社会人である「週末バンド」toconomaが10周年を記念したツアーファイナルの渋谷TSUTAYA O-EASTを完売。そのライブをレポートする。のだが、今夏、初の<フジロック>出演を果たした後のタイミングでメンバーに初めてインタビューした際に感じたのは社会人とかバンドマンとか無関係に人としてのリテラシーの高さだった。それゆえに仕事と趣味という凝り固まった区別ではなく、仕事も音楽も人生における大切なこととしてインクルードされ、何が欠けても自分自身が納得いかない、ゆえにどっちも頑張る、でも自分自身の体力やメンタルと相談しながら……という、人間的な魅力に自分自身やられたクチだ。
この日、O-EASTを埋め尽くしたオーディエンスにも少なからず、彼らの人間力に魅了されたり、触発されたりしている人もいたことだと思う。もちろん音楽ありきなのだが、バンドがライフスタイルを提示して、しんどいこともあるけど、楽しく生きたいよね、と示唆をくれるのはどんな仕事をしている人にも確実に勇気になる。
エントランスにはデザイナーでもある清水郁哉(dr)デザインのニューグッズ、石橋光太郎(gt)と矢向怜(Ba)が使用しているFreedom Custom Guitar Researchのブースも出展。メンバーがセッティングしたアンプでギターやベースが試奏できるのも楽しい。またおなじみのイラストに第五のメンバーを書き足し、そこに顔ハメできるパネルも掲出され、いろんな世代が撮影していた。ちなみに今回、高校生以下は無料とあって親子連れも目立っていた。グッズのデザインがバンドのセンスを反映しているのはさすがデザインの本職。普段使いできそうなプロダクトが多く、それもtoconomaのライブに足を運ぶ楽しみの一つになっているのは間違いない。
Photo by Kana Tarumi
Live Report:toconoma
2018.11.18@TSUTAYA O-EAST
ステージ背景には大きな「TOCONOMA 10TH ANNIV.」のバックドロップ。上手から石橋、清水、矢向、西川隆太郎(P)、そしてセンターは空いているtoconomaスタイルだ。オープナーはジャズバーで流れるクリスマス・ムードのジャズといった趣きで“Sunny”から。一転してハードボイルドなイントロから西川のスペイシーな音色も印象的な“Jackie”へ。さらに石橋のアルペジオとカッティングが冴え、清水がタフなビートで支える“monolith”のイントロでは歓声が上がった。
2階から4人のプレイを把握しながら演奏を聴くと、リズム隊もリズムキープに限らず4人が「喋るように」リフやフレーズを差し込んでくるのがわかる。インストバンドのダイナミズムといえばそれまでなのだが、toconomaのそれはストイックなだけでも、ユルい訳でもなく、まさに人が出ている。3曲をノンストップで演奏したあと、西川が「いやぁすごい(光景)ですね。満員御礼、TOCOJAWSにようこそ、かんぱーい!」と、ビールを煽ると、すかさず石橋が「休みの日のおじさんじゃない?」と突っ込む。二人の掛け合いは今日も絶好調だ。西川が言う通り「休みの日に5時から飲む感じ、最高」である。いや、演者でしょう、あなたはとこちらも心の中で突っ込む。ちなみに西川以外は飲めないことはファンも知っているようで、そのことがライブの後半にも効いてくるのだが……。
サンバなリズムの“Little Fish”や、レゲエマナーから後半どんどんプレイが白熱していく“Apolo”、スリリングなラテンフレイバーで、ピアノとギターのユニゾンなど聴かせどころたっぷりな“carmen”と、また3曲をノンストップでプレイし、フロアの熱量がみるみる上昇していく中、再び西川と石橋の脱力トークが。“carmen”に関するエピソードなのだが「以前、友人のパーティで深夜の2時にこの曲を演奏したら、蜂の子を散らすようにささーっとお客さんがいなくなって」と石橋。「モーゼの十戒かと思うぐらい」という西川の返しに「以来、『モーゼ』って呼んでるんですけど。今日はぎゅうぎゅうなんで十戒は起こらないかと」と石橋が笑わせる。さらにバックドロップと同じデザインのミニタオルが来場者全員に配布されたのだが、やれ台ふきんとか、その台ふきんを回すような曲がないから回すような曲を作ってみるか? とか、相変わらず演奏のテンションとトークのユルさのギャップがすごい。いや、それもtoconomaのライブを肩の凝らないものにしている大事なエレメントなのだが。
以前もリキッドルームで2部構成のライブを行ったが、この日も同じく2部構成。1st setのラストはライブ定番曲の“Second Lover”でレアグルーヴィにフロアを大いに揺らした。
10分程度の休憩を挟み、2nd setがスタート。背景が黒い幕で覆われているのはステージに屹立するライトを際立たせるためだと思われる。クールなカッティングとムーディなエレピが都会的かつ、シュアにループする16ビートがダンスに没入させる“AFTER WEST”。toconoma流のアーバンなセンスが光る。さらに西川のクラビのリフが跳ねる“underwarp”では、ムービングライトの演出も豪華で、曲の世界にさらに没入できる。下世話な話で申し訳ないが、ライティングの豪華さはこの後も続き、10周年を祝う節目のライブで4人は全く儲ける気がないんじゃないか? と詮索してしまった。そんな事よりプロのバンドとして演奏も演出もクオリティの高いものを見せる。それこそが節目にふさわしい…….いや、もっと言えば「かっこいいことは全部やっちゃおう」というのが本音かもしれない。そして“underwarp”では矢向がベースソロで前方に歩み出て喝采を浴びる、のだが白熱した演奏を終えて、次の曲に移ろうとする矢向の元に機材担当が来て、アンプやエフェクターを調べている。そこで西川が「ベースソロもっと盛り上がると思ってたのに…….もう一回やる?」とメンバー全員に振ると、矢向がフロアに向かって「すいませんでしたー!」と謝罪。「10周年、いろいろあるよね。じゃ、ベースソロの前からもう一回やる?」と、即決でやり直し。それがオイシイとか笑えるとか、狙ってできるものではないし、失敗は失敗なのだが、改めてしっかりベースの音が出ているソロはやはり聴きごたえが全然違った。西川は「ベースの音が出なくてやり直すところまでがリハーサル通りの演出だから」と言っていたが、多分違う(笑)。
