2014年

▼80KIDZが2014年にリリースした作品
『FACE』(2014.09.24)

▼80KIDZが選ぶ2014年を象徴する自分たちの楽曲
ALI&:I Got a Feeling feat. Benjamin Diamond
JUN:I Got a Feeling feat. Benjamin Diamond

▼80KIDZが選ぶ2014年を象徴する他のアーティストの楽曲
ALI&:FKA Twigs / Two Weeks
JUN:Pharrell Williams / Happy | Michael Jackson / Love Never Felt So Good

——2014年は4枚目のアルバム『FACE』をリリースした年です。この年を象徴する自分たちの曲として二人が挙げているのが、ベンジャミン・ダイアモンドをフィーチャーした“I Got a Feeling”。ベンジャミン・ダイアモンドは、ダフト・パンクのトーマ・バンガルテル (Thomas Bangalter)とのユニット、スターダスト(Stardust)で大ヒットを飛ばしたシンガーですよね。

ALI& この曲でベンジャミンをフィーチャリングしているのは、ダフト・パンクに対する僕らからの回答でもあるんです。(ダフト・パンクの原点である)フレンチ・ハウスをやろう、っていう。JUNくんがこの年を象徴する他のアーティストの曲として選んだマイケル・ジャクソン(Michael Jackson)もファレル(Pharrell Williams)も、“I Got a Feeling”に通じるところがあると思うんですよ。

——大きな括りで言えば、どの曲もダフト・パンク『ランダム・アクセス・メモリーズ』以降の、クラシックなダンス・グルーヴを感じさせる曲っていう。

JUN ファレルの“ハッピー(HAPPY)”は、もろにダフト・パンクの流れがありますよね。マイケル・ジャクソンの方は、純粋にこんなすごい曲が残っていたんだっていう驚きがあって。自分でエディットしてDJで使っていました。

ALI& だから、JUNくんもダフト・パンクの流れがあるんですよ。引っ張られてる(笑)。

JUN 当時は「俺が求めているダフト・パンクじゃない!」と思って、そんなに聴いてなかったんですけどね。

ALI& でも、周りが影響を受けているから、そこから影響を受けている部分はあるんじゃない?

——ダフト・パンクが起こした大きな波に、知らないうちに飲み込まれていたっていう。

ALI& そうそう。

JUN そういえば、(『ランダム・アクセス・メモリーズ』に参加していたナイル・ロジャースのグループである)シック(Chic)のアルバム買ってました(笑)。

——思いっきり感化されているじゃないですか(笑)。では、今振り返ると、『FACE』にはダフト・パンクの影響も少なからずあったと。

JUN ハウスをやりたい、っていうモードが来ていたんですよ。

ALI& 『FACE』はハウス感が強いアルバムですね。“Venge”とか、ところどころ80KIDZっぽさが出てる曲もありますけど。結構、時代背景が強く出ているアルバムだと思います。

——そうですね。もちろんハウスの流れもありつつ、R&Bっぽさが出ている曲もありますし、いわゆるネット・ミュージック以降の感覚を投影している曲もあって。時代の旬なサウンドを80KIDZのフィルターを通して上手く表現したアルバムだと感じます。

JUN ありがとうございます。

——僕はこのアルバムは、ファースト以来の傑作だと思っています。ただ、世間的にはどのように受け取られたと感じていますか?

ALI& うーん、どうだったんでしょう? 難しいですね。自分たちとしては、80KIDZの今後の道標となるアルバムを作りたい、っていう意気込みで作りましたけど。『80』シリーズを出しているので、それとは違うものをやりたいとも考えていて。それで、ちゃんと歌もフィーチャリングしたりとか。

JUN この頃にはキャリアも5、6年になって、見え方も以前とは違うわけじゃないですか。最初は新鮮で面白がられていましたけど、求められるものが変わってきていたと思うんですよ。上手い若手もドンドン出てくる中で、僕らがいつまでも荒い音ばっかり作っていても、っていう(笑)。

ALI& それも面白いんですけどね(笑)。この時はまだそういうことはできなかったですね。

——今振り返ってみて、実際に『FACE』はその後の80KIDZの活動の土台になっていると思いますか?

