【インタビュー】日本語であることの可能性。環ROYが『なぎ』に込めたラッパーの在り方とは? tamakiroy_10-700x467

アブストラクトさとポップさ

——実際のアルバム製作期間としては、いつくらいから作っていたんですか?

2015年の終わりぐらいからですね。『Types』というインスタレーションの発表が終わってからです。

——今回のアルバムに入っている曲だと、“ゆめのあと”なんかは2016年にはYouTubeに上がってましたよね。あのへんの曲からイメージが固まっていった?

いや、そうじゃないです。あれを制作したきっかけは広告だったので、ソロプロジェクトのつもりではなかったです。アルバムには収録しない予定でした。だから「環ROY×Taquwami×OBKR」って連名でアップロードされてます。

環ROY×Taquwami×OBKR – ゆめのあと

——でも収録することになった?

はっきりは覚えてないけど“都会の一枚の本”を作ったときに、これで収録する隙間が生まれた。って思ったんです。それで“Offer”に、K.A.N.T.Aくんの英語詞パートを追加してもらった。“ゆめのあと”のOBKRくんの英語詞と対になるようにって。主観にすぎないけど、そういうアルバムとしてのトータリティはいろいろ調整してたことは覚えてます。

環ROY / Offer

——一番最初にとりかかったのは?

これもはっきりしないんですけど“ことの次第”か“exchange//everything”ですね。ほとんど同時期でした。とにかくラッパーっぽく振る舞った曲を作りたいって思ったんです。

——ラッパーっぽく振る舞うっていうのは、具体的にはどういう部分ですか?

そうですよね。よくわかんないですよね(笑)。最初、まず、ラッパーっぽいラップをしようと思ったんですよ。たとえば前作の『ラッキー』のときはもっとソングっぽいラップをしたいと思って、言葉をスカスカにして、1番と2番のラップの譜割を揃えて、反復が多くなるようなやり方を試してたんですけど、一度それは置いといて、とにかくラッパーみたいに言葉数の多いラップをするぞって思った。

——言葉数が多いのがラッパーっぽいと。

あと歌詞もです。ソングっぽいラップっていうのは、歌詞に時間の流れがあると思っていて、『ラッキー』のときは強く意識してました。例えば、朝から夜になるとか、出会って別れるとか、曲のなかで時間が流れる。それが僕のなかではソングっぽいってことなんですけど。近年のラッパーっぽいラップの歌詞って、あんまり時間が流れない印象があって。

——もうすこし具体的にお願いします。

ケンドリック・ラマー(Kendrick Lamar)の新曲とか、それこそ演説みたいというか。時間が、AからBへ線的に推移しない。同じところにいて、観念的な言葉が散文的に羅列されている。そういう、観念の言葉で敷き詰められたラップを、10年前は自分もよくしていたので、改めて、大人になったいま、またやってみたい。と、そんな感じでした。

——前作の反動からスタートしたとも言えますよね。たしかに“はらり”や“食パン”は明確に時間が推移します。“On&On”はそれこそずっと観念的な言葉が並んでて、あまり時間は動かないですよね。

そうですそうです。“On&On”が、アルバムの中だと一番、いわゆるラッパーらしい振る舞いでラップしてると思います。

——“フルコトブミ”は古事記のことですよね? それはなぜ?

物語論について勉強していたとき、あらゆる物語は、すべて、なにかしか、神話がもとになってるっていうのを読んだんです。なんだか、それに感銘を受けて、神話を元ネタにした詞を自分も作ってみたいなって思いました。それで、ここが日本だったので、日本の神話って言ったら古事記だなって思って。イザナミが黄泉の国に留まって、イザナギが地上で穢れを落とすってところまでを描こうと思いました。ここのパートって、人間が生きてる状態と死んでる状態をはっきりと分離させて、生死を意識しはじめたことを物語にしたような気がして、いいなって思ったんです。

——古事記についての歌詞なのに、街角とか街灯がでてきますよね。

そうですね。なにいってるかわかんないと思うんですけど、時間と空間は結構バラバラでよくて。うまくいえないんですけど、『インターステラー』って映画あったじゃないですか、あの中で、時間と空間が全部並列にならんでて、往来できるっていうか。ああいう、時間と空間が複数重なっていても成立するような表現をしたいと思ってて、歌詞を作るとき、最近、いつも意識してますね。

——アルバムタイトルの『なぎ』とイザナギって関係あります?

なぎって、無風状態の「凪」とか、もともとあったものを切り払って平らにするみたいな意味の「薙」とか、植物の「梛」とかいろいろな意味があって選びました。草薙の剣って「平定した剣」みたいな意味だと思うんですけど、そういう意味では関係ありますね。あと個人的には戦前の音楽って意味もある。未来からみたら、「なぎ」の時間帯に作られた音楽だろ、これは、って。これから荒れていくんだろうな、って予感があるけど、そういう微妙な緊張感の中で、豊かさとか、多様性とか悠長なことを真剣にいってるな、って思ったんです。

——いまの話もそうですけど、タイトルだけとっても意味が多層化してますよね? アブストラクトというか。

そうですね。輪郭が曖昧でぼんやりしてる、よくわかんないけど、なんとなく分かる、みたいな。そういう曖昧な領域に希望的ななにかを感じてるんです。ただのエキゾチシズムかもしれないけど。そういう表現をして、聴いた人が、なにかを投影することができるような、器みたいな表現が、僕にとってのポップミュージックなんですよね。

環ROY / フルコトブミ