最新作『地方都市のメメント・モリ』の世界

こうした歴史を経て、さらなる激動の2017年最後に届けられたのが新作フルアルバム『地方都市のメメント・モリ』だ。ヘヴィなメッセージ作となっていた『世界収束二一一六』『虚無病』のSF的な寓話性から一転して、今作では秋田ひろむが今も住む青森の情景、地方都市で生きることへの思いが数多く描写されるように。そのテーマ性は、冒頭を飾る“ワードプロセッサー”から真に迫るポエトリーリーディングとして伝わってくる。

《骨をうずめるなら故郷に でも僕の言葉の死に場所ならここだ 十年後、百年後 何かしら芽吹く種子だと確信している》

《演算式にしゃべり続けたワードプロセッサー 破り捨てられたちっぽけな一行も 数年を経た今となっては ついには岩のような絶望すらも穿つ》

《燃やすほどの情熱もないと いつか流したあの敗北の涙を 終わってたまるかと睨んだ明日に 破れかぶれに振り下ろした苛立ちの衝動を 希望と呼ばずになんと呼ぶというのか》

東京での挫折を経て、地元青森でamazarashiを結成し、駆け抜けてきた秋田ひろむの十年間の思いが凝縮された、力強い希望と肯定の言葉。それが『世界収束二一一六』でテーマとなった100年後の未来にも何かの種を残すという確信は、彼らの音楽が全世界で受け入れられ、熱狂的なファンを獲得した今だからこそ生まれたものに違いない。

もちろん、その希望と自己肯定は盲信できるほどに確かな実存を伴ったものではなく、ふとしたきっかけで壊れてしまう儚いものだということを秋田ひろむは知っている。「メメント・モリ」とは、「死を想え」という意味のラテン語で、様々な芸術作品のモチーフになっている有名な警句だが、彼は死を現実と隣り合わせに感じることで、希望の光を絶やさずに生き続けようともがいているのである。

《死ぬ気で頑張れ 死なない為に 言い過ぎだって言うな もはや現実は過酷だ なりそこなった自分と 理想の成れの果てで 実現したこの自分を捨てる事なかれ》
(“フィロソフィー”)

ただ、ゆったりとした時間の中で徐々に疲弊し、じわじわと死へ向かっていく地方都市では、強烈な死や生の実感を得ることは難しくもある。シャッター商店街、ショッピングモール、パチンコ店などに囲まれた、世界の果て。それが地方都市の現実でもある。

《退屈も悪くないって言葉は 退屈以外を知ってはじめて言えるんだ》
(“水槽”)

漫然とした退屈が支配する世界の果てで、光を失わずに生きていくためには、《夢、希望も恨みつらみも 「君に会いたい」も「くたばれ」も 詰め込んだ火炎瓶で 世界ざまあみろ》(“空洞”)と憎しみや怒りを原動力とするのもいいだろう。amazarashi初期の秋田ひろむは、確かにそういったやり方で世界と向き合っていたのだから。

しかし、彼は本作で、身近な出会いや別れ、日々の暮らしにもフォーカスを当て、その中に生の実感を見出そうとする。例えば、地方都市で日々起こっている慎ましい別れの瞬間を情緒的に切り取った“悲しみ一つも残さないで”や“リタ”は、キャリア屈指の美しいバラード。劇的なドラマやエモーションだけでなく、何気ない日常の積み重ねと思い出があれば、人は生きる価値を見出せるはずなのだ。

《掴んだものはすぐにすり抜けた 信じたものは呆気なく過ぎ去った それでも、それらが残していった、この温みだけで この人生は生きるに値する》(“空に歌えば”)

amazarashi『空に歌えば』“Singin’ to the Sky” Music Video|「僕のヒーローアカデミア」OP曲

かつては不条理に憤り、世界への復讐のつもりで曲を書いていたという秋田ひろむ。それから時が経ち、逡巡を繰り返しながら外の世界と向き合うことで、彼はついに何気ない日常を賛美する、成熟した普遍性へと手を伸ばした。『地方都市のメメント・モリ』、このアルバムは、amazarashi史上最も優しく、温かい。

《束の間の休息、週末に 公園でぬるい風に吹かれて 繋ぎあう手に 時を経た分、それだけの温もり あの日救った世界の続きを あの日うち倒した世界のその後を 苦悩しながら 僕ら懸命に生きてた 過去 未来 ぼくら対せかい》
(“ぼくら対せかい”)

EVENT INFORMATION

amazarashi
秋田ひろむ 弾き語りライブ「理論武装解除」

2017.12.06(水)、12.07(木)
舞浜アンフィシアター
ADV ¥5,500/DOOR ¥6,500(Sold Outの際は当日券販売ナシ)
一般発売日:10月21日(土)

EVENT INFORMATION

amazarashi
Live Tour 2018「地方都市のメメント・モリ」

2018.04.20(金)
東京・Zepp DiverCity Tokyo

2018.04.28(土)
大阪・Zepp Osaka Bayside

2018.04.30(月・祝)
福岡・福岡市民会館

2018.05.04(金・祝)
愛知・Zepp Nagoya

2018.05.06(日)
広島・JMSアステールプラザ大ホール

2018.05.12(土)
宮城・SENDAI GIGS

2018.05.19(土)
石川・本多の森ホール

2018.05.20(日)
広島・JMSアステールプラザ大ホール

2018.05.26(土)
東京・豊洲PIT

2018.06.03(日)
北海道・Zepp Sapporo

ADV ¥5,500(1ドリンク別)/DOOR ¥6,500(1ドリンク別)

OFFICIAL HP先行予約:2017.12.03(日)まで
一般チケット発売日:2018.01.13(土)

※04.30 福岡市民会館、05.06 JMSアステールプラザ、05.19 新潟県民会館、05.20 本多の森ホールはドリンク代なし
※公演当日は、コンサート収録を行う可能性があります。お客様がカメラに写り込む事があるかもしれませんので、予めご了承ください。

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RELEASE INFORMATION

地方都市のメメント・モリ

2017.12.13(水)
amazarashi

初回生産限定盤A
amazarashi 最新作『地方都市のメメント・モリ』で示した“外”へと向かうバンドの進化 e169fe1366b258cbc626469bd1463505-700x942
[CD+DVD+365日詩集ダイアリー]
※特殊仕様スペシャルパッケージ
¥4,500(+tax)
AICL3462~3464

初回生産限定盤B
amazarashi 最新作『地方都市のメメント・モリ』で示した“外”へと向かうバンドの進化 831ec2aca21eb5e7e8c2b19d5afe6449-700x621
[2CD+DVD]
¥3,900(+tax)
AICL3465~3467

通常盤
amazarashi 最新作『地方都市のメメント・モリ』で示した“外”へと向かうバンドの進化 1c66884deae675932d79c3ec8f32d748-700x694
[CD]
¥3,000(+tax)
AICL3468

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オフィシャルサイト

text by 青山晃大