Interview前編:田中宗一郎(『the sign magazine』)
【インタビュー前編】田中宗一郎に聞く、ネット時代の音楽メディアの泳ぎ方 feature131200_soichiro-tanaka_0127

『the sign magazine』は僕が主体的に始めたメディアではなくて、
若い人間が始めたプロジェクトに今後10年を捧げてみようという試みなんです。

――音楽評論として紙メディア、そしてリアルな場としてDJイベントを展開されてきたタナソウさんが、なぜWEBメディア『the sign magazine』を立ち上げたのかを教えてください。

『snoozer』を終えた後、音楽に対して書く事に興味を失っていたのもあって。あと、50歳の人間が新しいことをやったって若い人たちはエキサイトしないと感じてたのもあったんだよね。ただ、2年間遊びほうけて色々なことをインプットするなかで、今の時代におけるWEBが僕たち生活者に対して与える影響力の大きさをさらに痛感した。なのでWEBを媒介にして新しいことが出来ればいいなぁと思ってたんだけど、困ったことに、持病のヘルニアで腰や首が痛くてパソコンはずっと観れないし、もはや老眼なのでスマートフォンを見ても文字が小さかったりでなかなかコネクトできなかったんですよ(苦笑)。

——『the sign magazine』スタートのきっかけはなんだったんですか?

17歳年下の小林祥晴君から「音楽メディアを始めたいので相談にのってほしい」という話がきたから。33歳の彼が新しい音楽メディアを始めたとしたら“若い世代もエキサイトするかもしれない”——そう感じたのでやることにしました。ただこの時点で紙メディアという選択肢はなかった。やっぱりWEBメディアで音楽サイトをはじめたいと思ってました。

——リンクで繋がるWEBメディアの情報拡散力って、言葉にチカラを持っているタナソウさんと相性よいなと思います。

どうだろ?『snoozer』を読んでくれていた人は書き手としてのクレイジーな田中宗一郎のイメージがあると思うんだけど、小林君はそもそも熱心な読者ではなかった。だから、むしろ『snoozer』編集部内での非常に冷徹でビジネスライクな編集者としての俺しか知らなかったのね。彼はその面で力になってもらえないかと。それは渡りに舟だったんですよ。だから『the sign magazine』は僕が主体的に始めたメディアではなくて、若い人間が始めたプロジェクトに今後10年を捧げてみようという試みなんです。もう1つは、WEBという情報プラットフォームを自分なりに理解して、そこから生まれてくるであろうアイデアを今後形にしていくーーそういう発想でもある。実際にはじめてみると、困ったことに書く事に対するモチベーションはムクムクと頭をもたげてきたんだけど、本当はそこは僕の仕事ではないんです(苦笑)。

『the sign magazine』を立ちあげるときに
僕も小林君も面倒くさいことはしたくなかったんです。

——これまで音楽評論は、紙メディアだと音が聴けないデメリットがあって、だからこそ語り口のこだわりや、クロスレビュー、漫談のような対談、妄想インタビューとか、いろんな手法が生まれてきたと思います。でも、WEBだと音が聴けるし、YouTubeなどで動画も埋め込み出来る時代の、WEBならでは音楽評論の手法ってまだ確立されてないんですよね。そこでタナソウさんが如何にしてWEBで評論されていくかに興味があります。

どうもありがとう。そこはまだ試行錯誤中なんだけど、手応えはあって。例えば、『the sign magazine』は、レビュー枠には一切リンクを貼らないし映像も観せない。でも、むしろ積極的に映像を観せるコンテンツは別にあって、そのコントラストの中で新しい可能性が出てくるのかなと考えています。紙メディアで書く事とWEBメディアで書く事は内容もモチーフもスタイルも全部違ってくるはず。実際に始めてみるとやっぱりその通りですごく面白い。自分自身にないスタイルを試すことも出来るし、今協力してもらっているライターの別の可能性みたいなものが垣間見れる瞬間も多々ある。これは面白いなと思いました。

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——そんななか、これまでWEBの音楽紹介って、紙に比べてオープンなメディアであることから「客観的なニュース性をわかりやすく!」がテーマとされてきましたよね。

例えば?

——たとえば『ナタリー』は、ポップカルチャーのニュース通信社を目指されていて、それに追随するメディアがこぞってこの方向に落ち着いてますよね。

なるほど。『ナタリー』ってすごく現代的な情報メディアのあり方のひとつだと思うんですよ。1日に50とか、100の情報がアップされて、それがTwitterで流れてきて、1つか2つ興味があるものをページまで見に行く。ただし、古典的な意味でのレコメンド、100あるうちの10しか取り上げないでそれに関してしっかり批評軸で優劣をつけていくという良質なブティック的なスタイルもあると思っていて、『the sign magazine』はそっちですね。『the sign magazine』を立ちあげるときに僕も小林君も面倒くさいことはしたくなかったんです(笑)。毎日ニュースを探してピックアップするみたいなことはしたくなくて。彼は少なくとも1日に3つ更新って言っていたんだけど、俺は1つでいいんじゃないかってめちゃくちゃなことを言ってました。それはどこかブティック的なあり方であって、その方がレコメンドという形が機能するんじゃないかなって思いがあって。それが具体的に成り立つのか実験をしたかったんですよね。

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