香港・シンガポール・マレーシアと連載を続けてきたが、今回取り上げる台湾はその中でも、そして恐らくアジアの中でも最も文化的に日本と近しい国と言えるだろう。日本のテレビ番組、ドラマ、映画、アニメ、ゲーム、音楽、ファッションなど著名なコンテンツは台湾にも届いていることはきっと周知のことだろうと思う。では、インディー・ミュージックシーンは日本とどのように似通っていて、どのように異なるのか、を今号と次号に分けて、取り上げたい。
今号では、つい先日1stアルバム『ANGLE 角度』の国内盤がリリースされ、8月19日(金)恵比寿リキッドルームと8月20日(土)<Summer Sonic 2016>での来日公演が間近にせまっている、台湾の新世代インストゥルメンタル・スリーピースバンド「Elephant Gym(大象體操)」から、ギターでありリーダーであるTell Changに話を聞いた。台湾のミュージックシーンや自身のバンドについて語ってもらっています。
Interview:Tell Chang(Elephant Gym)
(右)Tell Chang。ベースのTifとは兄妹。
ーーこれまで自分は台湾、中国、香港、マレーシア、シンガポール、フィリピンでバンドとツアーをしたことがありますが、台湾はこれらアジアの国々とはちょっとミュージックシーンや音楽の在り方が違うように感じました。
Tell Chang(以下、Tell) そうだね。台湾の首都である台北は、中国、香港、台湾、シンガポールなどを含めた、中華圏におけるチャイニーズ・ポップのミュージックシーンでは最も重要な都市だよ。1960年代、中国では、メディアやアーティストは政府によって、厳しい統制下にあった。だから、台湾や香港は中華圏のアーティストにとってはパラダイスだったんだ。
それからというもの、中華圏で成功するのは台湾や香港のアーティストが中心だったんだ。だから、多くの台湾出身のアーティストは、チャイニーズ・ポップのミュージックシーンに存在していると自らを捉えている。中華圏のオーディエンスは歌詞や美しいメロディー、歌そのものに重きをおく傾向があったんだ。それで結果的に、スローでラブリーなバラードが中華圏のマーケットを支配するようになった。
ただ、20年前ぐらいからインデペンデントなミュージックシーンが栄えてきて、ある特定のジャンル、ミュージックシーンに自分たちが帰属していると考えるようなアーティストがでてくる。例えば、台湾で最も有名なメタルバンド「CHTHONIC」(ソニックと読む、フジロックやラウドパークでの来日や、アメリカ・オズフェスト出演+全米ツアーなどを行ったこともある)のようにね。そこから、歌詞やメロディーだけに重きを置くのではなく、全ての楽器における表現やディテールまでこだわるようになって、更に、世界に進出するということも考えるようなアーティストが増えたよ。
ーーなるほど、Elephant Gymではすでにアジア各国を周ってますよね?
Tell うん、中国、香港、マレーシア、シンガポール、日本だね。日本は本当に成熟したシーンがあるね。香港は、中国政府との関係でここ最近ずっと問題が起こってる。多くのライブハウスなどが常に閉鎖の危機にさらされてる。中国はミュージックシーンの幅がとても広くと感じたよ。政府の力も借りて、大きなフェスもとても増えてきた。
Elephant Gym(大象體操) / SEE YOU THEN 紀實短片 【Official Short Documentary】
2014年に行ったジャパン・ツアーの様子も収められた、ショートドキュメンタリー。
彼らの人柄が感じとれて、それが音楽に反映されているのが伝わってくる。
ーーElephant Gymはマネジメントもいなくて、リリースもいろんなところの力を借りながらも自分たちでやるなど、インデペンデントなまま成功を収めているけど、台湾ではメジャーとインディーの違いはある?
Tell そうだね、あると思うよ。メジャーは、中華圏のオーディエンスが求めているものにフォーカスしているのに対して、インディーは、よりオリジナリティにフォーカスしてると思う。加えて、マーケットの規模に非常に大きな差があるね。台湾で最もビッグなバンドであるMaydayは、北京だけのショーで20万人を動員しちゃうからね。
ただ最近は、インディーとメジャーの繋がりが多くなってきているよ。インディーのアーティストがポップ・シンガーの曲や詞を書いたり、メジャーのアーティストもインディーのアーティストとのコラボレーションをしようとしたり。
Elephant Gym feat. 洪申豪 / 夜洋風景ocean in the night【Official Music Video】
NUMBER GIRLに強い影響を受けたとして、日本でも有名な台湾のオルタナティヴロック・バンド「透明雑誌」のボーカルをフィーチャーした楽曲。
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