——では、最初に2人で音楽を作りはじめたときのことを思い出してもらえますか?
Julia 確か、そのときは結局喋っただけでした。音を出そうと思って集まったのに、「こんな音いいよね」「これもいいよね」と話して盛り上がってしまって、「これいいね」って言い合う会になりました。
Yuma 集まってすぐ音にしてしまうと、そこですぐ形になって限定されてしまうと思うんです。だから、弾いた瞬間にどんな音か決まってしまうよりは、お互いが想像して考える余地が残ることになってよかったんだと思います。
——なるほど、ODEOでの制作はそんな風に進んでいくことが多いんですか?
Yuma 大部分がそうです。楽想(楽曲の雰囲気など)ありきで作っているというか。今って(DTMなどを使うことで)どんな楽器でも弾けてしまう時代ですし、そうやってアウトプットできる範囲が広がり過ぎているからこそ、事前に結構まとめておくことは大切だと思うんです。そうしないと、目的地が見えなくなってしまう。
Julia あと、最初に会って話したときは、宇宙の話もしました。私はすごく宇宙が好きで、一方的にその話をして、Yumaが「うん、うん」と聞いてくれるような感じで。
Yuma 実は僕自身も神話学……たとえばジョーゼフ・キャンベルの『英雄の旅』のようなものに、小さい頃からずっと惹かれていた部分があったんですよ。僕はカトリックだったので、小さい頃から教会でそういう物語を聞かせられていたので。もともと神秘性に惹かれる部分があったんだと思いますね。
Julia そういう共通点が、話してみたことで分かってきたような感じでした。
——では、ODEO(中性子)というグループ名の由来とは?
Julia 私が「これはどう?」という風に提案した形ですね。
Yuma でも、はっきりとした意味は作りたくはないんです。
——さっきの楽想の話にも繋がることだと思いますが、「聴く人が想像できる余地を残したい」ということですか。
Yuma そうです。例えば能のセリフの中に「掛詞(かけことば)」というものがあります。これはひとつの言葉の中に二重、三重の意味を作っていくという表現技法で、能だけでなく古来から多くの言語にもあるもので。その暗喩的な、曖昧さを大切にしたいという気持ちがあるんです。
——そしてこのプロジェクトで最初に手掛けたトラックが、今回配信リリースされた“White Crow”だそうですね。2人で一緒に音を鳴らしてみて、どんな風に感じましたか?
Julia すごく面白いと思いました。私がギター1本で作った音をパスして、そこにYumaが音を加えてくれたんですが、自分が作らないような音を入れてくれるので、全然違う音楽になったんです。私はいつもリズムがあまりない、静かで暗い音楽をやっていたんですけど、Yumaの個性が加わることで聴きやすくなるという驚きがありました。
——エンジニアとしては、ムームのグンナル・オルン・ティーネスが参加していますが、これはJuliaさんがアイスランドの居酒屋でたまたま繋がった縁だったそうですね。
Julia そうなんです。アイスランドの音楽仲間に、グンニを紹介してもらいました。ちなみに、そのときそれを「楽しそうだね」と端っこから見つめていたのがシガー・ロスのヨンシーで。
Múm – Green Grass Of Tunnel
——アイスランドは本当に音楽コミュニティの距離感が近いんですね。
Julia みんなが友達なんです。サマリスのヴォーカリストで、ソロ名義のJFDRもやっているヨフリヅル・アウカドッティルもそこにいて、アイスランド滞在中に初めてJFDRのライブを聞かせてもらいました。
Yuma グンニは技術的にも細かいことをしてくれましたし、そこにアイスランドという土地の力も加わって、マジックとしか言いようのないものでした。現地についてから、彼と僕が使っているプラグインやソフトウェアが同じだったことが分かったんですが、それでも全然違う音になっていてとても面白かったです。
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JFDR – White Sun
——アイスランドの音楽には、パーソナルなものにもかかわらず大陸的な広がりが宿るという不思議な魅力がありますが、“White Crow”にも、それに近しい雰囲気を感じました。
Julia それがきっと、土地の力なんでしょうね。ムームは私がアイスランドの音楽に出会うきっかけになったアーティストの一組なので、そうした意味でも嬉しかったです。
——レコーディング自体はどんな風に進んでいったんですか?
