——EPOさんは初めて参加されて、しかもオープニングを飾る重要な曲になったのでは?

自分がローティーンの頃から聴いてる人ですし、CMソングをたくさん手がけてらっしゃる方なのでどうしてもやっていただきたいって思いが強かったですね。なので実際に「やりますよ」って言ってくださったのはすごく嬉しかったですし、いわゆるコカコーラや資生堂のCMソングですとか、どういうのが来るのか楽しみだったんですけど、でも漠然とポップスだと思ってたんですね。

でもそうではない形でくださって、僕のことをどういう形で興味を持とうとしてくださったのかはわからないんですけど、歌詞に「君は僕のことを嫌いになればいい」「人の陰口にも僕は二度と恐れない」って出てくるんです。一番に出てくるところは多分恋愛何ですけど、二番目のところでそういう強い主旨宣言みたいなものが出て来て、僕はやはりどこか自分の存在の仕方に飽き飽きしてるところがちょっとあって。

——どういうことですか?

やっぱりテレビに出させていただいて「今度もご覧ください」って仕事をしてる以上、「僕のことを嫌いになればいい」なんて言えるわけないのは重々承知なんですけど、でも、25年テレビに出させていただいた上での話ですし、それを否定するつもりは全くないんですねけど、自分自身で考えて失敗したことってたくさんあるんですよね。それはほんとに嫌だな、もう忘れて下さい! っていうこともあるんですね。

そういうことも含めてやっぱりずっと引きずってしまっていたり。あとこういう取材とかでも——取材していただく側なんで絶対言っちゃいけないんですけど、でもやっぱり今は記事が残ることもありまして自分が言ったことも湾曲してる事もあって。そんなこともラクラク乗り越えなければいけないキャリアですし、それを笑いに変えなくちゃいけないんですけど、でも結局、音楽のことに関していうと嫌でも自分をさらけ出さなきゃいけないんですよね、で、嫌でもさらけ出した部分を湾曲されちゃうと、もっと照れくさくなって、「違うんです、違うんです」ってことになる。

——ああ、まずなぜ音楽なんですか? 的な導入から始まったり?

はい。そこの説明がすごくめんどくさくなってきちゃって、そこに時間使っちゃって言いたいことを言えずに終わっちゃうってよくあるんです。でもこれは吉本に所属させてもらってるからきてる仕事だと思うし、吉本に所属してるからレコード会社があって、「CD出したいんです」って話ができたし。肩書きなんてどうでもいいんですけど、でも「芸人です」っていう芯にある大切なところをほんとは綺麗に広げれたらいいんですけど、なんかこうとんがって出ちゃうから。

【インタビュー】藤井隆、「芸人」という核を持ちながら音楽でも才能を発揮するエンターテイナーの魅力に迫る takashifujii_14-700x467

——じゃあいい作品を作ればいいんじゃないか? というのが前作からの藤井さんのスタンスなのかな? と思ったんですけど。

で、もうほんとにそれこそ「嫌いになればいい」とまで思ってないですけど、ある部分をみなさんに「好いてください」というのは無理な事だと分かってますので、もういいか、ってなってきたのかなぁ(笑)。そういう気持ちをパッとその四行で書いてくださっていたんですね。

——ああ、それぐらいEPOさんの歌詞は藤井さんご自身にリンクしていたと?

いただいたとき、車の中でデータでもらったんですが、車だったのでパーキングに停めて、「200円ぐらいで終わるかな」と思ったんですけど、全然終わらなくて。

——揺さぶられすぎたんですね。

はい。それはほんとに嬉しかったかな。そういうEPOさんが書いてくださった曲があり、一方で堂島孝平さんの——この3、4年仲良くはしてくださってますけど、仕事の現場で会うことの方が多いですし、プライベートで会う時間っていうのは延べにしても24時間はないと思うんですよ。でも、その3、4回二人だけでご飯食べたり喋ってる時間を堂島孝平さんは何も取りこぼしてなかったんだと思ってびっくりしました。こんなに愛情かけてくれるとは思ってなくて。で、EPOさんRISさんっていう女性が書いてくださったいわゆる新しい僕っていう曲が続くんですけど3曲目で「いやいやいやいや、藤井隆ですよ〜」。

——そこを堂島さんがある種、安堵させてくれる。

でもすごくアップデートしてくださってるっていうのがすごく嬉しかったです。堂島さんには「磁場が狂う女の人の歌を書いてください」っていう風にお伝えして、それはひいては腕時計が狂っていくみたいな、腕時計が商品になったらいいですってことまでをお伝えして書いてくださっているので、もうすごい嬉しかったですし。で、シンリズムさんみたいにまだ19歳、ハタチの方の曲もあり。

——一番、直球でポップスな印象のある楽曲ですね。

でも彼が好きな楽曲がすごくわかる。一度ステージでご一緒して、ルックスも込みで線が細くて可愛らしい男の子なんですよね。それにお父様とお母様に愛されて音楽をやってるんですねっていうのが一発でわかるというか。そんな方がどういうのを書いてくださるんだろう? という興味がありました。

予想では軽自動車のCMみたいなものを上げてくれるだろうなと思ったんですね。そしたらその詞が「毎年のことじゃさすがに慣れた手つきで君の反応さえも先回り」っていうのはすごくほほえましくて、これって僕が歌うから僕に合わせてなんとなく中年にしてくれてると思うんですけど、でも彼は自分が歳を重ねたら自分の恋人なりそういう人には「慣れた手つきでそういうもの選べる」と思ってることに鷲掴みにされてほんとにキラキラしてるなと思います。

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——澤部さんにはテーマはお伝えしたんですか?

