ジャーナリストとオーディエンスとアーティストの
トライアングル的なものをそれぞれがリスクをシェアして、
ゲインをシェアしていくみたいなことしか未来予想図はない気がするんですよ。

——それこそ取り上げるアーティストを選択する基準っていろいろあると思うんですけど、読者ターゲットはイメージあるんですか?

ターゲットは明確には2つ。1つは自分自身のサウンドトラックとして音楽を何かしら意味のあるものとして感じている多感な層。社会人じゃない人だね。俺は世の中に刺激を与えるとか現状に対して楯突くことができるのは学生、もしくは、すねかじりだと思ってる。働いている連中は何かしら大きなシステムに取り込まれているから。勿論、それは悪いことじゃないんだけど、なかなかそれを外側から無責任に批判したり出来ないところも多々ある。でも、若い世代にはそれが無責任に出来るし、そういう人たちに刺激を与えたい。それはずっと変わらないですね。

——なるほど。ぼくも学生時代に『snoozer』に出会って刺激を受けたタイプです。

もう1つは、それこそ『snoozer』を読んでいたであろう20代半ばから40代の人。以前よりもシステムの一部として生きているから政治的なアクチュアリティは失われているかもしれない。ただ、経済的な余裕を持っているはず。経済に加担するということはイコール何かしらシステムを内側から変えることだから、情報の円環に加わるだけじゃなくて、経済の円環に加わることで何かしらを積極的に変えることが出来る人たち。そういう人たちにカジュアルに情報を与えてあげて、具体的に何かを買うとかイベントに行くことで状況に刺激を与えてくれるような人たち。その2つをターゲットにしています。だからいっぱい記事を出すというよりも吟味して、それをオーディエンスなりのアクションに繋げてもらいたいなってイメージがありました。

【インタビュー前編】田中宗一郎に聞く、ネット時代の音楽メディアの泳ぎ方 feature131200_soichiro-tanaka_0086

——いまの時代、情報を選別してわかりやすく届けてくれる“媒介となる紹介者=キュレーター”に注目が集まっていますよね。それこそ、ネットは情報量が多すぎてフィルタリングしてくれる人に一次情報より価値が高まる傾向があります。そんななか音楽で『Spotify』など膨大な曲数が聴き放題な音楽ストリーミング・サービスに注目が集まっていますが、『Spotify』は外部のメディアに、その膨大な曲から選択して選曲プレイリストごとにまとめて紹介するキュレーション機能を提供していることが特徴ですよね。

最終的にはそこにしか帰結しないと思うんですよ。なおかつ、WEBっていうのはメディアという言葉とあまり食い合せが良くないと思ってるところがあって。例えば、どれだけ好きなアーティストでも、そのホームページって週に1回ぐらい見れば多いくらいでしょ。でも、TwitterやFacebookは毎日何回も見るよね。やっぱりメディアって感覚じゃないと思うんです。1つのプラットホームがあって、それを送り手と受け手の双方が使ってる。だから、理想の理想の話をするなら、書き手が何か書いて、それがたくさんの人に読まれた。たくさんの人が実際にアクションを起こしてそのアーティストの音楽やライブのチケットを買った。そうしたら紹介した人間にロイヤリティとしてギャランティーが戻される。そういったジャーナリストとオーディエンスとアーティストのトライアングルがあって、それぞれがリスクをシェアして、ゲイン(利益)をシェアしていくみたいなことしか未来予想図はない気がするんです。

【インタビュー前編】田中宗一郎に聞く、ネット時代の音楽メディアの泳ぎ方 feature131200_soichiro-tanaka_0132

ユースカルチャーの魅力の大多数は、
ダサい奴は入ってくるな、年寄りは入ってくるなという排他性。

——そういえば、日本の洋楽状況って、『snoozer』がストップしたタイミングとともにガラッと変わった気がするんです。それこそ羅針盤となるジャーナリストによるキュレーションがなくなったことで細分化してしまったというか。

それが『snoozer』がなくなったことと直接的に関係してるかどうかはわかんないけど。ただ抜本的に減ったよね。4、5年前まではある種の主体性を持って海外の音楽を聴く人が3、4万人はいたと思う。インディーミュージックに特化して言えば、いまそれを聴いている人たちは本当に少なくなっている。でも、いまはネット上でインディー音楽を取り上げるブロガーってホントたくさんいる。優秀な人たちが。あと、〈Maltine Records〉に代表されるネットレーベルがやっていることもすごく大きくて、メインストリームではない音楽をネットを媒介に伝えていく人たちって合わせると3000人くらいいる気がするよ。ただ一般的には海外の音楽、セレブリティ的な音楽ではないもの。たとえばヴァンパイア・ウィークエンドみたいなバンドを自分自身のリアリティとして聴いている人たちの数はすごく下がっていると思う。勿論、悪いことじゃないんだけどね。でも、俺からすると退屈だよね。

ヴァンパイア・ウィークエンド “Diane Young”

——いまのところ、日本では一般的な知名度はまだないですが『Pitchfork』のようなメディアが日本でも欲しいですよね。

まあ、サインマグは『Pitchfork』とはまた別ものだとは思うんだけど、『Pitchfork』がこれまでやってきたことは素晴らしかったと思います。特にアーケイド・ファイアの1stアルバムが出たとき。彼らがブレイクしたのはほぼ『Pitchfork』の功績だと思うし。あるいは『Pitchfork』が1番最初の年に発表したベストアルバムの1位ってザ・ディスメンバメント・プランの『Emergency & I』なんだけど、そんな先見性もあったしね。現状でも、膨大な楽曲を誇る「Spotify」のキュレーションをやっていたり、新しく立ち上げた映画のサイトもそうだし、真剣にいまの時代に置ける役割を考えて、結果を生み出していて素晴らしいと思います。

——それこそ10数年前、『snoozer』を読んで、レコードショップ「Rough Trade」や「ZEST」に通って、CDを買いまくってた気分で、「Spotify」とリンクした『Pitchfork』で新しい音楽との出会いを楽しめますよね。

トム・ヨークも言っていたけどレコード屋さんってのはスノッブじゃなきゃいけない。ある種のちょっとした悪意を持っているスノビズムがないと面白くない。ユースカルチャーの魅力の大多数は、ダサい奴は入ってくるな、年寄りは入ってくるなという排他性でもある。だからネット界隈のコミュニティーも良い意味で排他的でしょ。こちらの価値観に共振する何かを持ってるんだったらいいけど、そうじゃなかったらお断りっていう。〈Maltine Records〉のtomadくんとか、すごく良い意味でそれを持っているよね。

——ネットレーベル周りのイベントでDJ参加されてましたが、どんなきっかけで?

Syrup16gが大好きで『snoozer』をずっと読んでた変な奴が『渋家』周辺にいるんですよ。そいつが無理矢理その界隈と俺を結びつけたいと言い出して。でも、俺としてはやっぱり気後れはあったんだよね。50代のおっさんが「これ最高にエキサイティングなんだけど!」って近づいていっても、俺が逆の立場だったら「いやいやいや!」って言っちゃうと思うのね(苦笑)。でも、あの界隈が日本発の音楽周りのカルチャーでいえば最高にクールだったしクリエイティブだった。何かしら数を生み出すことに関しても結果を残していたし。すごくエキサイティングだよね。

——それこそスピリットが継承されていたのですね。

Syrup16g “生活”

text & interview by fukuryu(fukuryu76@gmail.com)