世界で最も影響力のあるレーベルの1つとして、フライング・ロータス率いる〈ブレインフィーダー〉は決して外すことは出来ない。2008年のスタート以来、数々の傑作を生み出し続ける彼らの勢いはとどまる所を知らず、エリカ・バドゥやトム・ヨークなどをも虜にし、音楽シーンの流れを一気に変えた。そんな中でも今最も注目したいのが、待望の2ndアルバム『アポカリプス』のリリースが間近の、サンダーキャットことスティーヴン・ブルーナー。世界的なジャズドラマー、ロナルド・ブルーナー・シニアを父に持つ等、恵まれた音楽一家に育った彼は、高校時代から西海岸の代表的ハードコア・パンクバンド、スイサイダル・テンデンシーズの一員として活躍。その自由で研ぎすまされた音楽性はフライング・ロータス作品でも大きな力を発揮し、さらにはロータスと共にあのハービー・ハンコックとのプロジェクトも進んでいるというのもとても興味深い。

フライング・ロータスがエグゼクティブ・プロデューサーを務める最新作『アポカリプス』では、ベースプレイのみならずヴォーカルにも積極的にチャレンジし、さらに元マーズ・ヴォルタのトーマス・プリジェン、チック・コリアのニュー・プロジェクトでも来日を控える若手ベーシスト注目株 アドリアン・フェロー等の参加も気になるところ。また待望のレーベル・ショウケース<ブレインフィーダー3>も、6月28日(金)の代官山UNITを皮切りとして、6月29日(土)大阪CLUB KARMA、6月30日(日)金沢MANIERと、国内3ヶ所での開催が決定! サンダーキャットの出演はもちろん、ラパラックス、ティーブス、そして日本からもmabanua、やけのはら、DJ SARASA と超強力なラインナップが揃う一夜は全音楽ファン必見である。アルバムリリース目前のタイミングで実現したインタビューをじっくりと読んで、最新作の魅力を一足先に紐解いてみよう。

★先行公開『アポカリプス』より“Lotus and the Jondy”
Jondyとは昨年急逝したオースティン・ペラルタのニックネームであり、”喪失と再生”をテーマにした本アルバムの中でも重要な意味を持つ楽曲。作曲はサンダーキャット自身とフライング・ロータスが手がけ、後半に圧巻のドラミングを披露する元マーズ・ヴォルタのトーマス・プリジェン、また新世代ソウルの旗手エイドリアン・ヤングらも制作に参加している。

Interview : Thundercat

――2011年8月にリリースされたデビュー・アルバム『ザ・ゴールデン・エイジ・オブ・アポカリプス』も大変高い評価を得たわけですが、その後、今作へ至るまでの間、音楽への向き合い方や心境面などで、何か変化はありましたか?

変化は少しあった。今までとは違った音楽や芸術の分野へと追い込まれた感じがする。始め、俺は自分の位置と言うものを理解していなかった。アーティストになるということに付随する様々なことついて知らなかった。良い意味でも悪い意味でも、周りの人や友人が変わってくる。最初はそれに当惑していた。友人が自分に何を求めているのか、そして、いつも同じものを求めているのかが分からなかった。俺が彼らのために変わるべきなのか?そんなことを色々考えてしまった。でも、今の心境はまあまあというところだよ。今のところ上手く波にのってやってきていると感じている。

――あなたのプロフィールを読むと、かなり前から音楽活動をしていましたよね? 16歳のときからSuicidal Tendenciesでプレイしていた、など…

そのとおり。Suicidal Tendenciesとはもう13年近くプレイしているんだ。すごいよね(笑)

――待望の最新作『アポカリプス』は、日本でもいよいよ6月19日にリリースとなります。プレスリリースでは、「喪失と再生を描いた作品」との表現が見受けられましたが、この真意を教えて下さい。

アルバムが完成して、振り返ってみたときに全体のトーンがそういう感じのものだった。アルバム制作中には、俺の人生においても色々な出来事があった。知ってのとおり、オースティン・ペラルタの死や、その他にも変わったことが起きていた。感情面で今まで経験したことのなかったことを体験し、それがある程度だが音楽に反映された。このアルバムの最後の曲はオースティンに捧げる曲で、この曲は今でも自分で聴くのが辛い曲だ。だがそういう辛い感情などが、今回の音楽に反映されている。