ALI& なっていると思います。これが必要だったなって。このアルバムは自分たちのセレクト・ショップみたいなものっていうか。今まで自分たちがやってきた音楽、聴いてきた音楽の要素を上手く取捨選択しつつ、リスナーが求めている要望も念頭に置いて、上手くセレクトして、「どうぞ」って差し出している感じがあるんですよね。『TURBO TOWN』は、こっちがやりたいことをガッとやっているんで。そういう部分はこのアルバムが一番強いと思います。

JUN “I Got a Feeling”は今でもDJでかけますし、形にできてよかったなと思います。あれは自分たちを代表する曲のひとつだと感じているので、そういう意味でも今に繋がるものをちゃんと作れたという手応えはありますね。

——2014年は、カルヴィン・ハリス(Calvin Harris)やアフロジャック(Afrojack)みたいなEDMプロデューサーが次々にヒットを飛ばしていたのはもちろん、アリアナ・グランデ(Ariana Grande)がゼッド(ZEDD)を迎えてEDMをやったりもしていました。ちょうど日本でもEDMが流行り出した時期ですね。当時はEDMとの距離感はどのように考えていました?

ALI& ああ、インタビューでも、EDMがどうとか、よく言われた時期でした。あの頃は、キャッチーな方向に振れるとEDMって呼ばれるところがあったので、そう解釈されるのは嫌だなっていう気持ちが強かったです。

——実際はEDMではなくても、そう言われてしまうっていう。

ALI& そうそう。今はそんなことないですけど、その頃は本当にそういう傾向が強かったので。自分たちもそこに括られるのが怖いな、っていう感覚があったんですよね。だから、この頃はEDMへの拒否反応が特に強かったです。そう思われないような曲を作ろう、って意識していましたね。

——なるほど。

ALI& 僕はこの年を象徴する他のアーティストの曲として、FKAツイッグス(FKA twigs)の“Two Weeks”を選んでいますけど、これもEDM的でポップなものとは逆のベクトルに行っていた音楽なので。

——かなりエクストリームで、先鋭的なR&Bで一躍脚光を浴びたシンガーですね。

ALI& 要は、そういうものにばっかり目が行っていた時期だったんですよ。

FKA twigs – Two Weeks

2015年

▼80KIDZが2015年にリリースした作品
『Baby EP』(2015.09.16)
『Gone EP』(2015.12.16)

▼80KIDZが選ぶ2015年を象徴する自分たちの楽曲
ALI&:Baby feat. HAPPY
JUN:Gone feat. KenKen | Baby feat. HAPPY

▼80KIDZが選ぶ2015年を象徴する他のアーティストの楽曲
ALI&:CHVRCHES / Bury It
JUN:FKJ / Open The Door

——2015年はEPを2枚出していますね。“Baby”にはHAPPY、“Gone”にはKenKenをそれぞれフィーチャリングしています。全11曲中7曲でゲストをフィーチャリングした翌年のアルバム『5』の布石となるような展開でした。

ALI& そうですね。国内のアーティストのフィーチャリングをどんどんやり始めたタイミングです。

——これまでは海外のアーティストをフィーチャリングすることが圧倒的に多かったですけど、なぜこのタイミングで日本のアーティストと一緒にやろうと考えたのでしょうか?

