ここでマーラというアーティストについて、復習しよう。ダブステップ・シーンのパイオニアであるデジタル・ミスティックスをコーキとともにスタート。00年代初期から地元クロイドンの伝説的な<Big Apple Records>や、クラブ<Plastic People>で行われていたイベントを経て、ダブ・ステップを本格的に普及させることになるパーティ<DMZ>を開催。10年代に突入してもなお、ブリアルやジェイムス・ブレイクら、ダブ・ステップ〜ベース・ミュージックに影響を与え続ける存在として、現在は単独でプロデューサーとして活躍中だ。

今回の『ミラーズ』では、前回のキューバからペルーへ、そのサウンドやビートのルーツの源泉を探り、マーラ自身の音楽性とリンクしたインスピレーションが14のトラックに落とし込まれている。マーラとパートナーのカミーユは現地に一ヶ月滞在し、首都リマで急成長中のトロピカル・ベース・シーンに触れた李、旧都クスコや郊外の<聖なる谷>を訪れたという。そこで地元のアフロ・ペルー系パーカッショニストや民衆舞踊のタップダンサー、アンデスの歌姫ら、彼の地のルーツ・ミュージックをマーラのオリジナルであるベース・ミュージックと融合。重低音と空間を広くとるサウンド・プロダクションはマーラそのものなのだが、笛やパーカッション、時には鳥の鳴き声などのフィールド音も、単に上物として彩りを添えるような構成にはなっていない。時々、それが生の打音なのかシークエンスなのか混同するような場面に遭遇すると、人間のプリミティヴなビート感にボーダーがないことを実感して、不思議な気持ちになる。

ジャイルス・ピーターソンも惚れ込む才能。MALAとは music160610_mala_2

『ミラーズ』ジャケット

中にはペルーの民衆舞踊サバテオのダンサーによるタップの音が巨大なサウンドシステムで鳴らされ、明らかに未体験の邂逅を聴くことができるし、1940年代にオリジナルが発表された“CUNUMICITA”という曲のカバーは原曲に忠実な仕上がり。また“Sounde of River”と題された曲では、<聖なる谷>を流れる川の音のフィールド・レコーディングとソプラノの歌姫で人類学者でもあるシルヴィア・ファルコンの歌声を聴くことができ、マーラの作品の中では珍しいメロウネスすら感じさせる。そして、アルバムを締めくくる“4Elements”ではペルーの民族楽器のサウンドと怒涛のような打ち込みのドラムサウンドが、ストップ&ゴーを繰り返す。言わば、エレクトロニックなベース・ミュージックに最も近い印象を与えるトラックが配置されているのだ。が、このトラックは現地入りする前、想像上のペルーを定着させたものだというのも面白い。

マーラというクリエーターの視点と嗅覚を通して過去と現代がリンクする『ミラーズ』。フィジカルに訴える重低音が作る酩酊感、そして私たち日本人も反応してしまうペルーの音階やサウンドが持つ郷愁感。決してアカデミックなものではなく、リラックスして感覚的に楽しめる作品に仕上がっている。

Mala – 4 Elements

RELEASE INFORMATION

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