多田ヒカルが初めてプロデュースを手がけるソロ・アーティストという事実は確かにキャッチーだ。だが、それ以上にレーベル〈Tokyo Recordings〉の代表として、アレンジ、プロデュースワークというバックヤードの仕事でオリジナリティを発現してきた彼が、表に立ち自身の言葉を歌う、そこに至るパラダイム・シフトにこそ、最大の興味があった。

すでに配信で大きな話題を呼んだ“Lonely One feat. 宇多田ヒカル”の衝撃を体験した我々ではあるけれど、アルバム・スケールで展開する小袋成彬が「歌わざるを得なかった」源泉に触れるとき、そもそも表現とは誰にとっての何だったのか? にまで思いが及ぶ。アルバム『分離派の夏』に対する感情の揺れはリスナー各々に委ねるとして、今回は主に小袋成彬が、なぜ「歌わざるを得なかった」のかに軸を置いて話を訊いた。

小袋成彬 1stアルバム「分離派の夏」ティザー映像

Interview:小袋成彬

——小袋さんがこの作品を作らざるを得なかったことにはいくつかのきっかけがあると思うのですが、どういうことが大きかったですか?

なんでしょうね……なんだろうな。色々あるんですけど、もともと歌は得意だったんで、歌いたいことをずっと探してたんです。で、何を歌いたいんだろうっていうのがわかんないまま、ずっと来たんですけど、歌いたいことを探してたことが間違いというか、歌わざるを得ないことを発見したので、前に立って歌う行為に至りましたね。だから歌いたいことを探してる間はそれこそプロデュース業をしていて、誰かの作品を編曲するとか、あるいは作詞作曲に携わったりとかもしたんですが、その中で僕の歌わなきゃいけないことを見つけていったという作業です。そういう緩やかな流れがあったっていう感じですね。

——歌うことを目指してる人とはまた全然違うモチベーションというか。

そうですね。ま、歌じゃなくてもいいと思ってますからね。言葉っていうのは社会通念として、人間がコミュニケーションするために生まれたものなんで社会が前提になっているし、そういうものは排除できないし。後は、その音楽じゃなきゃいけないっていうのも、僕、萩原朔太郎の『詩の原理』って研究成果みたいな本が好きで。「音楽はリズムと旋律がないと成り立たない」と解釈をしていて、ほんと、そうだなって思うので。自分から湧き上がったものが言葉とか絵画ではなく、リズムと旋律があるというものが「歌わなきゃいけないもの」だと思って。昔の嫌な思い出とか思い出した時に、それを紛らわすためにちょっとフンフンフンとか、詞にもならないようなものを歌うっていうのが非常に音楽的だと思うんで、そういうものを積んでいった感じですね。

——資料の中には結構強い言葉で、ニーズに対する最適解を生み出すことをやってる場合じゃないんじゃないか?という、ちょっと憤りというか閉塞感を表明していますね。

それはありますね。僕はなんでなんのためにもならないような作品、誰にも根付いてないようなものを世間に出さなきゃいけないんだろう?ってすごく思ってたんですね。全てのアーティストがそうではないと思いますけど、そういうものが目について多くなって来たような気はしてたんですけどね。

——それって皮肉なことでもありますよね。自分の作風が知られて、スキルが上がれば上がるほど仕事は来るわけじゃないですか。

嫌じゃないんですけど、中途半端なのはあんま好きじゃないんですよね。売れる作品だったら売れる作品を作ってくれって言われたい。そこに「いや実はアーティスト性がこうなんで、こういうものも活かしつつ」とか言われても「もういいや」ってなっちゃうんですね。

——その「もういいや」っていうことの反証っていうか、自分はこうだってことを実証しようと思ったら自分の作品を作るしかないと。

そうです。そういうことですね。

——何かを目指すということが小袋さんの中ではそもそもしっくり来てなかった?

それはありますね。この人生ずっとそうでしたね。何かを目指すとか口では言うんですけどね。自分のどこかで「それは違うだろ」と思ってるのはありましたね。

——でも仕事をすれば生きていく上での対価はある程度得れるわけじゃないですか。

日雇いの仕事も結構やってたり、いろんなバイトをやったんですよ。それで「死にはしないな」ってことはよくわかったんで。なんかあんまり興味がなかったんですね。稼いだ先のいい車も興味ないし。お金というものの概念が頭の中から消えちゃいましたね。その辺りから。

——そのタイミングと宇多田ヒカルさんの“ともだち with 小袋成彬”での共演は、近い時期だったんですか?

