——そして今回、これまでになかった様々な要素を加えた作品が出来たと思います。まず1曲目の“Rock This Town”は、ヒップホップの要素も加えたロック・チューンですね。
ザ・スロットル / Rock This Town
高岩 僕はずっとB-BOYだったんで、このアイディアが出て来るのも自然なことだと思うんですけど、たとえばSANABAGUN.ではヒップホップを生演奏のジャズでやっているのに対して、この曲はジャズ・マインドで奏でるヒップホップになっているというのが大きな違いで。あとは、色彩感覚として今のシーンに合うものを作りたいと思っていたんですよ。
——ザ・スロットルはこれまでヴィンテージなイメージのある音楽をやっていたからこそ、今回はより現代的なことをやってみようと思ったんですね。
高岩 そうです。そこで“Rock This Town”というストレイ・キャッツの往年の名ナンバーの名前を取って、MVでは仲間を集めて渋谷を闊歩しようということも決めて。そういう遊びをしてみたんです。ヒップホップなアプローチだけれども、コード進行はブルースで、それをザ・スロットルならではのロックの華やかさで表現したかったのがこの曲ですね。
The Stray Cats – Rock This Town
成田 この曲は、基本的に遼が仕切っていって……。
高岩 「all produced by 高岩」という感じですね。あと、この曲はiPhoneに(デフォルトで)入っているガレージバンドにもとからある音色で全部のパートを考えていって、それを生演奏に置き換えました。音が飛んでいるようなフレーズがあるのもそれが理由で。だから、音楽って本来シンプルなものだということですよね。
それをあまりにファッションに繋げ過ぎることに対して俺には「バカでしょお前ら」という気持ちがあるし、それに共感/共鳴するメンバーの音色が加わって面白い曲になりました。MVではマイメンとマイガールを集めて渋谷を闊歩して、それを同世代の人間が撮っていて。そういうことをガチでやっていくことが、「笑える」と思ったんですよ。
熊田 だから、根本はふざけているんですよ。真面目にふざけてるというか。
——なるほど、真面目にふざけていく。それはアルバムの大きなテーマになっていそうです。
高岩 この曲のリリックで言うと、《1 for the money / 2 for the show》というところは、もともとはロックンロールのフレーズなんですよね。それをいつしかヒップホップのオールドスクールの人たちがやりはじめた結果、ヒップホップのものとして広まっていった。これも、ロック・バンドで歌うことで「実はプレスリーも歌ってるし」という遊びがしたかった。
Elvis Presley – Blue suede shoes HD
熊田 次の “Get Ready”は、僕がもともとイエスが好きで考えていった曲。“Owner of a Lonely Heart”という曲がありますよね。最初に思ったのは、「遼がジョン・アンダーソンだったら、どんなものになるだろう?」というアイディアで。“Owner of a Lonely Heart”はイエスの中でもアンニュイで今っぽい曲ですけど、これまでのスロットルからすると新しいサウンドではありつつも、あまり今っぽ過ぎる感じにはしたくない、と思って。それで、90年代のグランジのエッセンスも入れていきました。
YES – Owner of a Lonely Heart (Official Music Video)
高岩 基本的に州吾のプロデュース曲で、ここで爆発音を入れたい、ここにシンセの音を入れたいという風に州吾が考えていった感じですね。
飯笹 その指示に合わせてシンセを作って、「これでどう?」という感じで。
熊田 サイレンや爆発音なんて、これまではなかなか出来なかったことなんで。今回制約を取っ払うことにしたときに、色々みんなで遊ぶのはすごく楽しかったですね。
——前作は一発録りでしたが、今回はスタジオで色々と実験を重ねていったんですか?
高岩 そのつもりで準備していきました。ただ、別で録るという作業はザ・スロットルにとっては初めてのことで、それに僕ら自身が馴れていなくてすげー喧嘩もしましたし、罵倒し合いまくったんですけどね。
熊田 でも、だからこそ音作りにもこだわることが出来たんですよ。
ザ・スロットル / Get Ready 【Music Video】
——次のYou Can Make It!”は、アルバムを聴いた人が一番驚く曲のひとつだと思います。
高岩 この曲は仮タイトルが「ONE PIECE」でしたからね(笑)。TVアニメ『ONE PIECE』のOP曲として使ってほしかったんで。
——なるほど(笑)。
高岩 これはアリサと一緒に作った曲です。3コードのロックンロールから離れていこうとしたときに、俺の中から出て来るコードがこういうものしかなかったんですよ。つまり、歌メロがある曲、ということで。でも、英語で歌ったらお洒落な雰囲気になる曲だと思うんですよ。だから、これを英語っぽい日本語で歌うんじゃダメだ、むしろ思いきり子供にも分かる日本語で歌おう、というチャレンジでした。テイラー・スウィフトが歌ったらお洒落な曲になると思うけど、そうしないことが大切だった。
あと、俺は英語の曲ばかり歌ってきましたけど、英語と日本語とではフロウが全然違ってくるんですよね。それで、この曲をライブでやるために覚えようとしたら、俺が書いた曲なのになかなか覚えられなかった(笑)。そういう意味では、高岩遼としてもかなりのチャレンジでした。《北と南/別れた/あの日の僕らは/宝探し飛び込むオーシャン/越えて……》ですからね(笑)。「You Can Make It!」も、つまりは「君はできる!」ですから。
ザ・スロットル / You Can Make It!
