–––どんな考えに基づいてアートディレクションに取り組んでいるんですか?
僕の好みとしては一般的なものにそれほど興味がなくて、アート、ペインティング、写真とか、面白い活動をしている人たちに興味があります。みんなが見ていないところをどうやってアートディレクションに持ち込んで混ぜるかということが僕の役割だと思うんですよね。今流行っているものを真似するのではなくて、今の時代に合うちょっと新しい見方を作ることが一番大事だと考えていて。単純にデータ重視のシステマチックなアートディレクションやプロモーションになってしまうと、インスティンクト(直感)、ノリ、モチベーションとかが薄れてしまう。音楽のイメージはそこまで深く考えて成功するものではないと思うんですよ。大切なのは、クリエイターたちが時代をうまく表現できるか。もちろん、そこはアーティストが一番大きいと思いますけど、こればかりは計算の世界ではない。
–––今の広告やCMは社会への影響力に対してデリケートになって、コンサバティブな方向に寄っている印象を受けますが、スティーブさんとしては、そこに対してアグレッシブな表現を打ち出していこうとする気持ちは大きいですか?
そうですね。どんなときでも面白いものを見たいじゃないですか。たしかにシリアスな出来事はあるけれども、僕個人としてはもっと面白さが伝わるイメージを打ち出していきたいですね。
『きらきらキラー』デザインラフ
『きらきらキラー』
–––「面白さ」という意味では、スティーブさんのアートワークには、どこか目を留める部分が必ずあるんです。「面白さ」は「違和感」という言葉に置き換えられると思っていて。きゃりーさんの場合は、ひとつの撮影でもかなり時間を費やしているんじゃないですか?
やっぱり現場で変化することが多いですよね。10カットくらい撮っても、何が一番違和感を残せるのかは実際に撮ってみないと分からないところがあって。きゃりーはポージングの形を作るのが上手くて、あの笑っていない感じの表情が面白いんですよね。あれは他の人が持っていない何かだと思う。
–––あぁ、たしかに。過去の作品を遡っても、あからさまに笑顔のジャケットはありませんよね。
掴みどころのない感じがありますよね。アートディレクターの自分にとって、プレイグラウンドとして幅広く遊べるというのは、きゃりーの魅力的な部分ですね。僕が担当しているジャケットの世界とミュージックビデオはまた別の世界であって、その世界観はメディアによって違いますけど、シュールな中に感じる人間的でアナログな部分にすごく世の中が食いついているんだと思うんですよ。すごく遠い人ではなく、近いわけでもないけれども、シュールで他人とは変わったことをやっている存在。それは細かく計算していないから伝わる手作り感だと思いますね。
–––文字通り、手間ひまをかけて彼女の作品のアートワークが完成しているんですね。
撮影後、入稿までの時間は大体1週間くらいしかないんです(笑)。この仕事は短い時間の中でどれだけいいものを作れるかというチャレンジなんですよ。そういう面で見ても、アドリブっぽい感じや手描きのデザインも入ってきますね。
–––今や、きゃりーさんは原宿カルチャーのアイコンですが、スティーブさんは過去にラフォーレ原宿の広告ビジュアルを手掛けていますよね。彼女を知るという意味では、これまで仕事で原宿と関わってきたことは大きいですか?
正直言うと、今の原宿はよく分からないんですよ(笑)。原宿のイメージは、若者がハイブランドからパンクまでファッションにミックスしている街。そこに意味付けがされているのかは分からないけれども、そうやって日本の若者文化としての原宿が出来てきたと思っていて。「なんでもあり」というのは面白いけれども、なんとなくでも意味付けをするのは重要だと思うんですよね。それは日本のオープンマインドを表しているだろうし、そういう意味では90年代から今に至っても、同じようなエネルギーが原宿にはあるんじゃないかな。例えば、見た目の部分で言えば、ヨーロッパとかはすごくコンサバなんですよ。自分を表現することに面白いことをやる原宿の若者には、誰にも似たくないという気持ちが大きいんだと思う。それは時代やアートディレクションの話にも共通することであって、いろいろ混ぜたりすることで面白いものが生まれるんです。