うーん、でもほんとに数珠繋ぎのようなタイミングで。宇多田さんのディレクターの沖田さんからオファーを頂いた時は、その日がまさに他のプロデュースワークのトラックダウンで、「納品」ってなった日なんですよ。それから1ヶ月仕事の予定なんにもなくて。「あ、プロデュースワークこれで金輪際いいかな」と思い始めてた頃にちょうどその電話が鳴ったんです。

——すごいですね(笑)。一日違っててもちょっと違う心境かもしれないですね。

そうですね。だってメールきたの夜中の12時半とかで。新手のスパムメールだと思ったんですけど、電話番号書いてあったんで電話したんです。絶対こんな時間にメールくるぐらいだったら電話出るだろうと思って、そしたら嘘じゃなくて。「ああ、なんか僕の知らない超常的な何かが俺に歌えって言ってる」ような、啓示じゃないけどゾワっとしたものを受けましたけどね。

——「ともだち」って、今、“Lonely one”を聴くと、全部繋がってるなと思うわけです。

そうですね。繋がってると思いますね。

【インタビュー】小袋成彬はなぜ “歌わざるを得なかった”のか? interview180322_nariakiobukuro_1
Lonely One feat. 宇多田ヒカル

——宇多田さんのアルバムに“荒野の狼”が入ってることも小袋さんと共演してなかったら多分……。

そうそう。僕が名付けたわけじゃないけど、会話の中で曲名決まりましたからね。

——宇多田さんと一緒に作品を作った頃の小袋さんの気持ちの動きは?

日本だと、単純に作編曲までする人ってあんまりいなくって。指折りだと思うんですよ。トップランカーの作業を間近で見られたっていうのは、ある種、僕は自信に繋がっていて。僕は「あ、これでいいんだ」っていうのももちろんありましたし、「ここまでしなきゃいけないんだ」っていうの見れましたし。あとは単純に芸術家としての音楽に対する純度、向き合い方とか、何から作るかとか、そういうものも結構話し込んだんですよ。その「ともだち」の時に。

——「ここまでやるんだ」っていうのは例えばどういうところですか?

一句に2週間悩んだりとか。一つの文字とか、「てにをは」で2週間悩んだりとか、凄まじいものがありました。

——なるほど。具体的にこの『分離派の夏』というアルバムがどうできていったのか伺いたいんですけど。非常に物語的だし映画的な作品だと受け止めたんですね。

ありがとうございます。

【インタビュー】小袋成彬はなぜ “歌わざるを得なかった”のか? interview180322_nariakiobukuro_
『分離派の夏』

——収録曲自体がどういうふうに並行して進行していったのがすごく興味深くて。

なるほど。テーマはなくて、もともと歌いたい歌もなかったんですよ。作るモードになると、昔の思い出とか消化しきれなかった感情みたいなものが出てきて、霞のようなものを掴む作業をしていったと。10何曲できてきたんで、あとはもっぱら知的な操作として、その物語をどう構築するかは、音楽家とはまた違う脳で作っていったっていうプロセスですね。

——1曲1曲にシーンがあって、登場人物も浮かびますけど、明確な印象なんですけど、ある一人の大事な人物について書き留めておかなければいけなかった思いというのが、設定の中心にあるのかなと思いました。

そうですね。もう強烈な個人に対しての曲ですね、うん。なんか不特定多数とかではない。

——その時のそのままの気持ちという感じなんですか?

いや、脚色はついてると思いますよ、僕の中では。まぁ……途中でね、自分が何について歌ってんのかわからなくなる時もあるんですよ。なんかその人がぼやけることとか。かっこつけることはないですけど、100パー真実か?っていうと、真実だけど、嘘でもあって。ちょっとよくわかんなくところはあるんですよね。

——サウンドプロダクションのイメージは最初からありました?

