世界で最も影響力のあるDJ、プロデューサー、そしてラジオパーソナリティであるジャイルス・ピーターソン。2014年にはリオデジャネイロを訪ね、ブラジル音楽界のヒーローたちとUKのアーティストが邂逅し、プロジェクト“Sonzeira(ソンゼイラ)を結成。ブラジルの至宝を未来に繋ぐヒストリカルなアルバム『Brasil Bam Bam Bam』の制作、そのプロセスや現在のリオデジャネイロの光と影を焼き付けたドキュメント映画も公開され、ジャイルスのブラジル音楽への愛情を再認識させてくれたことは記憶に新しい。

また今年5月には松浦俊夫と共に日本で初めて、しかもジャイルスがプロデュースするイベントとしては初のデイタイム開催も話題になった<Gilles Peterson presents WORLDWIDE SESSION 2016>をプロデュース。サン・ラー・アーケストラやミゲル・アトウッド・ファーガソン、日野皓正といった「レジェンド」から、SOIL&”PIMP”SESSIONSといった「ニューウェーヴ」まで、未来に継承したい偉大なリズム、そしてジャイルスの審美眼によってセレクトされた極上のプレイリストが立体化したフェスティバルとなった。

Gilles Peterson presents WORLDWIDE SESSION 2016 short review

時代やジャンルを超えて最高のビートを探す旅を続けるジャイルス・ピーターソンにとって、イベントのオーガナイズやDJと共にライフワークの両輪となっているのが、自身のレーベル<ブラウンズウッド・レコーディングス>。来年、始動から10年を迎える同レーベルは、かつて彼が主宰した<アシッド・ジャズ><トーキン・ラウド>が、サウンド面のテーマを持っていたことに比べると、クラシックをバックボーンに持ちつつクラブミュージックを表現手段に選んだベン・ウェストビーチ、ヴォーカル・ジャズの歴史を00年代に塗り替えたホセ・ジェイムスの才能も世界に知らしめたという点で固定されたレーベルカラーではなく、真にジャイルス・ピーターソンが感銘や衝撃を受け、「多くのミュージックラヴァーに伝えたい」という、純粋なモチベーションでアーティストをフックアップするレーベルだということが分かる。そんな<ブラウンズウッド・レコーディングス>から2012年に自身2作目となるアルバム『マーラ・イン・キューバ』をリリースしたマーラ(MALA)。ジャイルスにとっても近年の大きな功績となった、現在進行形のキューバンミュージックと、西欧諸国の先鋭的なアーティストの間でケミストリーを起こした『ハバナ・カルチュラ・ミックス – ザ・サウンドクラッシュ!』において召喚された、その1人がマーラである。が、ジャイルスとマーラはそれ以前にも2人でキューバを訪れている。2011年にジャイルスの『ハバナ・クルトゥーラ: ザ・サーチ・コンティニュー』のレコーディング・セッションを行ったマーラは、スタジオの廊下に自身のレコーディング環境を設置し、現地の才能あふれるミュージシャンとのセッションを行い、ロンドンに戻った後、前述の2ndアルバム『マーラ・イン・キューバ』を完成させたのだ。そのように近年のジャイルスに大いにインスピレーションを与えるマーラが、旅の目的地をキューバからペルーへ移して完成したニューアルバム『ミラーズ』をリリースする。

Mala Mirrors Trailer

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