一番大きなターニングポイント
——なるほど。では、この間に一番大きなターミングポイントっていうのは何かありましたか?
大谷 やっぱりピチカート・ファイヴの解散じゃないですか(笑)? 2000年っていうのがすごく大きいですね。僕もずっとレーベルの代表をやっていますけど、海外に行ってやっちゃう人とかがいっぱいでてきちゃったんですよね、小野リサとか。
——確かに洋楽志向だった日本のバンドとかは沈静化して。その頃からなのかもしれないですよね、若い人がなかなか洋楽聴かなくなっちゃったのって。
大谷 確かにそうですね、結構なところが洋楽撤退してますもんね、レコード会社も人が減って。
——野宮さんのターニングポイントは?
野宮 解散してソロになって、しばらく渋谷系のポップス以外の音楽を探りながらやっていたんですけど、30周年の時もう1回セルフカヴァーで渋谷系を歌ってみたら、やっぱりいい曲がたくさんあることを改めて感じて。そこから「野宮真貴、渋谷系を歌う」という活動を始めて。90年代に流行っていたピチカード・ファイヴ、フリッパーズ・ギター、オリジナル・ラブなどの渋谷系のヒット曲と、大滝詠一さんや山下達郎さん、はっぴいえんど、バート・バカラック、ロジャー・ニコルズなどの渋谷系のルーツの曲を今のスタンダードナンバーとして歌っています。5年間その活動を続けていたら、渋谷の仕事が増えてきました(笑)。今、渋谷のラジオもやっていて、とうとう渋谷区の基本構想の歌“You make Shibuya〜夢見る渋谷”を歌うことに! 渋谷系と名乗って活動しているので、少しは恩返しが出来たかなと思っています。
——野宮さんが一番潔く引き受けてらっしゃる感じがします。
大谷 ぶっちゃけ跡継ぎがいないですからね。
——当時男性アーティストの方やバンドの方はそう言われたくないといっていた印象もありましたが。
野宮 うん、そういう方たちもいっぱいいましたね。
大谷 当事者は意外とそうでしたよね。なんで渋谷系って言われているのかわかんないっていう人たちばかりでしたけどね。
野宮 私たちも最初はよくわからなかったですよ。
大谷 売り場の作り方の問題ですよね。レコード屋さんがそうするからという。
“渋谷系”と、“渋谷を歌う”両者のアルバム
——「渋谷系を歌う」って活動を続けてこられたので、渋谷系らしいアレンジというのがはっきりしてきたのかなと。今回は『ヴァカンス渋谷系を歌う』というタイトルですが、テーマと選曲についてはどういう風に考えられましたか?
野宮 5年活動していて、毎年秋にアルバム出してライブをしていたんですけど、ファッションでも春夏コレクション秋冬コレクションがあるみたいに、音楽でも季節にこだわった夏のアルバムみたいなものって意外とありそうでないかなと思って。一足早い夏ということで、明るいアルバムをつくりたかったんです。
——すごく幅広いですよね、今回の選曲。
野宮 そうですね。渋谷系のアーティストが影響を受け、リスペクトしている過去の名曲から選曲しているので。そんなに有名な曲でなくても、本当にいいメロディと歌詞の曲を探してきてます。今堂々と「野宮真貴、渋谷系を歌う。」と言っているのは、渋谷系の曲というのは本当に名曲ばかりだからなんですよね。シンガーは、いかにいい曲に出会えるかが大事なので、世界中の名曲を歌えるのは本当に幸せなことなんです。
——今回のアルバムも聴いているとピチカート・ファイヴやフリッパーズ・ギターを彷彿とさせるアレンジだなと思いますね。
野宮 そうですね、アレンジを変えている曲や、原曲忠実にやってる曲もあります。ピチカートとかフリッパーズ・ギターは当時はサンプリングという手法を使ったりしていましたけど、それをあえて生楽器でやったりしていますね。
——すごく面白いのが、ライブ盤の方にも入っていましたが、横山剣さんとのトークの後にクールス(COOLS)のカバーが入っていること。これも以前は考えられなかったと思いますが。
野宮 剣さんとはMCでも言っている通り同期で同い年で、剣さんも実は渋谷系も好きで。それで去年のクレイジー・ケン・バンドのツアーに何か所か参加したんですけど、剣さんのデビュー曲“シンデレラリバティ”をリクエストして歌っていただきました。私がコーラス担当で。
——歴史が詰まっていますね。渋谷系ってきっと渋谷だけじゃないんですよね、横浜のムードなんかもあって。
大谷 いろんなムードを全部吸収して、ブラジルだったり色々なものをいれて。渋谷系にしちゃえば渋谷系になるんですよね、色んな国の音楽は。
——今それを野宮さんのアルバムで感じています。
野宮 GLIM SPANKYの松尾レミちゃんは自分の娘ほどの歳ですが、ご両親が渋谷系好きで、幼いころからピチカート・ファイヴを聞いて育ったそうです。今彼女がやってる音楽はロックですが、60’sのミニワンピースを着てギターを弾く姿がどこか渋谷系とも通じいたりして。そういう若いアーティストが出てきたことも嬉しいですね。ライブでは、私のリクエストでピチカート・ファイヴで一番ロックな曲“Super Star”を歌ってもらいました。
——宇田川カフェの宇田川別館バンドのCDも出るということで。すごくかっこいいですね。
大谷 大丈夫ですかね(笑)。宇田川カフェ別館の店長がうちに17年くらいいて、ずっと音楽やっていて。でもうちのレーベルでは拒否し続けてたんです(笑)。
野宮 それは出すなら自分で頑張れってことで?
