最新作『地方都市のメメント・モリ』へと至るamazarashi 10年間の軌跡

amazarashi 最新作『地方都市のメメント・モリ』で示した“外”へと向かうバンドの進化 amazarashiBESTashya-1-700x500

あまざらしからamazasrashiへ

amazarashiの前身バンド、STAR ISSUEが結成されたのは2007年のこと。秋田ひろむは同バンド結成以前、4人組のロック・バンドとして成功を目指し、東京に上京して活動していた時期があったが、芽が出ることなく挫折を抱えて青森に帰郷。この経験は特にamazarashi初期における、失意を抱えた者の人生を肯定するような歌詞世界に色濃く反映されている。

日常に降りかかる悲しみや苦しみを雨に例え、僕らは雨曝だが「それでも」という意味を込め、バンド名をあまざらしへと変更した後、2008年に現在の所属事務所レインボーエンタテインメントのA&Rに見出され契約。秋田自身人付き合いが苦手であり、詞の世界観に注目してもらう意向もあって、公に顔出しせずに活動するスタンスが取られるようになった。

2009年2月、ミニアルバム『光、再考。』を青森県限定でリリースし、インディーズ・デビュー。同作は長らく入手困難だったが、前述したベスト・アルバム『メッセージボトル』の限定盤ボーナスとして完全収録された。同年12月に2枚目のミニアルバム『0.』を詩集付きで発表、翌2010年には表記をamazarashiへと変更し、『0.』にボーナストラック1曲を追加した初の全国流通盤『0.6』をリリース。

ここから彼らは、アートワーク・ディレクターにYKBX(横部正樹)を起用し、ビジュアルマスコットとして、てるてる坊主をモチーフとした「amazarashiくん」を採用。以降、彼らのアートワークにはこのキャラクターが必ず登場し、顔出ししないバンドの代わりにビジュアル面での象徴的なアイコンとなっている。

『爆弾の作り方』でメジャー・デビュー

2010年4月、彼らは〈ソニー〉へと移籍してミニアルバム『爆弾の作り方』でメジャー・デビューを果たす。同作のCDジャケットには、日本初の拡張現実(AR)を採用。YKBXがディレクターを務めた“夏を待っていました”のミュージック・ビデオは、3DCGを駆使した最新鋭の映像作品となっており、第14回文化庁メディア芸術祭エンターテイメント部門で優秀賞を受賞。匿名のスタンスを利用して、秋田ひろむの描く生々しい人間性をメディアミックス的に展開するamazarashiというプロジェクトの先進的な戦略は、メジャー・デビューの時点から始まっていた。

amazarashi 『夏を待っていました』

デビューして1年後2011年に初ライブ、ステージの前方にスクリーンを設置しタイポグラフィーや映像を映し出す独自のスタイルを初披露。以後、このスタイルはライブごとに進化を遂げながら、今現在も継続されている。

それから、2010年11月に『ワンルーム叙事詩』、2011年3月に『アノミー』と、ミニアルバムを短い期間でリリースした後、amazarashiは最初のフルアルバム『千年幸福論』を2011年11月に発表。同作は全曲新曲で構成され、初回限定盤には秋田ひろむ初の小説「しらふ」が掲載されたブックレットが付属。オリコンチャート12位を記録したこのアルバムのスマッシュヒットにより、彼らの名前はさらに多くの人に広がっていった。

中島美嘉への楽曲提供、精力的なライブ活動

2012年以降、彼らはライブを行う機会が多くなり、リスナーと生の現場で向き合うことによって秋田ひろむの世界観も徐々に外向きな変化が生まれていく。2013年には中島美嘉から楽曲制作を依頼され、初の提供曲“僕が死のうと思ったのは”を作詞作曲。ライブ活動の面では<RISING SUN ROCK FESTIVAL>でフェス出演を果たし、対バン形式ライブでTK from 凛として時雨と共演するなど、対外的なイベントへの初挑戦も行うように。

一方で、単独ライブでは、小説の朗読とバンド演奏を合わせた「あまざらし プレミアムライブ 千分の一夜物語『スターライト』」をはじめとする新たな試みを行い、そのライブで披露された短編小説を上製本として封入した2作目フルアルバム『夕日信仰ヒガシズム』を2014年10月に上梓。

翌2015年2月には初めてのシングルとして“季節は次々死んでいく”をリリース。この曲はアニメ『東京喰種トーキョーグール√A』のエンディング・テーマとなり、海外のアニメファンにも支持されることになった。また、同曲のミュージック・ビデオはGoogle Mapsとポケモンのコラボ「Pokemon Challenge」等で知られるSIXの本山敬一が携わり、「レーザーカッターによって歌詞の形に切り取られた生肉を、1人の女性がひたすら食べ続ける」というインパクト抜群の内容で話題に。これ以降、本山敬一とamazarashiはシングル“スピードと摩擦”、“命にふさわしい”をはじめとするミュージック・ビデオでコラボレーションしており、映像展開においてamazarashiの新しい魅力を開拓している。

amazarashi 『季節は次々死んでいく』 ”Seasons die one after another” “東京喰種トーキョーグール√A”ED

同年には、メジャー・デビュー5周年を記念して、400名限定の<APOLOGIES>と初の3D映像投影ライブ<3D edition>を、翌2016年にライブ・ツアー<世界分岐二〇一六>を開催。そのタイトルともリンクした3枚目のフルアルバム『世界収束二一一六』が2月に発表された。そこで垣間見せていたディストピア的なSF的世界観は、続く8枚目のミニアルバム『虚無病』で「虚無病の蔓延した世界」を舞台とした小説となり、同作に伴う360°映像投影のワンマンライブでその世界観を反映させた演出が行われることになる。メディアート的な芸術性と物語性の融合という点において、この一連の作品・ライブはamazarashiのみならず、日本のエンターテイメント・シーンにおける到達点の一つと言っていいだろう。

amazarashi LIVE 360°「虚無病」Trailer