——(笑)。また、今回はクラフトワークやシミアン・モバイル・ディスコ、ペンギン・カフェ・オーケストラのカヴァー曲も収録されていますね。

アーサー 僕らは15年に、コーネリアスのカヴァーをやったけど(今回の日本盤にはその音源も収録)、彼とは僕らが日本に来たときに会うこともできた。それもあって、「今回もカヴァーをする?」という話になったんだ。シミアンはその中でも、僕自身好きなアーティストだし、彼らのマネージャーと知り合いだったから、話が付きやすいと思ってカヴァーを決めたよ。クラフトワークは、父親のペンギン・カフェ・オーケストラが初めてライブで演奏したのが、ロンドンのラウンドハウスで行なわれた彼らの前座だったという経緯もあるし、彼らはすべてのエレクトロニック・ミュージックの源泉だから、僕らが今回やろうとした「エレクトロニカを生演奏で再現する」という趣旨にも合うと思った。クラフトワークはたくさん曲があるからどれにするか迷ったけれど、クラシック寄りのものを選んだよ。

Birdwatching in Silent Forest (Penguin Cafe version of Cornelius track)

——それぞれの曲は、具体的にはどんな風に制作していったんですか?

アーサー さっき話したレベッカが塩のボウルに手を突っ込んだ曲は、クラフトワークのカヴァー曲“Franz Schubert”の話なんだ(笑)。

ダレン (笑)。レベッカはすごくユーモアのセンスがあるんだよ。自分自身アートもやっているし、彼女はアートを教えてもいるから、不思議な視点を持っている。

アーサー もちろん、チェロもちゃんと弾いているけどね(笑)。でも、レベッカが出していたその音が、僕らには雪の中を歩いている音のように聞こえて、それが面白いと思ったんだ。シミアンの“Wheels Within Wheels”のカヴァーの場合、原曲にはドラムもストリングスも入っていない。そうやって寸分違わない演奏をすることが彼らを律する方法なんだと思う。でも僕らは、その曲でもあえてエレクトロニクスを一切使わずに、すべて生演奏で録音をしていったよ。それが僕らが自分たちを律する方法だからね。

Simian Mobile Disco – Wheels Within Wheels

——では、今回そうしてエレクトロニカやクラブ・ミュージックを生演奏に変換していくときに、メンバーで共有していた新しい影響源はあったのですか?

アーサー “Rescue”を作っていたときは、僕やダレンがリズムを考えていくうちに、だんだん四つ打ちの、低音のベースが効いたものになっていって……。

ダレン そのときに、僕が四つ打ちのリズムを踏んでいたら、「あれ、この床板、いい音がするぞ!」ということに気づいて……。

——それが床板を叩いて録音した、という話に繋がるわけですね! (笑)。

ダレン そう。「four-on-the-floor(=四つ打ち)」とはよく言ったもので、実際に僕らは床を叩いて四つ打ちを鳴らしたんだ(笑)。僕個人で言うと、今回のアルバムは、KLFの『Chill Out』に似ていると思ったよ。僕にとっては聴かずには寝られない、かなり重要なレコード。そういうものを作ろうと思っていたわけではないけど、やっているうちに「『Chill Out』っぽいぞ」と思ったんだよね。潜在的なものということだね。僕自身は別のことを考えていたし、他のメンバーは他のことを考えていただろうけど、できたものはそれに近いと感じた。

アーサー 2曲目の“Cantorum”は、DJシャドウみたいだよね。僕は『Endtroducing…..』みたいな、90年代のヒップホップ/サンプリング・ミュージックっぽいと思う。もちろん、僕らの場合はサンプリングを使っていないから、ドラムも生演奏でかなりの音を重ねているんだけどね。でも、それがどこかDJシャドウに近いものになったんだ。

——さっき「90年代のノスタルジックな風景を想像していた」という話がありましたが、初代のペンギン・カフェ・オーケストラには、「巨大なペンギンがオーナーを務めるカフェで鳴らされる音楽」という架空のコンセプトがありました。今回のアルバムをそうした風景に例えるなら、2人はどんな言葉を使って表現しますか?

アーサー 僕はスタジオジブリの作品のような、マジック・リアリズムを連想するよ。でも、僕の父親がペンギン・カフェ・オーケストラで描き出したあの世界は今も大前提としてあって、その広大な世界の中で、「この大陸は制覇したけれど、まだここに行ったことのない島があるな」「ここにも新しい大陸があるな」という感じで音楽を作っているんだよ。特に前作は、世界各地を訪ねながら、その先で音楽を作るようなイメージだったね。

でも今回は、そこから自分の家に戻ってきて作った作品という感じがする。もちろん、クラフトワークはドイツの人たちだし、シミアンのアルバムはもともとアメリカで作られていたから、そういう地域性はある。でも、今回の僕らは、前のアルバムで大きく外に出ていったところから、ヒュッと自分たちの場所に戻ってきたような感覚なんだ。ただ、そうやって戻ってきて、自分たちの小さな家に入ったら、その先に不思議な広い世界が広がっていたような……そんなイメージを連想するかな。

ダレン ああ、なるほど。すごく不思議な感じがするよ。前作で世界に出ていったときよりも、今回の方が世界が広くなっているように感じられるというか。僕はたとえば、巨大な氷山が長い年月をかけてゆっくりとゆっくりと進んでいるような、そんなイメージが浮かぶんだよ。(塩に手を突っ込んだ音を使って表現したような)一面の雪景色をね。