——僕も聴かせてもらって、まさに「アニソンみたいだ!」と驚きました。ただ、同時にツイストで踊れる曲にもなっているところが面白いですよね。ちょっとこれまでに聴いたことのないような音楽になっている……(笑)。次の“LA”はどんな風に考えたんですか?
高岩 これは俺と州吾で、俺の家で作っていきました。最初は8ビートのバンド・サウンドで、キャロルみたいなことをやろうというノリだったんですよ。というのも、別録りで進める形のレコーディングが上手く行かなさ過ぎたんです。アリサはもともと路上叩き上げのドラマーだし、藍もジャズ・ベーシストだし。ジャズでバラ録りなんてやらないんで、クリックを聴きながら弾いたり叩いたりはしないというところにミュージシャンとしてのアイデンティティがある人間で。それで、録音が全然上手くいかなくて。そのときに出来た曲ですね。
でも、そのまま演奏してみても微妙だったんで、そこから打ち込みにしていきました。それで、ウエストコーストな悪い兄ちゃんたちがバリっと流してもクルージングできるような曲にしたつもりです。それをメジャーから出る作品でやる、という感じが面白いな、と。
——やっぱり、遊びだということなんですね。それがむしろ大事なことだった。
飯笹 本当に、友達が集まってワイワイやっているような感覚で打ち込みをしました。
高岩 それをメジャーの人たちが真剣に営業する、というのも含めて面白いと思うので。ただ、もちろん、その面白さを伝えるには音源は真剣に作っていかないと何の意味も説得力もないわけで、そこは頭に血がのぼるような思いをしながら進めていきました。
——次の“Horror”はかなりニュー・ウェイヴ風の曲になっていますね。
菊池 これは僕が持っていった曲で、10月26日のワンマン<THE THROTTLE presents 『Horror』>に寄せて作ろうと思って作りはじめました。
高岩 この曲もめちゃくちゃダサいんだよね。でもそこがいい。
菊池 最初は、ちょっと空気を読んで3コードのロックンロールを持っていったんですよ。そうしたら、「いや、もっとはっちゃけろ」と言われて(笑)。それでシンセのベースを加えて、マイケル・ジャクソンの“Thriller”を意識しました。「ホラー」→「よし、“Thriller”だ」と。そこから、みんなで作っては壊しを繰り返して完成した曲ですね。
Michael Jackson – Thriller (Official Video)
——元ネタは“Thriller”だったんですね(笑)。それをロック・バンドでやった結果、最終的にはニュー・ウェイヴっぽい要素も感じられるものに……。
菊池 なっていきました(笑)。
飯笹 音色も、深夜に家に集まって「ああでもない、こうでもない」と探っていきましたね。
高岩 俺らの中では、映画『ウォリアーズ』(79年)みたいなイメージだったんですよ。80’sのニューヨークのサブウェイのような匂いがする、白人も黒人もチーマーみたいになってて、抗争があるようなイメージで。それが、2人のエッセンスによってどんどん違うものになっていったというか。
——むしろ耽美なニュー・ウェイヴっぽい雰囲気がありますよね。
高岩 そうなんですよ。そして歌詞が極めてダサい(笑)。今回、詞が俺のものだけだと強すぎてリスナーが引くかもしれないから、「みんなで考えたら?」という話になって、この曲はLINEのグループでアイディアを出し合いました。そうしたら、博貴が投稿してきた歌詞が……。
飯笹 その話はやめろ!(笑)。
熊田 ……「悲しき魂の叫び」というもので。
——ははははは!
高岩 思いの他やばかったんですよ(笑)。
飯笹 まぁ、結局ひとつも採用されていないんですけどね。
高岩 とにかく、出来上がった歌詞もダサくて。その苦さがいい。美味しくないお茶、みたいな曲です。
——(笑)。そして最後の“It’s Alright”は、ジャスティン・ビーバーのようなアメリカのポップスと、ニッケルバックのようなスタジアム・バンドが一緒になった曲というイメージです。
高岩 まさにその通りです。この曲は向後さんが作詞/作曲をしたんですけど、アメリカのビルボードのトップ100に入るようなコード進行でやってみようというアイディアで。最初の仮タイトルは「ジャスティン」だったんですよ(笑)。だからメロディもそういう風に作られていて。それに、スタジアム・バンドの雰囲気も意識されていて、題材として向後さんが持ってきたのはU2でした。
Justin Bieber – Die In Your Arms (Audio)
——なるほど。特にアメリカで流行るようなものに顕著だと思いますが、スタジアムでこそ映える音というのがありますよね。この曲にはそれを感じたんですよ。
高岩 俺は向後さんはミュージシャンの中のミュージシャンだと思っていて、この曲も、頭を使った彼なりの皮肉なんだと思います。あと、歌詞で面白いのは、渋谷WWWでのライブのあとに向後さんから「これは実は遼ちゃんのブルースで、口癖の『行けるっしょ』みたいなものをイメージした」と言われて。俺も向後さんも同じ東北出身で、自分にとってスペシャルな先輩なんで、俺のブルースを作ってくれたみたいなんですよ。
—— “It’s Alright”は「行けるっしょ」だった……!
高岩 (笑)。向後さんが最後にこれを残していってくれたというのが面白いし、だからこそこの曲を最後にしたのが、このアルバムの中でも最大の面白さなのかもしれないですね。