老舗レーベル〈ラフ・トレード〉の共同経営者であるジェフ・トラヴィスがたった1曲で惚れ込み、まともな音源のリリースも無い状態で『NME』のカヴァーに抜擢されるなど、近年の新人ロック・バンドとしては破格の待遇を受けているUKの4人組パーマ・ヴァイオレッツ。すでに『NME』の2012年度ベスト・トラック第1位にも選ばれたシングル“Best Of Friends”を耳にしたリスナーも多いかもしれない。サム・フライヤー(G & Vo)とチリ・ジェッソン(B & Vo)からなるツイン・ヴォーカルと、ハチャメチャな演奏で突っ走るドント・ルック・バックなスタイルが同じく〈ラフ・トレード〉が見出したザ・リバティーンズのデビュー当時とも比較され、タイムレスで普遍的な歌詞とメロディーは世界中のキッズを夢中にさせている様子。なんと、あのニック・ケイヴやバーナード・バトラーといった大物ミュージシャンも、こぞって彼らのライヴに駆けつけているというのだから只事ではない。
マムフォード・アンド・サンズみたいな例外を除けば、2000年代にデビューを飾ったギター・バンドはほとんど解散・分裂してしまったし、ストーン・ローゼズやニュー・オーダーを筆頭にレジェンドの再結成ばかりが取り沙汰されるUKのロック・シーンにおいて、ザ・ヴァクシーンズやトゥー・ドア・シネマ・クラブ、そしてこのパーマ・ヴァイオレッツのように勢いのある若手バンドは本当に貴重だ。いよいよ年明け2月には1stアルバム『180』のリリースが控えているし、絶好のタイミングで同月の<Hostess Club Weekender>にて初来日ライヴも予定している。2013年のロック、というよりも音楽シーンは、まず間違いなくパーマ・ヴァイオレッツの話題で持ちきりとなることだろう。本邦初公開となった以下のインタビューでは、そんな彼らのルーツやバンド名の由来、さらに将来の野望まで根掘り葉掘り訊いてみた。
Interview:Palma Violets(Chilli / B & Vo)
――“Best Of Friends”は「何か」が始まることを予感させてくれるような、素晴らしい楽曲だと思います。The Oxford Studentのインタビューで、チリ(Chilli Jesson)は「友達と集まってパーティーするときの音楽を作りたかった」と語っていますけど、やはり最初のシングルはこの曲でなければいけなかった?
うん、100%そうだね。友達とパーティに来てた人たちみんなを曲に合わせて躍らせたかったからね。
――パーマ・ヴァイオレッツというバンド名は、同名のタブレット菓子から取られたのでしょうか? そういえばザ・ホワイト・ストライプスも白と赤のストライプが入ったペパーミント・キャンディからバンド名を付けましたよね。
そうだよ。ラベンダーみたいな味のする紫色のお菓子からとったんだ。
――サムとチリが<Reading Festival>で出会ったことがバンド結成のきっかけだそうですが、そのとき見ていたアーティストは誰?
レディオヘッドだよ。正直なところ、フェスティヴァルには友達と行ってパーティーをしてたからあんまりライブには興味なかったんだけど(笑)…まぁ、何を観てたかと言われれば、レディオヘッドって答えになるよ。2009年だね。
――ツイン・ヴォーカルということからもザ・リバティーンズがよく引き合いに出されますが、実際、パーマ・ヴァイオレッツにとっても彼らは重要なバンドなのですか?
うん。ザ・リバティーンズは僕らにとって重要なバンドだよ。彼らの音楽を聴いて育ったからね。でも僕らがザ・リバティーンズと似てる音だとは思わない。だって、立って演奏して歌っているのは僕とサムだけだから。彼らと同じラフ・トレードに所属してるのも比較される原因の一つだとは思うけど、僕らは全く違ったバンドなんだよ。彼らの曲をよく聴いてたから、別に比較されるのが嫌なわけじゃないよ。彼らのことは大好きだし、偉大なバンドだと思ってる。
――ソング・ライティングは主にサムとチリの分業制ですか? リリックを書くときは日常と非日常のどちらにインスパイアされることが多いのですか。
曲のほとんどは僕とサムが書いてるよ。たまにウィルとピートも書くけどほとんど僕とサムだね。歌詞はロンドンで僕が見たり聞いたりしたことにインスパイアされてる。実際に自分の目で見たことしか書けないとおもうからロンドンの事を書くんだ、それが僕のインスピレーションだから。たまにロンドン以外のことも書くけど…。
――まだ持ち曲が少なかったころ、ジミ・ヘンドリックスの“ヘイ・ジョー”をカヴァーしたこともあるそうですね。他にライヴではどんなカヴァー・レパートリーがあるのでしょうか?
初めてのライヴでカヴァーしたんだ。その時自分たちの持ち曲が4曲しかなかったからカバー曲をやって時間を稼ぐ必要があったんだ。”ヘイ・ジョー”のカヴァーしたのは、その時1回だけなんだ。今はザ・ガン・クラブっていうアメリカのパンク・バンドのカバーをしたりしてるね。カヴァー曲はたくさんやるよ。好きだからね。
――自主イベントも行っているランベスのStudio180は、24時間オープンでネット環境も揃ったアート・スペースのようですね。僕はLAのThe Smellのようなヴェニューを思い出したのですが、あなたたちの他にどんなアーティストが出入りしているのですか?
