年末、ハリケーン・サンディのチャリティーコンサートでポール・マッカートニーをヴォーカルに迎えたニルヴァーナが一夜限りの再結成(?)を果たしたり、鈴木喜之さん入魂のサウンドガーデンのインタビュー記事がQeticに掲載されたことも記憶に新しいですが、カンの良い読者ならもう気づいてるんじゃないでしょうか? 「グランジ」が再び盛り上がってきていることに。それも、じわじわと着実に。

それが予感から確信に変わったきっかけは、スティーヴ・アルビニをプロデューサーに迎えたクラウド・ナッシングスの2ndアルバム『アタック・オン・メモリー』(2012年)。その後、スリリングで硬質なディストーション・ギターを鳴らすカナダ・トロントのメッツが〈サブ・ポップ〉からデビューしたり、メルヴィンズの楽曲からバンド名を拝借したロンドンのストーナー姉妹2:54が局地的に話題になったり、陰鬱でありながらエモーショナルで、ダイナミックで、磁力の強いロックを響かせる若手(メッツは意外にもアラサーですが…)が台頭したことはオルタナ好きでなくとも無視できない現象だった。そんな中で届いた、ナイン・ブラック・アルプス帰還のニュース。これはもう運命でしょう。

ナイン・ブラック・アルプス(以下、NBA)といえば、カクカクしたニューウェーヴ・リバイバルのバンドばかりがシーンを席巻していた2005年に、ニルヴァーナ直系の爆音ディストーション・ギターと罵詈雑言をブチまけてセンセーショナルなデビューを飾った英国・マンチェスターの4人組。当時は「ロックを永遠に救うかもしれないバンド」「イギリスはやっと世界制覇が可能なリアル・ロック・バンドを手にした!」などと大々的な触れ込みで注目を浴び、〈アイランド・レコーズ〉(ユニバーサル・ミュージック・グループの傘下)からのデビュー・アルバム『エヴリシング・イズ』(2005年)では、彼ら自身も敬愛するエリオット・スミス譲りの美しいソング・ライティングも披露して多くのファンを築いた(ソニックマニア出演を含む2度の来日公演を目撃した方もいるのでは)。しかし、スウィートでメロディアスなポップ路線にシフトした2nd『ラヴ/ヘイト』(2007年)の不振で〈アイランド・レコーズ〉から契約を破棄されて以降、NBAのインタビュー記事はおろか、その動向さえもここ日本にはろくに伝わってこなかった。もしかすると、とっくに解散していたもんだと思っていた方も多いだろう。事実、自主制作で限定枚数生産の3rd『ロックド・アウト・フロム・ジ・インサイド』(2009年。最新作『サイレンス』と併せて日本盤のみデジパックで再発)は、最強にラウドで格好良い傑作だったというのにほとんどの音楽メディアがスルー。

UKグランジの大本命ナイン・ブラック・アルプスが最新4thアルバム『サイレンス』でカムバック。バンドの顔=サム・フォレストの貴重なロング・インタビューは必読!! feature130110_nineblackalps_lofti-1

UKグランジの大本命ナイン・ブラック・アルプスが最新4thアルバム『サイレンス』でカムバック。バンドの顔=サム・フォレストの貴重なロング・インタビューは必読!! feature130110_nineblackalps_sirens-1

だが彼らは、精力的なソロ・ワークスやレーベル運営、他のミュージシャンのサポート、あるいは課外活動などを経て、4thアルバム『サイレンス』をここに完成させた。なんと、バンド史上初の全面セルフ・プロデュースとなった今作は、かつてなくポジティヴなエナジーと自信に満ちあふれた骨太ロック・アルバム。モジャモジャの髭がトレードマークだったマーティン・コーエン(ベース/ギター)が、自身のプロジェクト=Milk Maidに専念するため2011年に脱退してしまったが、後任のベーシストとして元The Witchesのカール・アストベリーが加わった新体制での初のスタジオ作品でもある。というわけで、相変わらず前髪が長くて華奢で頼りなさそうなのに、誰よりもグランジのスピリットを体現しているフロントマン=サム・フォレスト(ヴォーカル&ギター/ピアノ)の貴重なロング・インタビューをご覧いただくとしよう。おそらく『サイレンス』にまつわる日本語のインタビュー記事が読めるのはココだけです。必読!

