——イラスト面で影響を受けたものはあったんですか?

何でしょうね? もともと、低い等身のキャラクターが好きなんですよ。小学校の頃は(星の)カービィばっかり描いたりしていて。藤子不二雄さんの作品もそうですけど、等身低めのものが好きだったんです。

——音楽もイラストも、スタンプも作っていて、本当に色んなことで才能を発揮していると思うんですが、自分の肩書きを説明するとしたら、どんな風に説明しますか?

主に曲を作っていて、たまに絵を描いている人という感じですかね……? それ以外に言いようがないですし。絵よりも音楽へのモチベーションが上がってしまった結果、続いているという感じなんです。昔は絵やマンガを描いていましたけど、それは結構つらくて(笑)。当時は全然反応がなかったですし、自分が正しいことをやっているのか、これは面白いのかどうかすら分からなくて。だから、反応があったものに引っ張られていったのかもしれないですよね。ニコニコ動画に音楽をアップして、すぐに反応が返ってくるのが嬉しかったんですよ。

——それはコミュニケーションをしたい、ということですかね?

そうですね。

——14年にアルバム『しぼう』を出した頃に、「もっと人間味のあることがしたい」と言っていたと思うんですが、その辺りからライヴもかなり変化してきていますね。マーク・ツーさんとの2人体制になって、もっとお客さんと直接的にコミュニケーションを取るようになっているというか。

それまでは人前に立つこと自体が嫌だったんです。単純に、緊張するじゃないですか(笑)。「出来ねえよ……!」ってずっと思っていたんですけど、その反面、人前でライヴをすることへの憧れはずっとあって。でもライブを続けているうちに徐々に人前に立つことが苦ではなくなってきて、少し考える余裕が出来てきたんですよね。「もっとこうしたら盛り上がるかな」とか色々と考えて、結果今のようなライヴになってきたんですけどね。

——マーク・ツーさんと一緒にやられる前の段階から、色々と工夫されていましたよね?

そうですね。色々と考えてはいたんですけど、最初は「いかに自分が前に出ないか」という消極的な方向で考えていたんです。だから僕じゃない人を立てて、その人が最後に歌うのに、僕は歌わないっていう(笑)。そうやって投げっぱなしのライヴをしていたんですけど、「これ、よくないな」って思ったんです。作っているのは僕なんで、やっぱり僕が出なきゃいけないなって。当たり前のことなんですけど(笑)。当たり前のことが、意外と恐かったんです。

異端のボカロPピノキオピー!独自のライブスタイルやルーツに迫る。 interview151214_pinokiop_5

——キャリアが投稿から始まると、ライヴの現場というのはやっぱり難しいですよね。

そうですね。ニコ動に投稿しているだけの時は、自分の曲が世に出ている感覚もあんまりなくて。作品を上げて、そこに人がいるのかどうかもイマイチ実感が無い状況で繰り返していたので、「外に出ないまま外に出てしまっている」という感じだったんです。

——実際に外に向かっていった時に、一番大変だったのはどんなことでしたか?

僕は状況を素直に見れないことが多くて。だから、感情を振り切って何かをやることへの葛藤があったと思います。でも、いくつかのライヴを観ていくうちに「恥ずかしがっているとヤバいな、これ誰も得しないな」と思って。それこそ曲を投稿して反応がすぐ返ってくるというのと同じで、ライヴをしていく中で、観に来てくれた人たちの声が返ってきたり、表情が見えたりすることが分かってきて。「ああ、こんなにも伝わるんだな」ということが実感できたんですよ。

——それで、もっと見に来てくれる人とコミュニケーションを取ろう、という方向になっていったわけですね。

そうですね。僕自体、もともと人混みも苦手なんですけど、苦手ながらもやっているから、「そういう人が来ても楽しめるような場所が作れたら」と思うんですよね。

——マーク・ツーさんが参加することになったのはどういう経緯だったんですか?

『しぼう』を発売した時にリリース・パーティーをすることになったんですが、自分が前に出るためには、機材がいじれて、場の雰囲気が分かって、僕の感覚も理解してもらえる人が必要だったんです。その時近くにマーク・ツーさんがいたんです。初めて2人で仮面をかぶってステージに立ってみたんですけど、そのすわりのよさも感じたんですよね。その日以来、徐々に今の方向性に固まっていったんです。最初僕は歌を歌っていなかったんですけど、ある日のライブで最後に演ったこあ”という曲だけ歌ってみたんです。その時使ったマスクは歌うための加工をしていなかったんで、おそらくお客さんも何を歌っているのかあまりわからなかったと思うんですけど(笑)。(過去のマスクを見せてくれながら)口のところが……閉じていたんですよ(笑)。

——ああ(笑)。

そうやってモゴモゴしながら歌ってる、というのが最初で。でもやってみたら、「もっと声出していいな」って思えたんですよ。それがだんだんエスカレートしていったというか。

——今はめちゃくちゃ歌っていますよね。

そうですね(笑)。隙あらば歌うという感じで。

——1人ではなくなったことで、ライヴにどんな違いを感じていますか?

それこそ、余裕が出来ましたよね。1人で複数の機材を操りながら歌うとなると大変だし、それにひとりでラップトップを前にして歌っていると、パッと見カラオケに見えちゃうと思うんです。ステージの前に出てくるようになったのも最近の話で。つい数ヵ月前に北海道のイベントに出たんですけど、その時に「ステージの前に出てみよう」ということになって、突然。というのも、北海道で初のライヴだったんで、僕も何だか晴れやかな気持ちになっていまして。

——遠征でテンションが上がっていた、と(笑)。

前日にジンギスカンを食べて美味しかったな、という気持ちもありました。でもやってみたら、すごく楽しかったんですよね。それに、以前はサンプラーは叩いてなかったんですけど、2人体制になってからは、その場で音を足したり引いたりということも出来るようになりましたしライブのやり方についても徐々に積み上げが出来てきて。

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