他にもアーティストは出入りしているけど、ミュージシャンではないよ。絵描きとか写真家とかだね。僕らが唯一Studio180を使っているバンドだね。
――同世代でシンパシーを抱くバンドはいますか?
チャイルドフッドっていうバンドだね。素晴らしいロンドンのバンドで僕らのツアーをサポートしてくれたんだ。ロンドンの自分らのシーンで好きなバンドはチャイルドフッドくらいかも。
――アルバム・デビュー前に〈Rough Trade Records〉と契約できたことは、大きなターニング・ポイントだったんじゃないでしょうか。ジェフ・トラヴィスはどうやってあなたたちにアプローチしてきたのですか?
1つ〈Rough Trade〉に関して分かって欲しいことがある。結構大切と思うんだ。ジェフ・トラヴィスもいるけど、そこにジャネット・リーもいて2人でチームなんだ。ジェフの音楽のセンスはすごくよくて、彼はいい音楽が分かる。そして、ジャネットは本当のロックン&ロールが分かる人なんだ。昔ジョニー・ロットンと、PILとか他にもバンドをやってたし。だからこの2人はチームなんだ。ジェフとジャネットが僕らのスタジオに来てライブを見てくれて、その場で計約をしたんだ。その時点で4曲しかなかったんだ。この2人は僕らにとって非常に大切なんだ。
――現在レコーディングは終わったそうですが、1stアルバムはどんな作品になりそうですか?
最高だよ。正直ホッとした。分かるかな? そこのプレシャーがなくなった感じ。僕ってライブは大好きだけど、スタジオにこもるのはあんまり好きじゃないんだ。だからホッとしてるの。アルバムに関しては、考えられないくらいハッピーだよ。個人的にすごくいいと思う! みんなも聞いたら好きになって欲しいな。
――個人的にはロンドンのゲロまみれのバスについて歌ったという“Fourteen”がフェイバリット・ソングなのですが、アルバムには収録してくれますか?
まじで! その曲が好きってすごくうれしいよ! 実はそれが僕とサムが初めて書いた曲なんだ! バンドを始める前で、14番の深夜バスに乗ってて、結構酔っ払ってたの。で、乗っている時に2人でどっかから「oh Fourteen oh Fourteen take me home」(訳:14番のバスよ、僕の家に連れてってくれ)って歌い出したの。その夜はあんまり考えずにサムが家に帰って、僕も自分の家に帰った。そして次の朝僕が、サムの携帯にピアノで1つのノートに合わせて「oh Fourteen oh Fourteen take me home」って歌ってるのを、伝言で残したの。それが僕らのファースト・ソングになって、そこからバンドを始めたんだ! だから特にあなたがこの曲を気にいってくれて嬉しいよ!
――”Last of the Summer Wine”はパルプのスティーヴ・マッキーと共同レコーディングしたそうですが、どのようにして彼と出会ったのでしょうか? そして彼はアルバムの制作にも関わっているのでしょうか。
ジェフとジャネットがパルプのマネージャーで僕のバンドの音を聞かせたら、本人からアプローチされてすごくやりたいと言ってて、僕らもやろうかって感じだった! で、結果的に良かった!
制作は最高だった。彼は最高だよ。元々パルプの大ファンでスティーヴがスターと思ってたんだ。僕もベースをやって歌うし、スティーヴから色々な自信ももらった。彼のおかげでスタジオの経験はとても楽だった。すばらしかったよ。
――2013年2月の<Hostess Club Weekender>にて、早くも初来日が決定しています。日本に着いたら行ってみたいところはありますか?
日本に行くのが死にそうに楽しみなんだ! どんだけ行きたがってるか説明もできないぐらい! すごく遠い国だし。行きたかった唯一の国だよ。食べ物も好きだし、TVでよくみるし、ドキュメンタリーも見てる。日本に行ったことある友達のバンドから良く聞くのは、イギリス人の音楽を日本人が本当に認めてるってこと。それってすごく大切なんだ。来日したらやりたいこと? すべて! 出来る限りすべて。いっぱい食べたい(笑)!
――マムフォード・アンド・サンズやのようなフォーク・ロックを除けば、近年のUKはあまりギター・バンドに勢いが無かったように思えます。だからこそパーマ・ヴァイオレッツの登場はすごくセンセーショナルで衝撃的でした。あなたたちは将来、どんなバンドへと成長していきたいですか?
面白い質問だね。個人的にニック・ケイヴ&ザ・バッド・シーズが好きなんだ。アルバムを続けて何枚もリリースしてるってのを僕もやりたいんだ。もうひとつ好きなバンドはザ・クラッシュだね。夢だったらそのようなバンドになりたいけど、難しいよね。今の世代って違うし、バンドをやるのってだんだん難しくなってるし、僕らは頑張るしかないさ!
(text & interview by Kohei Ueno)
Event Information
Release Information
2013.03.06 on sale! Artist:Palma Violets(パーマ・ヴァイオレッツ) Title:180 Rough Trade / Hostess TBC ※日本盤はボーナストラック、歌詞対訳、ライナーノーツ付予定 Track List |