Interview : Sam Forrest(Nine Black Alps)

Music Video : Nine Black Alps “My One & Only” (『サイレンス』より)

こんな世界だからこそラウド・ミュージックが必要だと思ったんだ

――最新アルバムは『サイレンス(Sirens)』というタイトルでアートワークの人物は口元をバッテンで閉じられていますね。これは「Siren(警報)」の他に「Silence(静寂)」やギリシャ神話の「Seiren(セイレーン)」など複数のミーニングがあるのでしょうか? アートワークを含めどういったコンセプトなのか教えてください。

ああ、たしかにね。僕はダブル・ミーニングを持ったタイトルと、その二面性に惹かれるんだと思う。『エヴリシング・イズ』も、『ラヴ/ヘイト』も、『ロックド・アウト・フロム・ジ・インサイド』も、すべて作品中のリリックと表裏一体でもあるんだ。『サイレンス』のコンセプトは、現状に甘んじることへの警告。そして、“忘れ去られること”に対する恐怖や叫びをあらわしている。それが長い間オフを取っていたバンドの状況ともリンクしてね…。ラウド・ミュージックをやることが非合理的だっていうのはわかってるんだけど、こんな世界だからこそ必要だと思ったんだ。

――ある意味で「ローファイ」とすら呼べる荒削りなサウンドに立ち返っていて、アルバムごとに表情をガラリと変えていくのがNBAの凄いところだと思います。制作中にウェーヴスやジェイ・リータードのようなアメリカのガレージ・パンクなどにハマっていたそうですが、彼らのどういったところにインスパイアされたのですか?

はじめてウェーヴスのレコードを聴いたとき、あのラフで横柄な歌い方にすごく感銘を受けたんだ。ジェイは信じられないほど独創的で良いソングライターだしね。彼らのおかげで、もう一度シンプルなロック・ミュージックをやりたくなったんだよ。これまでもアルバムごとに異なるアイデンティティを与えていてさ、『ロックド・アウト・フロム・ジ・インサイド』は今までになくヘヴィーで、ドラッギーで、スローで、ドリーミングな雰囲気があっただろ? その反動もあってか、『サイレンス』においてはよりダイレクトで、ファストで、“RAW”で、シングル・コレクションみたいなレコードを目指したんだ!

――今作でのソング・ライティングは、かつてなく解放的でポジティヴなヴァイブにあふれているような印象も抱きます。それはセルフ・プロデュースという理由が大きいのでしょうか?

間違いないね。僕たちは今回、自分たちでレコーディングからプロデュース、ミキシングに至るまですべてを手がけたんだ。円だといくらになるかわからないけど、制作費もかなり安く上がったんじゃないかな。僕たちにはマネージャーもいないもんだから、どこで区切りをつけていいのかわからないし、結構ストレスフルな作業ではあったけど(笑)。でも、すごく有意義だったし沢山のことを学べたよ。自分たちだけでここまでやれたことには大きな達成感があったし、レコード会社からのプレッシャーも無かったからね。

――オープナーの“Be My Girl”は解散したジェットの“Are You Gonna Be My Girl”に対するアンサー・ソングと考えても良いですか? そういえば『ラヴ/ヘイト』を手がけたデイヴ・サーディは、ジェットのプロデューサーでもありましたね。

いや、ジェットは特に関係ないかなあ…。もちろんその曲は知ってるけどね(笑)。“Be My Girl”を書いたとき、「ガール」という単語を用いることで、よりメロディアスかつポップなものになるだろうという確信はあった。というか、僕にとって「ガール」っていつも危険なフレーズでさ、時代遅れか女嫌いな奴に思われるような曲になりがちなんだよね……。だからこの曲では、自分自身のストレンジな宇宙を一緒に作っていけるような誰かと、今まさに出会ったときの気持ちを歌っていたりするんだ。

――CDのクレジットに殴り書きされた文章にも「ANOTHERWORLD」とありますが、ラスト・トラックの”Another World”は『サイレンス』を象徴するナンバーなのですか? 具体的にどんなことを歌っているのでしょう(日本盤にはボーナス・トラックの“Playing Your Song”も収録)。

僕の住んでいる場所の近くに「マルドン」って呼ばれている小さな街があって、そこを散歩している時に書いた曲なんだ。ちょうど冬のど真ん中だったかな? 雨が降っていてすごく寒くて、風もビュービュー吹いているようなひどい天気でさ、なぜかメロディーも一緒になって飛んできた(笑)。歌詞はエスケープ(逃避)、あるいはエスケープの記憶についてだよ。

――あなたはかつて、「フィードバック・サウンドは幾百もの言葉より多くのことを語れるんだ」とおっしゃってました。しかしソング・ライティングはどんどん深みを増していますし、30代に突入したことで自分自身の中で何か変化が起きたことはありますか? また、10年前に書いた曲を当時とまったく同じ気持で歌うことができますか。

やっぱり僕もまだまだ若かったし、言葉だけじゃ自分の伝えたいステートメントを表現し尽くせていなかったんだろうな。だけど今となっては、フレームに飾られるような売れっ子になりたいとは微塵も思わなくなったし、デビュー当時とは違って曖昧な表現を好むように成長してきた気がする。でも、間違いなく10年前とまったく同じフィーリングで歌えていると思うよ。そのフィーリングはまるで動物みたいに、常に檻の中から飛び出そうとスキを狙っている感じだね(笑)。

★インタビューまだまだ続く!
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