toconoma “underwarp” (Live Music Video)
続く四つ打ちのビート感と洒脱なAOR的なフレージングの“Anchor”では、ミラーボールが撒き散らす光の粒がマッチしていた。
続く“Yellow Surf”は石橋の刻むリフと淡々とした清水のビート感が歩き続けるようなニュアンスを与え、実際にはないのだがコーラスが重なってもおかしくないような優しいアンセミックな雰囲気も。ドラムのビートが途切れたところで自然とハンドクラップが起こるあたりはライブならではの熱量だろう。そして“L.S.L”もアーバンで都会的。その上で西川のフレーズは口ずさめるような親しみやすさもあり、3rdアルバムのタイトル『NEWTOWN』に沈む夕陽ってこんな感じでは? と一瞬思った。新しいとか古いとかを超えたニュースタンダードだ。この曲の中でも各楽器の聴かせどころを配し、ソロ回しというほど大げさではないものの、4人それぞれの「歌」が聴こえるような隙間の多いアンサンブルが、インストバンド、ジャムバンドという、普段ポップスを聴いているリスナーにとってはとっつきにくそうな先入観を曲そのもので突き崩してきたtoconomaの個性が伺えた。
toconoma”Yellow Surf” live MV
toconoma “L.S.L” MV
1st setから様々な表情を見せ、トータル13曲を演奏し終えたところで、西川が今年は念願の<フジロック>に出演したこともあり、本編ラストは<フジロック>と同じ曲目を同じ曲順で演奏すると説明。あの日のフィールド・オヴ・ヘブンにいた人なのか、歓声が上がった。まさに自然の風を感じるようなピアノ・イントロから日の光のようなエフェクティヴなギターの単音が重なって深呼吸したくなる“the morning glory”。オーガニックなインストバンドの王道感がある曲だが、実際に自然が眼前に立ち上がる感じの演奏は2ndアルバム『TENT』リリース時より深化を遂げているはずだ。さらにタイダルなグルーヴとラテンテイストで畳み掛ける“Vermelho do sol”。清水のプリミティヴでシュアなドラミングが終始堪能でき、矢向の哀愁のあるフレージングも素晴らしい。ソロ回しでもあり、この曲が持つ世界を旅するような実感をピアノ、ベース、ドラム、ギターそれぞれのフレーズや音色で表現し、緊張感が持続し続ける演奏がフィニッシュすると大きな拍手と歓声が上がった。
toconoma “Vermelho do sol” MV
本編ラストは石橋のカッティングが導くように人力ダンスミュージックの真骨頂“relive”へ。西川の懐かしい印象のあるスペイシーな音色のフレーズ、オルガンなど様々な色を変える鍵盤と拮抗するように石橋と矢向のリフがノンストップでダンスミュージックとしての軸を支える。もちろん石橋のシュアな16ビート、特に乾いたスネアが最高だ。自由に踊りまくったフロアからは惜しみない拍手が送られ、やりきった表情で4人はステージを後にした。
toconoma”relive” MV
止まない拍手に応えてアンコールで登場した4人。西川が少し遅れて出てきたのは「ビールの飲み過ぎ」というのはあながち嘘じゃない気が。石橋が感謝の言葉とともに「言うても僕らも明日、会議入ってるんで! ディア・マイ・フレンズ!」と同胞たるオーディエンスにエールを送ると、西川がその曲をさらっと弾きながら「休みサイコー!」と声をあげる。そして石橋が「僕ら、伝えたい言葉はないけど、伝えたいことはあるんだよ」と、toconomaの核心に触れる一言を発し、大いに賛同を得ていた。それはインストバンドであることだけでなく、彼らの活動スタイルも広い意味では含んでいるんじゃないだろうか。
急遽、1曲のはずのアンコールを予定していた2曲両方を演奏し、最後は「今年もお疲れ様でした。ちょっと早いけど良いお年を!」と、今日この場にいる全員を労った。toconomaの音が鳴っている場所はいつもフラット。少なからず勇気をもらって、2019年もまた彼らのライブで会いましょう、そんな気持ちがフロアに充満していた。
toconomaセットリスト
2018.11.18@TSUTAYA O-EAST
1st set
1. Sunny
2. Jackie
3. Monolith
4. Little fish
5. Apolo
6. carmen
7. Second Lover
2nd set
1. AFTER WEST
2. underwarp
3. orbit
4. Anchor
5. Yellow Sirf
6. L.S.L
7. The morning glory
8. Vermelho do sol
9. Relive
En1. seesaw
En.2 Evita
EVENT INFORMATION
SYNCHRONICITY’19 New Year’s Party!!
2019.02.03(日)
OPEN 16:30/START 17:00
代官山UNIT
ADV ¥3,800(1ドリンク別)
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