一回見たら忘れられないインパクト抜群のルックスで、エレクトロニックなサウンドとストーリー性の高い歌詞を融合するアーティスト、ピノキオピー。どうしてちゃんやアイマイナちゃんという自作のキャラクター・イラストの他、LINEスタンプなども手掛けて全方位型のマルチな活動を続ける彼は、「楽しい」を基準に様々な要素を横断。今回完成したライヴ作品『祭りだヘイカモン』でも、彼自身のルーツによって刷り込まれた「ライヴ=祭り」感をいっぱいに詰め込んだ一大エンターテインメントを展開。神輿や刀が登場する異空間で、ボーカロイドの音声とピノキオピーのヴォーカル、そしてライヴの相方、MK-2(マーク・ツー)が繰り出すスクラッチを軸に、ボカロ・シーンの外側へも開かれたライヴを展開しているのです。

「なーんだ。ボカロPは興味ないな」——。そう思ったそこのあなた。いやいや。すべてのジャンルに言えるのだけれど、勝手な固定観念で面白い音楽を聴き逃してしまうのは本当にもったいない。実際、音楽とイラストとアート、もしくはギャグとシリアスの垣根を鮮やかにすり抜けるシーンの異端児による『祭りだヘイカモン』は、曲のクオリティも相まって、ボカロ好きにもその手の音楽には疎い人にも、同時に、かつストレートに刺さってしまうはず。だってこんなに面白いエンターテインメント、そうそうないと思うんですよ!

ピノキオピー – 祭りだヘイカモン(trailer)

Interview:ピノキオピー

——ピノキオピーさんは09年にニコニコ動画に“ハナウタ”を初投稿して活動を始めましたが、それまでは漫画を描いたり、フォークをやったりしていたんですよね? そこからボカロを始めるというのは結構飛躍しているような気がするんですが、きっかけはどんなものだったんでしょう?

ボカロ自体は09年の時点でニコニコ動画上にいちジャンルとして存在するのは知っていたんですけど、僕はそんなに聴いていなくって、「そういう物があるんだなぁ」としか思っていなかったんです。それよりも、動画サイト上に色々と動画を上げて楽しんでいる人がいて、「僕も何か動画を上げられたら楽しいだろうな」と考えていて。だから、最初はボカロじゃなくても、何でもよかったんですよ。それこそ当時はゲーム実況プレイの黎明期で、それも上げてみようかと思ったんですけど、結局止めて。その時、「そういえば曲を作れるな」と思ったんです。その時はまだそんなにパソコンの知識もなかったんですけど、色々検索した結果、「こうやって歌わせるんだ」ということが分かって。それで遊べるかな、と思って曲を作り始めたんです。それまでラヴソングとかも作ったことはなかったんですけど、みんなラヴソングを聴いているから、じゃあそれを作ってみようかなとか……「こういう感じかな?」という風に作り始めたんです。

——その当時、初音ミクにはどんな魅力を感じましたか?

始めた経緯がそういう感じだったので、その時はまだ魅力を感じていなかったと思いますね。「声が聴きとりづらい」とか、「これだったら人が歌った方がいいんじゃないかな」という感想で、人間じゃないものが歌っているという神秘性も、当時はほとんど感じてなかったです。最初は初音ミクに歌わせているものがアイドルっぽいものだという固定観念があったんですけど、徐々にバンド・サウンドで曲を作ったり、詞も泥臭いものを書くような人たちが現れるようになった時期で。その中に、ぼく好みな曲を書く人がいたんです。それで、「楽しそうだな」「やってみたいな」と思いました。。もともとピコピコした音は好きで、詞は人間のことばっかり歌っているものが好きだったんで、「電子音のサウンドでそういう歌詞の人ってあまりいない、自分が出来ることはそれかな」って。

——じゃあ、好きな音楽/影響を受けた音楽は具体的にはどんなものだったんでしょう?

最初に音楽を好きになったきっかけはスピッツで、筋肉少女帯、真心ブラザーズ、電気グルーヴ。この4つが特に僕の好きなものなんですけど、スピッツはメロディが好きなのと、後はやっぱり、初期がちょっと変態的だったりするのがいいなと思うんです。音楽もそうですけど、言葉だったり、活動していくスタンスに惹かれる部分があるのかもしれないですね。

——電気グルーヴさんのひたすら面白いことを続けている雰囲気も、ピノキオピーさんの活動にも通じているような感じがします。

好きなものであり、尊敬の対象であり、畏れであり……という存在なので比較されるのは恐れ多いです。

異端のボカロPピノキオピー!独自のライブスタイルやルーツに迫る。 interview151214_pinokiop_9

——歌詞はどんな風に書いていくんですか?

マンガであったり、映画であったり、音楽であったり、自分の好きなものをかいつまんでいった結果こうなっているのかなと思いますね。藤子・F・不二雄さんの怪奇短編が家にあってそれを読んだりしていました。子供の頃に好きだったものって今もあまり変わっていないんです。モチーフをいっぱい書いていって、そのモチーフからどういう連想が出来るか、ということを考えていきますね。色んなことを考えて、そこからかいつまんで、なるべく伝わるように、フックになる言葉を選んで並べていくという感じです。

——たとえば、『祭りだヘイカモン』の収録曲の中で1つ挙げてもらって、具体的に曲のアイディアが生まれた経緯を教えてもらえると嬉しいです。

“すろぉもぉしょん”は、1人暮らしを始めて去年の2月に初めてインフルエンザになって、「自分は死ぬんじゃないか」と思ったんです。その時感じたことを歌にしたいなと思って。その少し前からSofTalk(合成音声でテキストを読み上げるソフトウェア。ニコニコ動画では「ゆっくり」と呼ばれる)を使って曲を作り始めていたのでそれも組み合わせてみました。

——1曲の中に、色んなアイディアを詰め込んでいく感じなんですね。

そうですね。なるべく色んなものが繋ぎ合わさるように組み合わせていくんです。

——でもフォークだとひとつテーマがあって、それを届けることが多いですよね? ピノキオピーさんはフォークが好きだったのに、なぜ今のようになったんでしょう?

きっとフォーク的な手法だと、一個のテーマを伝えるために一つの視点に立った歌詞になると思うんですけど、僕はそこまで色んなことを知っているわけでもないですし、思想的なことを伝えたいという気持ちもないんです。だから、自分には自分なりの感じ方や考え方があって、他の人には色んな感じ方や考え方もあると考えていった結果、ひとつのものごとの裏表であるとか、実はそれが同じに見えたりすることがあるな、という自分なりのテーマが生まれていったんだと思います。

異端のボカロPピノキオピー!独自のライブスタイルやルーツに迫る。 interview151214_pinokiop_7

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