4作目『ヴァイタルズ』とトゥエンティ・ワン・パイロッツとの邂逅
『オッド・ソウル』のツアー中から新作に向けて曲を書いていた彼らだが、アルバムの制作はまたもや順調にはいかなかった。メンバーそれぞれに子供が生まれて住む場所もアメリカ各地に散らばり、以前のようにスタジオに缶詰になって制作に没頭というわけにもいかない。うまくまとめることができない楽曲のアイディアが積み重なり、バンドは当初取り組んでいた曲よりも後からできた楽曲群の方が統一性もあって納得のいくものが多いと感じていた。
そこで彼らはそれらの楽曲を『ヴァイタルズ』というアルバムにまとめ、2015年に4作目のアルバムとしてリリースする。もともとギターよりも鍵盤楽器を得意としていたトッドの活躍もあって、シンセ・オリエンテッドな作品に仕上がった同作は『オッド・ソウル』とは対称的と言えるサウンドだが、ポールのボーカルが艶を増し、シンガーとして新たな高みに達していることを感じさせた。
バンドは『ヴァイタルズ』を引っさげ再びツアーをスタート。アメリカ国内を回って再び未完の楽曲と向き合おうとしていたところで、とあるオファーが入る。『ブラーリーフェイス』で本格ブレイクを果たした2人組、トゥエンティ・ワン・パイロッツの北米ツアーのサポート・アクトに指名されたのだ。
彼らには以前から好感を持っていたというミュートマスはこれを快諾し、多い時には3万人を動員する大規模ツアーに連日出演。これによりバンドは新規のファンを開拓しただけでなく、トゥエンティ・ワン・パイロッツとの交流により音楽的にも非常に刺激を受けた。
そのケミストリーはツアーが終わっても続き、2016年12月にはトゥエンティ・ワン・パイロッツの楽曲をミュートマスの4人が加わって6人でリクリエイトした“TOPxMM (the MUTEMATH sessions)”を公開。このスタジオ・ライブの模様は現在もYouTubeで公開されており、どちらのバンドのファンも必見の素晴らしいセッションだ。
twenty one pilots: TOPxMM (the MUTEMATH sessions)
2016年9月には『ヴァイタルズ』の楽曲のリミックスに新曲を加えたアルバム『Changes』も発表。これで『ヴァイタルズ』期にキリをつけた彼らは、トゥエンティ・ワン・パイロッツとの邂逅で得た自信とインスピレーションを携え再びスタジオへ戻る。
「生と死」や「物事の始まりと終わり」をテーマとした最新作『プレイ・デッド』
そして2017年春、遂に完成させた通算5作目となるフル・アルバムが『プレイ・デッド』だ。家族との別れや新たな命の誕生を経験したポールは、本作のテーマを「生と死」や「物事の始まりと終わり」に置き、それを祝福するようなものにしたかったという。そして奇しくも『プレイ・デッド』はミュートマスの一つの時期の終わりを象徴する作品となった。
まず本作の完成と同時に、家族との時間を大切にしたいとして、ベースのロイがツアーからの離脱を表明。ただし楽曲制作やレコーディングには関わっていく可能性があり、将来的にツアーに復帰することも十分ありえるとして、熱心なファンからは惜しみながらも彼の決断を支持する声が多かった。そしてロイの代わりに加わった新ベーシストが、ジョナサン・アレン。ミュートマスの面々とは長年の友人であり、2008年の<サマーソニック>でロイが欠席した際に代役を務めたのもこのジョナサンだ。
それよりもっと激震が走ったのが、アルバム・リリースとツアー日程が明らかになった後で発表されたドラマーのダレンの脱退だ。バンドのコア・メンバーであり、ミュートマスのライブで一番の見所であると言っても過言ではないほどの超絶テクニックと独特のプレイ・スタイルを持つ彼が、なぜこのタイミングでバンドを去ることになったのかは明らかにされていないが、ポールの発言から推測するにダレンの方から脱退の意思を示したらしい。
これにはポールもバンドの解散を考えたようだが、代役を立てることで予定通り8月からツアーをスタートした。この難しい局面でダレンの代役を引き受けた“ハッチ”ことデヴィッド・ハッチソンは、かつてポールやロイと共にアーススーツを組んでいたメンバー。彼がアーススーツを脱退することになり、後任のオーディションを受けたのがバンドの熱烈なファンだったダレンなのだ。ダレン自身ハッチのことを「最も影響を受けたドラマー」としており、ダレンの穴を埋められるのは彼以外にいないということで白羽の矢が立った。
というわけで、図らずも『プレイ・デッド』はバンドのオリジナル・メンバーであるダレンとロイが参加した最後のアルバムとなった。しかし再生ボタンを押す時には、その事実は一度横に置いておいてほしい。この作品は約5年もの間新作の方向性を模索してきた彼らが、お互いを高め合いながらまとめあげた一つの結晶だ。
ロックな『オッド・ソウル』とシンセ色の強い『ヴァイタルズ』の中間
ニュー・ウェイヴ、ファンク、ロックンロール、ビート・ミュージック、いろんな要素を普遍的なグッド・ソングの形にまとめつつ、ザ・エックスエックスやサンダーキャットに影響を受けたと思しき箇所もチラホラ。かつてはあまりシーンの動向を気にせず我が道を行くタイプのバンドだと思っていたが、同世代の先進的なアーティストたちから受けた刺激をより直接的に反映させる手法は『ヴァイタルズ』以降特に顕著に表われてきたように感じる。
各パートがぶつかり合う緊張感みなぎる“War”、ポールの転がるようなヴォーカル・メロディが心地よい“Break The Fever”、間奏のギター・ソロに痺れる“Pixie Oaks”……ロックンロールな『オッド・ソウル』とシンセ色の強い『ヴァイタルズ』の中間に位置するようなサウンドは、どちらの時期が好きなリスナーにも受け入れやすいだろう。また、これからミュートマスのアルバムを聴いてみるという人にとっては最初の一枚としても非常にオススメできる作品だ。
MUTEMATH – War (Official Music Video)
text by 中嶋友理