澤部さんはイベントでご一緒してる時、全部持っていくんですよね、ステージで。それが僕は好きなところで。澤部さんにはカップ焼きそばとか、そこまで僕言ったのかな? 過去のカップ麺のCMソングに名曲は多い印象があるんです。澤部さんに妄想ですが、ぜひカップ麺の名曲CMをお願いしたかったんです。

——即席麺はCM音楽で商品のイメージや世界観が変わって行きますよね。すごく遠大にも身近にもなる。

ミュージシャンが試されるイメージですね。それを澤部さんにやっていただきたくて。で、まさか『踊りたい』ってタイトルがくるとは思わなかったんですけど、「今のピカピカしたクラブじゃなくて木のフロアの小さなディスコで踊りたいけどいつも座ってしまう男の人の歌が欲しいです」みたいなことを言ったのかな、僕が。でも『踊りたい』ってなると思わなかったので「すごいな」と思いました。

——核心ですよね。

うん。「守ってみたい」は僕が書いたんですけど、一枚のアルバムの中に思ってるだけで動いてない歌が2曲あるって面白いなと思って(笑)。

——敏感すぎて実行に移せない男性像を作家陣が藤井さんに持ってるからなのかな? と思うんですが。

あー、冨田さんがインタビューでおっしゃった言葉をお借りしたら、女性とお別れすることへの女々しいとかだけじゃなくて、「でも立ってます」みたいな男性像が多いとおっしゃってましたね。で、自分自身では全くそういうことじゃないから、それは面白い解釈だなと思いました。

——藤井さんご自身の作詞曲についてはいかがですか?

は、ほんとに最初の話に戻ってしまいますけど、歌で何かを表現したい訳ではなくて、今回は冨田さんの「冨田塾生」になりたかったので、冨田さんが「ダメです」って言ったらもうダメなので。自分のほんとの想いなんて別にないし、架空のものですし。経験値が少ないので、「ここの音でこの音はこないですね」っていう訂正からスタートしますので。

冨田さんは頭がいい方ですから、僕がおかしな文章とか音楽としてここにこれを入れたら変になるとかを正しく修正してくださいます。でも『Coffee Bar Cowboy』の頃は冨田さんは特になにもおっしゃらなかったんですよね、僕が怒ってる時期だったので。腹が立ってる時期だったので、それをそのままにしてくださったかな。でも今回はすごく厳しかったです。

——何に腹を立てていたんですか?

当時ですか? もう忘れました(笑)。

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——大人ですね。前作はいい意味でアバンギャルドな印象があったんです。

西寺郷太さんにはっきり言われました。「腹が立ってることを詞に乗せていくときにだいたい合うのがロックかパンクです。それをあなたはダンスミュージックを選んだのであれば、優雅な言葉を選んで下さい。」と教えて下さいました。

ちょっと言葉が強かったりとか、聴く人が聴いたら「これワシのことやないか!」ってわかるようなものだったりとか、そういうのはよくないから、「もうちょっときちんと上品にしてください」ってご注意はいただきました。でも怒りの表現をよく許してくださったなと思います。でも「書きなさい」って言ったのは郷太さんですからね。(笑)

——ところで今回の架空CMのMVの制作はどの曲が一番大変でしたか?

予算も限られてますし日数もなかったので、そういう意味では全部大変でしたし、自分が出てる出てない関係なしに全部大変でした。でも一緒にやってくださっている高村佳典さんがすごく優秀な方なので、全部お伝えして。僕は「監督です」って言いながら絵コンテ描けないのは監督じゃないんですけど。だからほんとは高村さんにやっていただきたかったんですけど、「それは違うから」って言われて「じゃやります」ってなった上で話が進んで行って、具体的なショットを探しにロケハンに行って、「こういうのをこの画角で撮ってください」ってやって行来ましたね。

だからNGがないんですよね、現場で。だから一日に何本も撮れる。あと、「キメでこうしてください」っていうのを自分の頭の中で編集してるんですけど、高村さんのすごくて怖いところはそうじゃない時も撮ってるところ。僕は1+1+1でいいと思ってるんですけど、高村さんは1、1.5、0.5とか刻んで実は撮ってて、結局それを使わせてもらえたりするから、なおさら早くなりますよね。全部大変でしたけど、そういう意味では全部楽しくできました。

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——特にお気に入りは?

ほんと全部お気に入りです、何の漏れもないです。うーんと、でも「大変でお気に入り」は最初の提供と最後にニュースがくるんですけど、実は締め切りの日に「あ!」と思って、やっぱりつけたいってなって。僕は大阪でドラマの撮影で、高村さん東京で編集してくれたんですね。 企業名はこれでとか。色はこういう色でとかできるんですけど、ニュースのオープニングは絵なので、やっぱりやらなきゃと思ってドラマの撮影の合間に、携帯で撮って音もガレージバンドで作って、で、「こういうことです」ってそこからやりとりして何とか間に合ったので、大変だったのは実はそれかも。離れてたから、高村さんと。で、一番気に入ってるのも多分あれかも(笑)。

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RELEASE INFORMATION

light showers

【インタビュー】藤井隆、「芸人」という核を持ちながら音楽でも才能を発揮するエンターテイナーの魅力に迫る light-showers-700x700
2017.09.13
藤井隆
¥3,000(tax incl.)
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photo by Mayuko Yamaguchi
text & interview by 石角友香