なかったですね……。まぁ「こうならない」っていうのは予想はしてたんですよ。ギターが入ってバンドっぽいサウンドにはならないだろうっていうのはあって。なんか、僕はそれこそ「神田川」とかあの辺のフォークソングの延長にあるって、なんとなく思ってたんですけど。そんな感覚で作ってました。ギターで作るのは得意なので。だから、そういう、家で弾き語りしながら作るから、多分バンドにはならないんだろうなっていうのはありましたけどね。でも、「こうしたい」とかはなかったですね。

——それこそ“Lonely One”みたいな、エレクトロを通過してきたインディR&Bみたいなプロダクションばかりなのかな?と思ってたんですけど。

ああ、なるほど。

——意外とそうじゃなかったなと。

そうなんですよね。あれは歪ですよね、音も打ち込みっぽくてエレクトロっぽいですよね。アレンジはぶっ飛んでんじゃないですかね?一番。どうかな……だから一番僕っぽくないですね、実は。共作してる作品なんで、宇多田さんだけじゃなくて、Yaffleっていう人も参加してるんで。打ち込みのパターンも僕じゃないし、っていうところですよね。

——宇多田さんに委ねなかったらできなかった部分って何ですか?

あー、ほんとに一言一句のこだわりは、そこまで僕、こだわってなかったんで、彼女のこだわりを見て、すごく感銘……感銘じゃないな、なんか恐ろしいものを見たような執念というか、そういうものは彼女に触れないと自分でもここまで入り込めなかったんで、そこは結構デカかったっすね。あとは単純に音作りという以外のプロデュースにおいても、例えば海外ミュージシャンをブッキングするってのも、俺一人じゃ絶対、東京にいたらできなかったことだし。

——宇多田さんならではのミュージシャンのセッティングという意味では、クリス・デイヴもすごくさりげなく参加してるし。

さりげなさすぎなんですよね。

——ご自分のアルバムに参加するミュージシャンに関してこだわりは?

あったんですけど、なくなったんですよ。僕はコントロールしたがるタイプなので、ドラムのパターンとかももう完璧に打ち込んで、それを再現してもらうって作業をずっとしてたんですよね。だからそこに対して彼らなりのアプローチがあって、ちょっと違ってもそれがよければOKなんですけど、ある程度はコントロールしたいタイプだったんですよ。ただ、“E. Primavesi”は一番最後に録った曲で。僕が叩いたものを再現してもらったら果たしてクリス・デイヴなのか? っていうのがあって。

——自問しちゃいますね。

そうなんです。だからもう任したんです。どうなってもいいやと思って。それが結果良かったんですよね。彼じゃなきゃ叩けないドラミングだし。

——それは成果だなと思いました。このアルバムって、このご時世にほんとこの曲順で聴かないと意味がないというか、冒頭からナレーションですし。そこで小袋さんの一人称だけじゃない作品になっている印象があって。

そうですね。僕は一人称ぐらいのつもりで入れたんですけどね。100パーセント同意というわけではないけども、彼の生き様とか語ってることが、僕のことにしか思えないと思って入れたんです。

——中盤にもナレーションが入りますね。2人のナレーションを入れようとした意図はなんだったんですか?

2人目の人は小説家を目指してる友人なんですけど、ベルリンにいるのかな。彼は語りの通り、就職をして。もともと小説家を目指したのに、何かを諦めたわけでもないのに、まず就職をして、内定式行ってスーツ着て、で、やめたんですよね。あれって、僕が歩むべき道だった気がしたんです。僕は別に芸術家肌でもなんでもないと思ってるんです。だから普通、内定をして、で、会社行ってやめるっていうキャリアパスは僕にとっては描きやすかったはずなんですよ。でも僕はそうしなかった。だから、パラレル・ワールドの主人公のような気がするんですね、彼が。これは勝手に僕が思ってることなんですけど。だからあの語りは入れたかったですよ。不可逆な時間の流れの中で、僕が歩むべき道だったものを彼は彼なりにもがいていたっていうのが、人ごとには思えないっていう思いでしたね。

——小袋さんを中心にして複数の「そういう人生もあったかもしれない」っていう曲ばかりなのかなと思います。

そうですね。強烈な一個人に対して書いてる曲なので、そうなりますね、やっぱり。

——ところで、歌うべきことを見つけてアルバムを1枚作っちゃうと、現状いかがですか?