――トム・ヨーク、レッド・ホット・チリ・ペッパーズのフリー、エリカ・バドゥ、ハービー・ハンコックなど、ジャンルを越えた様々なアーティストが、今回の新作を賞賛されています。そのことに関して、率直な感想を教えて下さい。

とても素晴らしいことだと思うよ。彼らが俺の音楽を聴いて楽しめたということは、俺にとってとても嬉しいことだ。これからも、同じように人を感動させる音楽を世の中に出していくことができれば良いと思っている。本当にそういう称賛の声が聞けてとても嬉しいよ。

――今作でも、ジャズ、ソウル、エレクトロニカ、プログレッシヴ・ロック、コズミック・ファンク、ディスコ等、とにかく様々な音楽的要素が感じられましたが、ジャンルというカテゴライズには収めることが出来ない、あなた自身の音楽観が全編に渡って見事に表現されていると感じました。特に、”Heartbreaks + Setbacks” で聴くことの出来た、スペイシーで深く包み込むようなサウンドはとても印象的だったのですが、制作を進めるにあたって、あなたが思い描いた全体的なイメージやコンセプトは、どのようなものだったのでしょうか?

あの曲を作ったときは、俺は傷ついていた。世の中で起こる辛い現実の出来事に直面しなければいけなかった。死や破局。感情の落とし穴のような様々な出来事。それらに対するエネルギーを使って素敵な、良いものを作ろうとした。あのときは本当に精神的にこたえた…特にオースティンが亡くなった後は。オースティンが亡くなってから真っ先にいった所は日本だった。彼の死を知ったその日かその翌日に日本へ行った。しばらくの間、自分の周りで起きている事や状況から離れなければいけないと思った。どうしようもない状況だったから。

――それは予定されていた来日ではなくて、突然決めたことだったのですか?

いや、もう何も考えずにただ日本へ発った。クラック中毒者みたいな動きだよね(笑)
とにかく、この曲にはそういう背景がある。

――今作に参加したミュージシャンとしては、ドラムには元マーズ・ヴォルタのトーマス・プリジェン、グラミー賞も受賞しているピアニストのルスラン・シロタ、若手ベーシストの中でも大変注目されているアドリアン・フェロー、さらには、デルフォニクスのアルバム・プロデュースも話題となったエイドリアン・ヤングと、とても興味深い顔ぶれが並んでいます。彼らとの共同作業を経験して、どのような感想を持ちましたか?

みんなとの共同作業は最初から最後まで本当に楽しかった。アドリアン・フェローは俺の大好きなベーシストの一人だ。彼は楽器の演奏の仕方がとても革新的で、ものすごく良いプレイを本当にたくさんしてくれる。彼のプレイを見ていると飽きないよ。彼は表現したいことで溢れているんだ。多くの人がこのアルバムに貢献したいと言ってくれて感謝している。アルバムに参加することについても、とてもオープンな姿勢で協力してくれた。最初のアルバムを聴いて、彼らが俺にどんな期待をしているのか分からなかったから、今回のアルバムでみんなと共同作業できたことは俺にとって大きな進歩だ。

――あなたはこれまで、〈ブレインフィーダー〉とも長く関わり、フライング・ロータスとの関係はとても強いものだと思いますが、今作でも彼は、エグゼクティブ・プロデューサーとして全編に関わっています。音楽的な面はもちろん、フライング・ロータスを一人の人間として捉えた時、彼はあなたにとってどのような存在だと言えますか?

簡単に言うと、彼は俺の大親友の一人だ。一緒に楽しい時間を過ごす奴だ。そして素晴らしいアーティストでもある。彼は〈ブレインフィーダー〉をとても上手に運営していて、俺は彼と今までコンスタントに一緒に仕事ができて本当に嬉しく思っている。彼と築き上げた絆は、そう誰とでも作れるようなものじゃない。だから彼との関係を当然のことと捉える事は決してない。彼が仕事の連絡をしてくれる度に俺は感謝してる。それはとても特別なものだからだ。彼のような人とクリエイティブなことをするのはとても特別なことだから。

★インタビューまだまだ続く!
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