大谷 いや全然だめだったから。さすがに最近なんとなく形になってきたんで、しょうがないなと思って。別に出すのは簡単なんですけどね、出すだけだったら。ちゃんと売らなきゃならないから。
——それにしてもこのアルバム、すごくビール推しですよね、ビールの曲とか。
大谷 シブヤビールっていうのを出しているんですよ、うちがオリジナルで。うちの店と東急さんと、渋谷界隈の店にも100店舗くらい置いてます。
——すごく巻き込んでいますよね。シブヤビールを飲めるお店が100店舗ってすごいことだと思いますが。
大谷 自分が欲しいものをいつも考えて作っているんですよね。一番自分が楽したいから(笑)。最近タイ料理食べたいからってタイ料理のお店も渋谷に作っちゃいました。
——渋谷じゃありませんが「蕎麦処 グレゴリー」が一番驚きましたね。
大谷 うちのスタッフが蕎麦屋さんをやりたいって言ってきて、やらせてあげないと辞めちゃうので(笑)。夢は叶えないとね。そんなこんなで30店舗くらいになっちゃいましたね。
——宇田川カフェは移転しましたよね。
大谷 移転しました。2年後にまた以前の場所に建て直し予定です。
これからの渋谷とは?
——今の渋谷は外国人観光客も増えてきていますが、いかがでしょうか。
大谷 最近タイ料理屋の方も毎日外国人の方がいらっしゃいます。代々木公園周辺に住んでらっしゃる外資系に勤めてる方がいっぱい来店されます。昼間からワインとかシャンパンとか飲んでますよ。これから再開発でどんどんホテルやオフィスビルが増えるんですよね。今まで新宿と比べるとホテルが弱かったけど、ホテルが増えればもちろんインバウンドが増えるでしょうし、オフィスが増えればもうちょっと大人が増えると思います。
野宮 何年後ですか?
大谷 2020年のオリンピックまでに半分くらいできるんですって。そしたらちょっと上の年齢層がぐっと増えるので、ちょっと面白いと思いますね。
——これから渋谷が東京だけじゃなくて世界の都市として、どういう街になったらいいなと思われますか?
大谷 安全に刺激ある街がいいですよね。やっぱり日本って何が一番売りなのかというと安全なんですよね、治安がいいと思いますよ。僕は渋谷文化プロジェクトという「渋谷の文化的魅力・街の方向性」を発信するサイトに選ばれてるんですが、出店の話だったら出さないってずっと言っています。僕はもう街のごちゃごちゃした路面専門なので。駅に店を出すと、「どうせ駅だからカフェとかあるわよね」って人が来ちゃうじゃないですか。僕は5%くらいの人がいいと思うお店にしたいと思っていて。渋谷って昇降人口が1千万人くらいだから、5%がよければ50万人なんですよ。そういう店がたくさん増えたほうが街は楽しいわけです。万人受けのものをチェーン店で入れようとすると街が画一化されてつまんなくなっちゃうので、僕はそれに一生懸命抗っているんです。
——個人店みたいなのが増えるといいですよね、この10年くらいで。
大谷 カオスの渋谷をキープするっていうのは東急さんの社長が発表していたので、なんとか頑張って欲しいなと思ってます。
——ある年齢になると渋谷とかまったく行かなくなる人いるじゃないですか。でも結局行ってしまう場所ですよね。
大谷 結局ハブですからね。春の今の時期が一番人多いんですね。フレッシャーズの方々はとりあえず渋谷にくるんですよ。ちょっと慣れてくると中目黒、上原、麻布あたりに行ったり。だんだん街を知ってくると移動したりもするんですが、基本的にはやっぱり渋谷からっていうのがあって。春を制するものが渋谷を制するみたいなとこありますよね。
——じゃあ春から諦めてるとそこから先に進まないってことですね。
大谷 そうなんですよね。だから渋谷に春来た人の期待を裏切らないようにしなきゃいけないんですよね。
——野宮さんは展望というか希望はありますか?
野宮 ロンドン・パリ・ニューヨーク・シブヤと言えるような街にしたいということが一つありますね。色々な人達が出逢う街であって欲しいです。だから面白いことを提案したいなと思って。たとえば、スクランブル交差点で盆踊りとかね。“東京は夜の七時音頭”で皆で踊りたいですね。
——そういう風に前向きに伝統も巻き込んでやっていくってことが逆に未来的なのかもしれないですね。
interview by Yuka Ishizumi
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野宮真貴、ヴァカンス渋谷系を歌う。〜Wonderful Summer〜
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