Yuma レコーディングしたとは言いつつも、録音中同じ部屋にいたわけではなくて、僕は別室でピアノを弾きながら、ずっとJuliaの歌声を聴いているような状況で。その中で、Juliaの歌声が素晴らしいことが十分に伝わってきていたので、僕はどうやってこの声を生かせばいいかをずっと考えていました。Juliaの声には、すごくピュアで美しい流れがあると思うんです。それに、彼女が用意してきた曲の構造も、そのままで流れが美しいところがあって。それで、僕はそれを変に構造化しすぎないように気を付けて音を出しました。
——なるほど。だからこそ、プロダクションとして音響的な要素を追加している、と。
Yuma まさにそうですね。それで拍節(はくせつ)を意識させないように、音が流れていくように意識してプロダクションを加えていきました。
Julia Yumaは、「何がいいのか」ということが瞬時に分かる人なんだと思います。要素を足し過ぎず、でも引き過ぎず、曲に対するアプローチとしてどの状態がいいのかを判断できるところがいいと思いました。全体像を見るのが得意なんです。
——Yumaさんはコンポーザー的な視点を持っている人なんですね。
Julia そうですね。私は逆に直感型の人間で、感覚しかないという部分があるので、作ったものを投げたら、彼が完成してくれるような雰囲気があります。
Yuma 最初はそれでいいと思いますが、今後ODEOとしてのものづくりのシステムは、変わってくるだろうと思っているんです。その変化が、実はODEOというプロジェクトにとってとても重要なんです。先ほど「コンポーザー的な視点」と言っていただきましたけど、それは言い換えれば「エディター的な視点」ですよね。どこに対しても中立で、全体を見ているというか。ただ、これからODEOはメンバーを増やしていこうと思っているんです。そのときに、独裁的にならず、民主性は持たせつつも、同時に中心が分かるようなものにもしていきたいと思っていて、その形での会話の方法を、今ちょうど考えているところです。
——メンバーが増えていくんですか?
Yuma はい。メンバーが増えつつも、全員が覆面性を保って、何人いるのかも分からないような感じにしていきたいと思っています。
Julia 今回の“White Crow”は私が投げたものにYumaがアレンジを加えた楽曲なんですが、その形も変わってくると思います。例えるなら「ODEO」という人がこの活動の真ん中にいて、私たちはそれを形成するグループの一員、というイメージというか。
——つまり、集合知で生まれる偶像のような存在が「ODEO」だということですね。
Julia そうなんです。そこに実像はないんですけど、「そこにある」と思うこと、「ODEO」という存在を作り上げていくということが面白いと思うんです。
Yuma 僕らがヴィジュアル・イメージに仮面を使っていることも、それと繋がる話です。顔を仮面で覆うことで、色々な人がODEOという存在を様々な角度から見られると思うので。
——視覚的な要素でいうと、“White Crow”のMVはカンヌ・ライオンズでグランプリを受賞するなど活躍されている映像作家の関根光才さん(MVではYoung Juvenile Youth“Animation”、The fin.“Night Time”など)が手掛けていますね。これはどんな風に実現したものだったのですか?
Julia 関根さんは私がもともと知り合いで、「何か機会があったら言ってね」と言ってくださっていて。それで今回相談したら、「ぜひ」と快諾してくださったんです。
Young Juvenile Youth – Animation (Music Video)
Night Time
——このMVは、スクランブル交差点に外国の女の子が登場していて、まるで渋谷ではないかのような雰囲気になっているのが印象的でした。
Julia そうですね。MVのアイディアは関根さんが考えてくださって、スクランブル交差点からはじまって、徐々に郊外に場面が変わっていくんです。私たちも撮影には同行しました。
——曲をレコーディングしたり、MVを撮影したりと様々な活動を続けることで、みなさん自身もODEOの個性や魅力がより分かるようになってきたのではないかと思います。これからこのグループで、どんな活動を続けていきたいと思っていますか?
Yuma ODEOは今の状態では完成形ではなくて、持続して変化し続けていくというスタンスを大切に活動していくグループで、今仮面をかぶって表現していることに対して、それを見抜いてほしい、ちゃんと見てほしいという欲求がすごくあります。それに伴って、Juliaがやってくれているアート・ディレクションも、MVも、すべての要素を当たり前のようにメンバーが触りながら、アート・プロジェクトとしての方向性を強くしていきたいと思っています。
Julia ライブもコンセプチュアルなものにしたいという話をしています。
——ライブ以外にも、色んな可能性がありそうですね。
Julia そうですね。自分たちが今考えているアイディアもありますし、まだ自分たちが想像していない可能性も色々とあると思います。メンバーが増えることで、出来ることがまた広がっていくと思います。
Yuma そんな風に、僕らが今感じているこの「曖昧さ」のようなものに共鳴してくれる人は、世界中にいると思うんです。もちろんそれが日本人でもいいし、そうじゃない国の人でもいいし。そういう人たちと、繋がっていきたいと思っています。
Julia 私はODEOをはじめるまではずっとひとりでやってきたので、今こうして他の人とかかわりながら音楽を作るということはとても不思議な体験で。私にとっては殻を破るような体験になっていると思うんです。それをこれからもっと広げていきたいです。
Yuma ODEOのヴィジュアル・イメージには民族調のモチーフが使われていますけど、少数民族というのは、コミュニティの作り方、リスペクトの作り方がとても上手くて、一見外から見ると「何をやってるの?」と思うことでも、実はお互いのリスペクトによって繋がりが生まれていたりする。僕らもそんな風に、お互いがリスペクトし合えるような関係で、このプロジェクトを広げていきたいと思っています。
text by 杉山仁