JUN 今まで僕らをサポートしてきてくれた層には十分に届いていると感じていたので、これからは新しい人たちにも届けていきたいよね、っていう気持ちが生まれてきて。

ALI&
 この頃になると、日本でも僕らより下の世代に才能あるアーティストがどんどん出てきたじゃないですか。

——HAPPYはこの頃、二十歳前後でしたよね。バンドだったらYogee New Waves、never young beachとかもデビューしていましたし、翌2016年にはSuchmosが“STAY TUNE”で大ヒットを飛ばします。ダンス・ミュージックのプロデューサーではtofubeatsやSeihoがすでに脚光を浴びていたのはもちろん、TREKKIE TRAXのクルーの活躍も注目されていました。

ALI& そんな中で、新しい世代のリスナーにも「80KIDZっていうアーティストがいるんだよ」っていうのを伝えるにはどうしたらいいのかなって。それと、おこがましいですが、HAPPYやKenKenさんの新しい可能性を、僕らを通じて少しでも広げることができればいいな、とも考えていました。

——この年はまず、HAPPYをフィーチャーした“Baby”がリリースされました。僕としては、『FACE』のモードから一転して、「思いっきりポップに振ってきたな!」という印象でしたが。

ALI& 実際、ポップにしようと思っていましたね。僕らが思うポップな感じ、キャッチーさを彼らにぶつけて、自分たちだけではできないことをやりたいと考えていました。元々HAPPYも海外志向が強い楽曲を作っているバンドで、ディープなことをやろうと思えばできるんですよ。でも、それは個々にできることだから、一緒にやるなら違ったことをやりたいなと。

80KIDZ “Baby (feat. HAPPY)” (Official Music Video)

——この年の作品では、自分たちの既存のファン層とは違うところにまで届けたいという意識が強かったわけですよね。実際、上手く届いたなっていう手応えはありました?

JUN KenKenさんと一緒にやらせてもらったことの反響はすごくて。もちろんKenKenさんのことは以前から知っていましたけど、どれくらいの影響力を持っているかまではわかっていなかったんですよ。想像以上でしたね。

——こういった見方はどうでしょうか? 最初のEPやファースト・アルバムの頃は、海外の最先端の音楽を取り入れてやっていたら、国内のシーンも勝手についてきたところがあったと思うんです。で、『FACE』の時も初期と同じくらいエッジの立ったことをやっていたと思うんですけど、おそらく、それだけで簡単に国内のシーンもついてくる状況ではなくなっていた。それは、80KIDZのデビュー当初と比べて、明らかに日本と海外のシーンの乖離が大きく進んだことも関係していると思います。だからこそ、80KIDZとしては、『FACE』の時とはまた違ったアプローチで、日本のリスナーに対しては日本のリスナー向けに語りかけないといけないという意識が働いたのではないですか?

JUN そうそう、それは確かにありました。

ALI& ありましたね。まさにそういうことです。

JUN 『FACE』も海外から評価されたかっていうと、特別そういうわけではなくて。じゃあ、どこで評価されたんだろう? っていう感覚があったんですよね。内容的にはすごくいいものができたっていう手応えがあったんですけど。

ALI& そう、『FACE』に関しては、内容的には本当に納得しているんですよ。

——でも、日本と海外のシーンの乖離が進んでいるというのは、なかなか難しい問題ですよね。HAPPYみたいに、いい意味で海外への憧れをストレートに表現する若手アーティストは、今は決して多くないじゃないですか。良くも悪くもドメスティック志向のアーティストが多い。

JUN ちょっと話がそれるかもしれないんですけど、震災後っていうのもタームとして大きかったと思うんですよ。みんな、いろんなものにストレスを求めないようになった気がして。でも、洋楽は言葉がわからないのがストレスだし、エレクトロとかバキバキし過ぎていてストレスだし——っていうのも影響はなくないんじゃないかなと。もちろん今の日本で売れているバンドもかっこいいと思うんですけど、傾向として変わってきているのは感じます。

——音楽に限らず、2010年代の日本はあらゆる側面で内向きの傾向が顕著になっていますよね。

ALI& 本当にそう思いますね。この前、韓国に個人的に遊びに行ったんですけど、日本はすごくガラパゴスなんだな、って実感しました。どんどん置いていかれているなって。

——ここ数年、その傾向がより強くなっている気がします。でも、そうなってくると、80KIDZにとっては厄介な時代ですね。

JUN でも結局、僕らは洋楽が好きですし。その志向が根づいているんですよね。