——バンドとしてとてもいい状態になっているんですね。では、今回の制作中にメンバー全員が共有していた最初のアイディアとは、どういうものだったのでしょう?
アーサー 今回まず、父が昔よく言っていた「不完全な海の上を歩くように」という言葉に影響を受けた。たとえば、音楽を大勢で作っていく中でも、なかなかすべてが自分の思った通りにはならないよね。レコーディングや技術の上で、不完全さが生まれていく。だから、それを逆に受け入れることで、面白いものができるんじゃないかと考えたんだ。その美しさ、ランダムさを楽しもうと思った。そもそも、その「ランダム性」は、父の時代のペンギン・カフェ・オーケストラにとっても重要な要素だったしね。今回のアルバムは、僕の想像の中での不思議な風景とリンクしている作品なんだ。自分が15歳ぐらいの頃、90年代の懐かしい音楽を思い起こさせるような音楽。それをあくまで、ペンギンの帽子のもとでやってみた。
ダレン その「不完全さを受け入れる」という話だけどさ。僕らはレコーディングしたものをライブで披露して、それをライブ用の楽譜に起こしていくんだけど、そうしてみると、そもそもの譜面とは明らかに違って、そこには僕らのミスがたくさん含まれていた(笑)。でも、そのミスを含んだものの方がよくて、ライブでは観客に受け入れられたりするんだよね。みんな人間だから、そういう部分にかえって惹かれるということなんだと思う。
アーサー 偶然性がいかに人を惹きつけるか、ということだよね。たとえば、演奏中に誰かが転んだら、その場にいる全員がそこばかりに注目するだけだから。
ダレン 素晴らしい歌を歌っている最中でも、横でイスがガタッと鳴ると、みんなそっちに注意が向いてしまうというね(笑)。
——(笑)。つまり、そういうハプニングや偶然性を受け入れることで、その場の誰も予期しなかった新しいものが生まれる可能性がある、ということですか?
ダレン そう、その通りだよ。インプロヴィゼーションの音楽には、そのときにしか生まれない「ハッピー・アクシデント」がある。レコーディングでえてしてファースト・テイクが一番いいという話も同じで、あまり意識していないときに一番いい演奏をしていることが往々にしてあるんだよ。今回の曲だと“Now Nothing (Rock Music)”もそうだったね。
Penguin Cafe – Now Nothing (Rock Music)
アーサー うちは基本的に、最初の練習からこっそりテープを回しているんだ(笑)。
ダレン (笑)。ブライアン・イーノが、「オブリーク・ストラテジーズ」(画家のピーター・シュミットと一緒に作った、カードを使用するアイディア出しツール)を使っていたけれど、それに近いことなんだと思うな。
——では、今回の作品でとくに偶然性が発揮された楽曲というと?
アーサー たとえば、“Half Certainty”。この曲の頭で聞こえる音は、昔のオープンリールの1/4テープ用の金属製のカッターを放り投げて、それが落ちるときの音を録音したものなんだ(笑)。たまたま遊びでそういうことをしていたら、「あれ、これっていい音だよね?」という話になった。最終的にはその音を背景に敷き詰めるような形で構成していったんだけど、言われないとそんな音だとは誰も気づかないし、まさか、マスタリングの段階までこの音が残されるとは僕ら自身も思っていなかったよ。
ダレン つまり、色んな事に対してオープンに構えていれば、面白いことが起こったときに気が付くことができる、ということだね。今回のアルバムでは、レベッカ(・ウォーターワース/チェロ)がボウルに入った塩に手を突っ込んだ音や、床板を叩いた音も使われているんだ(笑)。ふと気づいた面白い音を、アルバムの中に色々と盛り込んでいった。