「ワールド・ミュージックの紹介を通して世界各地のさまざまな文化との出会いと交流の場を作り、地域に根ざした新たな音楽文化の創造を目指す“市民参加型フェスティヴァル”」。そんなプレス資料に“あくまでも理想”としてマニフェスト的に掲げられてはいても、なかなか実質的に実現するのは奇跡に等しいことを富山県の南砺市(旧・福野町)でしっかりと有言実行してきたのが、この<スキヤキ・ミーツ・ザ・ワールド>という音楽フェスである。

91年にスタート以降、ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブやアフリカのマリ共和国のロキア・トラオレらを筆頭に、毎年その時々のワールド・ミュージックにおける“旬”と呼べる存在を招聘し続けてきた一方で、95年には市民で構成されたスティール・パン楽団である“スキヤキ・スティール・オーケストラ”を結成。現在は、その未来のメンバーを自然と育む地元の福野小学校のスティール・パン楽団、ワークショップを通して結成された韓国やブラジルの打楽器グループや親指ピアノのアンサンブルまでもが存在し、オープニングや招聘アーティストのステージ前に行われるストリート・パレードなどでのそれらのグループの演奏もまた大きな見どころとなっている。街全体が音楽を奏でるピュアな喜びと、未知の音楽を享受する好奇心に溢れているというか。全国に夏の音楽フェスは数多あれど、このスキヤキが醸すヴァイブスは特別だ。

そして近年は、<スキヤキトーキョー>をはじめとする富山以外での公演の開催や、既存のプロモーターを介さずに海外のミュージシャンと直接交渉することによって長期滞在を可能にし、開催前に合宿を行うことによってスキヤキ・オリジナルの多国籍コラボ・ユニットを結成して海外公演やCDリリースも成功させるなど。地元の人々を中心とした200名を超える有能なボランティア・スタッフによって組織された実行委員会を核に、<スキヤキ・ミーツ・ザ・ワールド>は富山から日本のワールド・ミュージック・シーンをリードし、海外に向けても独自のプロダクツを発信しうる存在となりつつある。では、記念すべき25周年を迎えた富山の<スキヤキ>と連動して行われる、今年の<スキヤキトーキョー>の出演ミュージシャンたちを紹介していこう。

スキヤキトーキョーとは?

<スキヤキ>が海外から招聘した多彩な顔ぶれのワールド・ミュージックの音楽家たちを、3日間に分けて東京でも紹介するべく11年からスタートしたのが<スキヤキトーキョー>。今年は西アフリカのセネガルとマリ、中南米のブラジルとホンジュラスから選りすぐりの新旧実力派が登場するばかりでなく、アフリカ音楽と南米音楽の繋がりを意識的に示すラインナップとなっている点も大きなポイント。スキヤキが育んだ多国籍ユニット=クアトロ・ミニマルが出演する3日目にも注目を。

スキヤキトーキョー出演アーティスト紹介!

シェイク・ロー

ワールドミュージック好き必見!スキヤキトーキョー出演者を紹介 64e0fa747ac259807ce6e3ca08945295

ユッスー・ンドゥールも敬意を示す、セネガル発の“孤高の大物”

同じくセネガル発のアフリカ音楽を代表するスーパースター、ユッスー・ンドゥールのプロデュースによる96年作『ネ・ラ・ティアス』で世界デビューしたシェイク・ローは、今年で60歳を迎える現代アフロ・ポップの巨匠。70年代中盤からブルキナ・ファソのアフロ・ファンク・バンドで活躍し、シンガーソングライターとしてもドラマーとしても豊かな才とキャリアを誇る彼の音楽は、セネガルのンバラと呼ばれる音楽を軸にブラジルのサンバやキューバ音楽、ファンクやレゲエの要素も柔軟にミックスさせたハイブリッドなもの。5年ぶりとなった最新作『Balbalou』でも、ブラジル出身でパリを拠点に活動する女性歌手のフラヴィア・コエーリョ、マリを代表する実力派歌手のウム・サンガレ、レバノン出身のジャズ・トランペット奏者のイブラヒム・マーロフらをゲストに迎え、円熟の渋みと衰えない音楽的冒険を兼ね備えた新境地を示している。今回が待望の初来日となる点でも見逃せない。

Cheikh Lo – “Degg Gui”(feat. Flavia Coelho & Fixi)

アウレリオ・マルティネス

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中米のユニークな混血音楽=“ガリフナ”の現代の伝道師

アフリカと中央アメリカの先住民の混血によって生まれ、カリブ海沿岸で独自のカルチャーを育みながら暮らす民族“ガリフナ”。アウレリオ・マルティネスは、1976年にホンジュラスのガリフナ・コミュニティに生まれ、アフリカ音楽とラテン~カリブ海の音楽がユニークな形で融合したガリフナ音楽を現代化させたサウンドを奏でてワールドワイドな評価を得てきたスーパースターであり、ホンジュラス初の黒人国会議員をも務めている。前作『ラル・ベヤ』ではユッスー・ンドゥールらの参加も得てアフリカ音楽との繋がりを強く掘り下げた境地を聴かせたが、最新作では原点回帰。彼の故郷であるプラプラーヤと呼ばれる小さな村をテーマにしたアルバム『ランディニ』をひっさげての今回の来日では、世界的な成功を経てより深くルーツに回帰したガリフナ音楽の真髄をたっぷりと聴かせてくれることだろう。

Aurelio – “Full Performance”(Live on KEXP)

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