2008年にデビューするや否や、80KIDZは日本を飛び越え、いきなり世界の前線へと躍り出た。ゼロ年代末、間違いなく彼らは、当時の最先端の潮流=エレクトロの日本代表として世界から認知されていた。
では、その後、彼らはどのような道のりを歩んできたのか。その時々の音楽シーンをどのように捉え、どのような距離感で接し、どのような形で自分たちの楽曲や活動へと落とし込んできたのか。デビュー10周年を記念した初のベスト・アルバム『BEST KIDZ 2008-2017』のリリースに際し、それを紐解いていくのが、このインタビューの目的だ。
詳しくは以下の対話に譲るが、デビュー当初から海外の音楽シーンの潮流と共振するサウンドを提示してきた80KIDZにとって、音楽のみならず様々なカルチャーにおいて海外との乖離が進む2010年代の日本での活動は、決して簡単なものではなかったようだ。しかし、何度かの挑戦や葛藤を経て、今の彼らは日本にフィールドを限定せず、再び世界へと目を向けようとしている。まずは海外で先行して評価された80KIDZにとって、これは原点回帰とも言えるモードだろう。果たして、もう一度80KIDZは世界への扉を豪快に打ち破ることができるのか? その答えはこれから数年のうちに明らかになるはずだ。
ここで本記事の構成を説明しておこう。このインタビューでは、ALI&とJUNと共に、80KIDZの10年の歴史を一年ずつ振り返っている。彼らには事前に、①各年の80KIDZを象徴する曲と、②80KIDZ以外のアーティストの曲でその年を象徴する曲を選んでもらった。それを起点として時系列で話を進めることによって、80KIDZの過去と現在を俯瞰し、何かしらの未来へのヒントを読み取ることができるように努めた。
本記事は前編と後編の2パート編成。前編では2008年から2012年までの5年間について話を訊いている。この後編では2013年から2018年、そして今後の展望に至るまで話を訊いた。
Interview:80KIDZ
2013年
▼80KIDZが2013年にリリースした作品
『80:XX – 01020304』(2013.12.18)
▼80KIDZが選ぶ2013年を象徴する自分たちの楽曲
ALI&:Nineteen
JUN:SWG | Wahaus
▼80KIDZが選ぶ2013年を象徴する他のアーティストの楽曲
ALI&:Disclosure / Latch
JUN:Disclosure / Latch
——2013年は、フロア向けのダンス・トラックをコンスタントにデジタル・リリースしていく『80シリーズに取りかかっていた年でした。なぜ、ここでそういった方向に舵を切ったのでしょうか?
JUN 2012年にリリースした『TURBO TOWN』の収録曲は、DJ向けではなかったんですよ。
——『TURBO TOWN』は、バンドでのライブを想定している曲も少なくなかったですからね。
JUN だから、この時に僕たちが聴いていたダンス・ミュージックを反映させたものを作りたい、DJツアーでかけられる曲を作りたい、って考えたんです。
ALI& 実際、『80』シリーズはDJたちからすごく評判がよくて。「やっぱりすごいね。こういうの作れるんだ」って。
——具体的に、当時はどういったダンス・ミュージックの潮流を取り入れたサウンドを作りたいと考えていたんですか?
JUN 例えば“Wahaus”は、UKガラージみたいな音をやりたくて作りました。
ALI& レイヴ感がある今っぽいのを出したくて、“Nineteen”を作ったり。
JUN で、アシッドっぽいものを作ってみようとしたのが“SWG”です。僕はインディから聴き始めているので、最初はアシッドとかよく理解できなかったんですよ。「歌が入っていないし、ウニョウニョ言ってて、何だろう?」ぐらいな感じで(笑)。コード進行もないし、聴きどころがわからなかったんです。でも、わかってくると、このウニョウニョのフレーズがいいんですよね。フィルターの開き具合とか。
ALI& あの固いハットとかね。
JUN そうそう。DJとして受け入れられる音楽の幅が広がったんですよ。だから、いろんなダンス・ミュージックにトライしたいと思って作りましたね。
——2013年を象徴する他のアーティストの曲として二人が挙げてくれたのはディスクロージャー(Disclosure)の“ラッチ(Latch)”です。彼らは“Wahaus”で取り入れたようなUKガラージのリバイバルを象徴するアーティストですよね。デビュー・アルバムは全英1位を獲得して、もう一度ハウスをメインストリームに押し上げたアーティストでもあります。
JUN そうですし、UKベースの流れから頭一つ抜けたアーティストでもありますよね。
ALI& エレクトロ以降、ヨーロッパで初めてムーヴメント感を強く感じられたのが2013年でした。この年をきっかけに、若手もいっぱい出てきたじゃないですか。世界的にそういう流れが生まれているんだなと思いましたね。
JUN こういう音、増えましたよね。
——そうですね。UKガラージとか、ベースライン・ハウスとか。2013年はディスクロージャーとコラボしていたアルーナジョージ(AlunaGeorge)みたいな新世代が脚光を浴びましたし、クラブ・シーン自体も再び活気づいた印象があります。
ALI& 復活した感じがありましたよね。この時期からボイラー・ルームが頑張ったのも大きいんじゃないかと思うんですけど。
Disclosure – Latch feat. Sam Smith (Official Video)
——日本で言うとDOMMUNEのような、DJセットを動画配信するプラットフォームですね。確かにボイラー・ルームの存在は大きいと思います。世界のクラブ・シーンのコミュニティの底上げに貢献しているのではないでしょうか。
ALI& おかげで、ディープなクラブ・ミュージックが広がった印象がありますね。
JUN ALI&くんも影響されて<PEOPLE ROOM>っていうイベントを始めたもんね。DJハウス(DJ haus)とリトン(Riton)がゲストに出て。今考えると、すごい人が出てるんですけど(笑)。
ALI& 頑張ったからね。
——そう考えると、この年に80KIDZがフロア志向へと舵を切ったのは、イギリスを中心としたヨーロッパにおけるクラブ・シーンの隆盛とリンクしていたところがありそうですね。
ALI& そうですね。
——その一方で、2013年はダフト・パンク(Daft Punk)が8年ぶりのアルバム『ランダム・アクセス・メモリーズ(Random Access Memories)』をリリースした年でもあります。
JUN 当時は、ダフト・パンクがどんなものを出してくるんだろうって思ってたら、「えっ、これなの?」ってなりませんでした? 今聴けばわかりますけど。
ALI& そう。あの当時は、すごくガッカリしました(笑)。でも、小林くん(インタビュアー)はめっちゃ褒めてましたよね?
——そうですね。あのアルバムは曲が粒ぞろいかと言われると、微妙なところもあるんですけど。そもそもダフト・パンクのすごいところは、必ずアルバムごとに明確な新しいヴィジョンを打ち出してきて、それがその後の音楽シーンの潮流に大きな影響を与えているところだと思うんです。実際、『ランダム・アクセス・メモリーズ』では、EDM全盛の時代に敢えてクラブ・ミュージックの原点=ディスコ/ファンクの時代にまで遡って、バンド編成のスタイルを打ち出してきた。あれは斬新でした。直接的であれ、間接的であれ、多くのアーティストをインスパイアしたと思います。
ALI& そうですよね。僕らも2014年にはその影響が出ているんですよ。
——では、2014年はその話から訊かせてください。
Daft Punk – Get Lucky (Full Video)
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