アイデアもスキルも、すべては三浦大知のエンターテイメントのために。三浦大知、デビュー13年にして初のベスト・アルバム『BEST』リリースに寄せて

ブレイク以降の方向性はブルーノ・マーズら、世界的トレンドのすでに半歩先を行くチャレンジが随所に

“U”（2017年）

現状の最新シングル。トラックのプロデュースはアルバム『FEVER』の楽曲でもタッグを組んだ、ブルーノ・マーズ（Bruno Mars）との制作でも知られるザ・ステレオタイプス（The Stereotypes）。ファンキーというより、力強い足取りでそれぞれのペースで歩くあらゆる人を励ますような、三浦大知なりの応援ソングに仕上がっている。先日の武道館2days公演初日の本編ラストでも、ファンを魅了するエンターテイナーであり、一人の人としての素晴らしさを伝える役割を担う曲に映った。

三浦大知 (Daichi Miura) / U -Music Video- from “BEST” (2018/3/7 ON SALE)

“普通の今夜のことを　― let tonight be forever remember ―”（2017年）

DREAMS COME TRUEからの提供曲として話題を呼んだこの曲。日常的なアイテムや「笑い死にしそうだった昨日の夜を」と言った吉田美和らしいワードセンスが、三浦大知の新しい魅力を引き出している。ロウなビート感とオーセンティックなソウルのフィーリングが融合したドリカム節も、感動を普遍的なものに定着させてくれる。

“DIVE!”（2018年）

最後は、現在の最新曲である“DIVE!”。作詞、作曲共に三浦大知とともにKoichi Taboの名前が見て取れる。ベースを存分にフィーチャーしたグルーヴィで、なおかつ変幻自在なトラックに仕上げているのはアレンジのUTAの力量だろうが、飛翔するメロディやコードワークにTaboとのコラボの意義を感じさせる。すでに配信されているミュージック・ビデオでは、過去の様々なビデオから引用がなされ、それを踏まえた上で、さらに新しい世界へダイブする意思を見せてくれる。

三浦大知 (Daichi Miura) / DIVE! -Music Video- from “BEST” (2018/3/7 ON SALE)

まだどこにもないダンスと音楽の融合

こうしてベスト・アルバム収録楽曲、つまり、シングル曲を一望するだけでも、いかに三浦大知というアーティストが早くから国内外のクリエーターとタッグを組んできたかがわかるだろう。ブルーノ・マーズの『24K MAGIC』リリース以前からザ・ステレオタイプスを作家に迎えていること、またKREVAやRHYMESTERといった日本で一線に立つヒップホップ・アーティストに音楽的なセンスとスキルを早くから認められていたことは、10代の頃からのファンを超えて、幅広くヒップホップ、R&B、ひいてはそれらも好きなロックファンなど多くのミュージック・ラバーの心を捉えてきたのだ。

三浦大知 / Right Now (Dance Rehearsal)

同時にダンスと歌の両面が分かち難い表現になっていることは彼の最大の強み。作り込まれたミュージック・ビデオ以上に衝撃を与えたのが“Right Now”の定点カメラが抑えたリハーサル映像であり、またそのコレオグラフに本人も携わっているものだと知ったいわば通りすがりの視聴者が、三浦大知という名前を忘れられなくなったのも、そのオリジナリティゆえだ。「歌うように踊る」、もしくは、言葉以上に雄弁に感情を表現するダンス。それはジャンルに縛られるものでなかっただけに、より広範囲の人々に広がった。

しかし、楽曲紹介の中でも書いたように三浦大知の魅力は超人的なダンスだけではない。むしろこれまでの6枚のアルバムには、聴かせるバラードも多く収録され、しかもその音像もベタなバラードではなく、ソウル、ファンク、ポップ、ロックなどの要素が絶妙にミックスされた時代の半歩先を行くものだ。全ては三浦大知のエンターテイメントのため。ジャンルや時代の新旧もどう並列するのか、何を融合するのか。数字的には確かに昨年ブレイクしたと言われても納得だが、彼の頭の中では、以前からもっとロングスパンで、まだ誰も見たことのないエンターテイメントが模索されているのではないだろうか。

text by 石角友香