コーネリアス、クラフトワーク、シミアンとの共鳴。ペンギン・カフェが語る、偶然性の魅力と制約の大切さ interview_penguincafe_6-700x467

——さっき話してもらった、「家に帰ってきてドアをあけたら、そこに広い世界が広がっていた」という話と繋がる部分がありますね。これは今回のアートワークとも連動しているように感じられます。

アーサー ああ、本当だね! 今までのアートワークは、父が考えたアイディアを母親が絵に起こしたものを使っていた。でも、今回は初めてまったく新しいものを使うことにしたんだ。〈Erased Tapes〉のロバート・ラスはヴィジュアル面でも色んなことを考えてくれる人だから彼と一緒に考えたんだけど、今回のアートワークでは、馴染みのない世界に放り込まれたペンギンの戸惑いを表現したいと思った。

そう言ったら、彼が「砂とペンギンは普通は共存しないから、それがいいんじゃないか?」とアイディアをくれてね。そこに80年代にモンティ・パイソンのテリー・ギリアムが監督を務めた映画『バンデットQ(原題:Time Bandits。製作総指揮と主題歌はジョージ・ハリスン)』のシーンを掛け合わせた。その作品に出てくる場面で、「鏡が立っていて、それがドアになっていてパッと開く」というシーンがあるんだけど、そのイメージと繋がっているんだ。

ダレン そのドアを境にして、まったく違う風景が広がっているというシーンなんだよ。

――今回のアルバムを作ってみて、バンドのこれからについてはどんな可能性を感じていますか。また、10月には来日公演も行なわれます。当日はどんなものになりそうですか?

アーサー 実は既に次のアルバムについても考えていて、今のところ18年か19年には出したいと思っているんだ。今回のアルバムの7曲目と9曲目は、雰囲気重視の楽曲になっていると思うんだけど、現時点ではこの方向性をもうちょっと追究したいと思っているよ。パーカッションで音程のついているもの、たとえばザイロフォンのようなものも使ってみたい。僕たちは人間が出す音だけ=生演奏でやることを大切にしているから、そのパレットの限界だけは外さないようにしようと思うよ。

ダレン 制約って、実はすごく大事なものなんだよね。「X」を使いたいけど、それがないから「Y」を使おうと考えることで、僕らだけの個性が生まれるんだと思う。何でも使えてしまうと、みんな同じに聞こえてしまうことがあるよね。パレットに何でも揃っていることで、水増しされてしまうものもあると思うから、僕らはその制限の中でやっていきたいんだ。

アーサー 10月のライブに関しては、前半はこのアルバムの曲、後半は父の曲と僕らの過去の曲でやるつもりだよ。だから、アルバムの毛色の違いをライブでも感じてもらいたいし、スタジオ・アルバムで作った世界観をライブで表現することで、もしかしたらそれが次のアルバムに繋がっていくかもしれない。その辺りも楽しみにしていてくれると嬉しいね。

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写真:石田昌隆
衣装:Herr von Eden

EVENT INFORMATION

ペンギン・カフェ来日公演 2017

2017.10.07(土)
OPEN 16:30/START 17:15
すみだトリフォニーホール 大ホール
ADV S席 ¥6,800、A席 ¥5,800
CDセット券 ¥8,500
S席チケット+CD『The Imperfect Sea』※プランクトンのみ取り扱い
スペシャル・ゲスト:やくしまるえつこ/永井聖一/山口元輝
問:プランクトン 03-3498-2881

2017.10.09(月・祝)
OPEN 15:00/START 14:30
まつもと市民芸術館 主ホール
全席指定 一般 ¥5,800/U25 ¥3,800
スペシャル・ゲスト:大貫妙子
※U25(25歳以下)は当日年齢確認証提示
※未就学児入場不可
問:まつもと市民芸術館チケットセンター 0263-33-2200

2017.10.05(木)
渋谷クラブクアトロ
OPEN 18:30/CLOSE 19:30
全自由:ADV ¥6,000/DOOR ¥6,500(1ドリンク別)
問:渋谷クラブクアトロ 03-3477-8750

2017.10.10(火)
梅田クラブクアトロ
OPEN 18:30/CLOSE 19:30
全自由:ADV ¥6,000/DOOR ¥6,500(1ドリンク別)
問:梅田クラブクアトロ 06-6311-8111

詳細はこちら

RELEASE INFORMATION

The Imperfect Sea~デラックス・エディション(+4)

2017.07.20(木)
ペンギン・カフェ
VITO-127
¥2,500(+tax)
[amazonjs asin=”B06Y5VXV8F” locale=”JP” title=”The Imperfect Sea 〜デラックス・エディション(+4)”]

1. Ricercar
2. Cantorum
3. Control 1 (Interlude)
4. Franz Schubert
5. Half Certainty
6. Protection
7. Rescue
8. Now Nothing (Rock Music) 
9. Wheels Within Wheels

Bonus Track
10. Solaris (Cornelius Mix)
11. Bird Watching At Inner Forest (Penguin Cafe Mix)
12. Close Encounter
13. The Track Of The Dull Sun

詳細はこちら

text & interview by 杉山仁