——一方で、プロのミュージシャンではない、市井の人々ともコラボレーションしていることがこのプロジェクトの大きな特徴だと思います。だからこそ全編からは、アイスランドに暮らす人々と音楽との関係性が、まるで群像劇のように伝わってくるような雰囲気でした。

今回様々な場所に行く中で、それぞれの音楽がまったく違う理由や目的で作られることを見られたのは、とても楽しかった。自分はミュージシャンとして作曲したり、ツアーしたりすることに慣れているけど、アイスランドの田舎の方の人たちと会って話すと、彼らは音楽をコミュニティの楽しみのためだけにやっていた。決して有名になろうとしているわけでもないし、アルバムをたくさん売ろうとしているわけでもない。彼らは、ただ自分たちのコミュニティをよりよいものにしたいと思っていて、自分の近所の人たちや友達と音楽を楽しみたいだけだったんだ。

——つまり、音楽との様々なかかわり方を知る旅になった、と。アイスランドは00年代の財政破綻の際にも、音楽やアートを励みにする人が多かったと訊くことがありました。ちなみに、あなたは14年に日本も訪れていますが、そのとき印象的だったこともあれば教えてください。

(当時の日本でのレーベルだった)〈Flau Records〉のヤスというすばらしい人が本当に温かく自分のことをケアしてくれた。いろいろなすばらしい場所を見せてくれたし、すばらしい食べ物にも出会ったよ。京都でのライブのあとに、何千もの鳥居のある山を登ることにしたんだ(伏見稲荷大社の千本鳥居)。真夜中だったけど、あれは本当にマジカルな体験だった。

——日本のリスナーにもオススメしたいアイスランドのミュージシャンを挙げるなら?

まずはJFDR。パスカル・ピノンやSamarisなどで活躍するJófríðurのソロ・プロジェクト。すばらしいよ。Úlfur Úlfurはアイスランドで非常に有名なヒップ・ホップ・アクト。彼らはこのシーンでの僕のお気に入りだよ。GDRNはすごく若くて新しいアーティスト。まだ1曲しかでてないけど、将来有望だね!

——アイスランド出身のヨハン・ヨハンソンもそうですが、あなたの音楽は “ポスト・クラシカル”と呼ばれています。あなたがこうした音楽性に辿り着いたのは、映画音楽がきっかけのひとつだったそうですね。

そう、映画音楽を通じて音楽に夢中になった。自分が初めて心惹かれた映画のスコアはたしか、『ショーシャンクの空に』と『レクイエム・フォー・ドリーム』だった。その中には、特にエレクトリックな要素は含まれていなかったけど、それからたくさんのインディ・ロックを聴いたり、エレクトロニック・ミュージックを聴いたりして、自分の中で、そういった(古典音楽とモダンなポップ・ミュージックという)2つのセンスが一緒になったんじゃないかと思う。僕はいつもまったくどのジャンルでもない音楽を作りたいと思っているんだ。だから、そういう分類を排除することができたら最高だと思う。ただ単純に「音楽はアート」として認められれば素敵だよね。

——では、ポスト・クラシカルの中で、あなたが最も共感するアーティストを挙げるなら? マックス・リヒター、ヨハン・ヨハンソン、ニルス・フラーム、ピーター・ブロデリック、ニコ・ミューリーなど、様々なアーティストが活躍しています。

これは簡単な答えだね。ニルス・フラームだよ。なぜなら僕らは一緒にたくさんの作品を作っているから。だけど、僕は今挙げてくれたアーティストみんなを愛しているよ。なぜなら彼らは、それぞれに自らのスタイルとパーソナリティを持ち合わせているからね。

——さて、『アイランド・ソングス』にまつわる今回の旅を終えたとき、あなたが最も印象に残ったのはどんなことでしたか。最終曲“ドリア”はあなただけで楽曲を制作し、プロジェクトにかかわったすべての人に捧げられた曲になっていますね。

僕はこのプロジェクトを、レイキャヴィク(アイスランドの首都)で終わらせたいと思っていたんだ。それで、この曲もはじめはコラボレーターを探していた。だけどこの曲がプロジェクトのために自分が行なってきたことすべての最高点になるんだと思うと、なんだか道理に合うものが思いつかなかったんだ。だからそのかわりに、このプロジェクトを現実的にサポートしてくれたみんな――僕の友達、家族や、日々の生活の中で自分に刺激を与えてくれる全員を呼ぶことにした。そして彼らにビデオに出てもらって、僕の音楽と彼らとの直接的なつながりを表現してみたんだよ。たとえ彼らが、実際に僕と一緒に音楽を作っていないとしてもね。

Ólafur Arnalds – Doria

——『アイランド・ソングス』は、あなたにとってどんなプロジェクトになったと思いますか?

僕にとっては非常に大きな挑戦だったと思う。なにしろ、音楽そのものを書きながらも、音楽のことだけを考えるのではなく、これが映画の一部であるということを考えなくてはならなかったから。だから、曲の構成は「映画を展開させるための何かを持っていなくてはならない」ということをつねに意識していたよ。一番の例は1曲目の“川岸(Árbakkinn)”だね。エイナルが詩を暗誦し終わると、カメラの映像が徐々にミュージシャンを明らかにしていく。“声(Raddir)”でも同じ方法をつかっているけど、映像が始まるとともに、徐々にその声の持ち主が明らかになっていくという構成にしたんだ。

Ólafur Arnalds – Raddir ft. South Iceland Chamber Choir

——このプロジェクトを経て、これからどんな活動をしていきたいと思っていますか。

新しいテリトリーを発見し続けたいし、自分の表現を観客に伝えるための新しい媒体を発見したい。明確なゴールはないんだ。ただ学び続けて、自分の地平線を広げ続けるだけだよ。

RELEASE INFORMATION

アイランド・ソングス

【インタビュー】ポスト・クラシカル最注目の一人、オーラヴル・アルナルズ。シガー・ロスらを輩出した「アイスランド」を巡る最新作を語る interview_olafurarnalds_1-700x700

2017.06.07
オーラヴル・アルナルズ
UCCL-1195
¥2,700(tax incl.)

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text & interview by 杉山仁