歌うべきことはないですね、今んとこ。もう結構、何もないんですよ。インスピレーションもないし。ただ、ライブはあるんで、あれは面白い行為なんですよね、僕にとって。自分が作った曲を自分で歌うっていう、なんでしょうね、その時に作った思いとは全く違う思いで歌うんですよ。違うことが思い出されちゃったりするんですよね。あの時の恋を書いてたはずなのに、違う恋を思い浮かべながら歌ってて。「あれ、あの時ってこういう気持ちだったけど、実はもうちょっと違ったよな」って考えながら歌ってるんですよ。

——コンベンションライブを拝見したんですけど、面白い佇まいでした。ミュージシャンの方も小袋さんもモニタリングがヘッドフォンで、すごく集中して歌えてるように見えたんですけど。

そういう意図はありますね。ヘッドフォンはあれ以降使っていないんですけど。目の前に誰がいようが、例えば猫がいようが関係ないっていう。与えられた機会があって、それをただ僕らはショーとしてというよりは、1つの、なんだろうな? 葬儀に近いですね。作ったものをそこでちゃんともう1回弔うことに近いんで。うん。そういうライブですね、僕は。

——今、本名で表に立ってることは仕事ですか?

いや、それはやっぱり仕事だと思えないですね。仕事だけとは思えないですね。何か運命付けられたものとかは、感じてますね。明確にはわからないですけど。それこそ、誰かに歌えって言われているような超常的な何かに、僕は歌う運命なんだっていうものを突きつけられてる感じはありますけど。だから単純な仕事とは思えない感じはありますね。

——超常的な何かって?

神とかじゃないですね。見えない意図みたいなものですね、きっと。水木しげる展にね、1年前に行ったんですよ。あの人は、みんなが噂する”妖怪的”なものをビジュアライズしたわけで、見えないものを見ようとしたっていう行為が、例えば、夜中に爪切っちゃいけませんよ、あんな妖怪が出ますよっていう言い伝えとなって、伝わってるわけじゃないですか。彼が意図してないにせよ、何か見えないものを見ようとするってことが非常に人間にとって大事な気がしたんですね。だから「歌え」って言われてるのも、見えない何かに引っ張られて、僕はそれを見ようとするからこそ歌うっていう感じは受けます、自分で。

——そんな中、続々、夏フェスへの出演も決まっていますね。例えば<フジロック>を楽しもうって気はありますか?

僕ね、フェス行ったことないんですよ。どんなものかもよくわかないんです。

——見たい人います?

見たい人はいますよ。ケンドリック・ラマー見たいし、N.E.R.D.見たいし。他の日本のバンドは僕、ちょっと存じ上げないんで、ま、でも見てみたいですけどね。ロックバンドが盛り上がってるのは映像でしか見たことないから。実際どう盛り上がるとか、どうモッシュが起きるとか見てみたいですけどね。

——(笑)。今年は非常に有意義なラインナップな気がしますよ。

そうですね。頑張ります。

text&interview by 石角 友香

RELEASE INFORMATION

分離派の夏

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2018.04.25(水)
小袋成彬
¥3,000(tax incl.)
エピックレコードジャパン
ESCL-5045
詳細はこちら

EVENT INFORMATION

小袋成彬@渋谷WWW

2018.05.01(火)
OPEN 18:00/START 19:00
渋谷WWW
¥3,800(1ドリンク別or込)
http://www-shibuya.jp/sp/schedule/008723.php

ARABAKI ROCK FEST.18

2018.04.28(土)
みちのく公園北地区 エコキャンプみちのく
https://arabaki.com

GREENROOM FESTIVAL ’18

2018.05.26(土)、27(日)
横浜赤レンガ倉庫
http://greenroom.jp

VIVA LA ROCK 2018

2018.05.03(木)
さいたまスーパーアリーナ
http://vivalarock.jp/2018/

FUJI ROCK FESTIVAL ’18

2018.07.27(金)、28(土)、29(日)
新潟県湯沢町苗場スキー場
http://www.fujirockfestival.com/

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石角友香

石角友香

ライター

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