Daft Punkが突然の解散宣言をしたことから世界に激震が走っている今現在。コロナ解散? それとも、これが“風の時代”というものなのか? 今年の音楽業界は、良くも悪くもこういった想像を遥かに超える出来事が次々起こる気がしてならない。停滞しているように思えたクラブシーンだったが、ようやくイギリスとスペインが先陣を切った。

今年の6月21日までにクラブの営業を再開させると公言している。しかし、イギリスでは今年1月から海外アーティストが国内でギグを行う際にはビザが必要となり、これまで以上にシビアな状況に追い込まれている。ドイツは来年末までクラブの通常営業はないだろうと関係メディアが伝えており、アーティストたちを落胆させている。

こんな状況下で希望を持てるのは、やはりバーチャルだろうか。はじめは懐疑的だったバーチャルも最先端技術を駆使した様々なコンテンツが登場する度に、これまでなかった楽しみ方が出来ることを知り、期待と可能性を感じている。これからは、リアルとバーチャルとがうまく共鳴し合い、新しいエンターテイメントが生まれる時代になっていくことだろう。

そんな今回は、コロナ禍で忘れかけてしまっているリアルなパーティーへの熱い思いや思い出を写真と共に振り返りたい。あの恍惚感に包まれたスペシャルな空間は何度も思い出したくなる。そして、取り憑かれたようにまたあの場所へと戻りたくなるのだ。過去にヨーロッパ各地で開催されてきた素晴らしいパーティーからピックアップしてお届けする。また、パーティーにおける立役者であるDJ、PR、フォトグラファーからもらった貴重なコメントも併せてご覧頂きたい。

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<BRAVE! Factory Festival>

Kiev

東欧のクラブシーンが熱いことはすでに何度も伝えてきたが、最も注目しているのがウクライナの首都キエフであり、トップクラブとして世界ランキング入りしている「Closer」である。彼らが2017年から開催している<BRAVE! Factory Festival>は、自分たちの足でフェス会場を探し、ビッグスポンサーを付けることなく、設営、ブッキング、運営、物販など、全て信用のおけるローカルクルーのみで手掛けている。

そのDIY精神も素晴らしいが、ヨーロッパにありがちな謂わゆる“権力的ブッキング”ではなく、他のフェスでは見ない独自のラインナップや若手の才能あるローカルアーティストをフックアップしていることも魅力の一つ。同フェスは、今年開催を予定しているということで期待せずにはいられない。

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<BRAVE! Factory Festival 2017>
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会場となったのは、建設が中断された鉄道跡地。その名も”Metro”

現地レポートはこちらから
「“BRAVE! Factory Festival”現地レポート!! キエフシーンの今を知る旅」

「Closer」のPRとして活躍し、PRエージェンシー「STRELA」のCEOも務めるAlisa Mullenからコロナ禍における今のキエフのシーンについて語ってもらった。

「キエフの状況はヨーロッパの他の地域よりも遥かに恵まれていると思います。なぜなら私たちはパーティーを開くことが出来ているからです。もちろん、これまでと同様のパーティーは出来ていません。オーディエンスは少人数、DJはローカルが中心、パーティー時間を早めるなどの対策を行っています。そのため、従来の4分の1にしか達成出来ていないのが現実です。どうにかして海外からもアーティストを招聘しようと思っています。

消毒を行うなど、安全な場所にするための目に見える対策かもしれません。しかし、それが実際には役に立たないことを誰もが知っています。ロックダウン中、ウクライナ政府からクラブへの支援はありませんでした。そのために、多くのクラブはどうにかして生き残らないといけません。だから、私たちは決してパーティーをやめることはなく、国からの合法化を目指してパーティーをし続けています。

少なからず今の状況はどんどん良くなっていっています。そのため、8月末に<BRAVE! Factory>を開催する予定で計画を立てています。世界中のアーティストや音楽ファンがフェスティバルに参加し、いつかこのイベントで会えることを楽しみにしています!」

Milan

90年代にオープンしたミラノの老舗クラブ「Tunnel Club」は、ローカルシーンの最前線を知ることができる人気クラブだ。ミラノ中央駅に繋がる鉄道の下のトンネル跡地を改装してクラブにしたというユニークなロケーションに、クラブとは思えないほどハイクオリティーなカクテルが飲める。友人の結婚式で訪れていたミラノでたまたま遊びに行ったのが、レギュラーイベント”Take It Easy”だった。ミラノを拠点とするイタリアン・デュオDirty Channelsをはじめ、BugsyDJLMPといったローカルDJがオーガナイズしており、絶大な人気を誇る。

この日のゲストはRadio Slaveだったが、他にも、Kink、Octave Oneといったトップアーティストが多数出演している。しかし、このパーティーの特徴は、レジデントであるローカルアーティストの人気がゲストに優っていることだ。そこには、ツーリストが少なく、感度の高いローカルがほとんどという背景がある。

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Radio Slave「Take It Easy」at Tunnel Club

Dirty ChannelsSimone Giudiciから、今のミラノのクラブシーンの現状を語ってもらった。

「僕たちのクラブシーンにとって非常に困難で奇妙な時を迎えています。ワクチンが浸透していない状況で多くの人を集めることへのリスクは理解しています。ただ、僕たちは現状が厳しいというだけでなく、混乱も生じています。同時に、クラブシーンは政府から見捨てられているように感じてしまうのです。 ワクチンがこの問題を少しでも解決できることを願い、そして、以前と同じように、オーディエンスの前で実際にプレイするためにフロアーに戻りたいと思っています。

もし、数か月以内に状況が良くなるのであれば、すでにいくつかのギグが計画されています。 しかし、現在はまだ、楽曲制作にフォーカスしている状況です。いくつかのトラック作りに取り組んでおり、それらをリリースするのにベストなタイミングを待っています。 その間、私たちは愛するファンとのコミュニケーションを維持するためにストリーミングを勢力的に行っています」

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ADE期間中は各クラブで開催されるパーティーのポスターが壁一面に貼られる”ADE名物”の一つ。
Photo by Atsushi Harada

Amsterdam

ダンスミュージックフェスの取材と言えば、毎年のようにアムステルダムに行っていた。ADEこと「Amsterdam Dance Event」は世界最大級のダンスミュージック市場と呼ばれており、5日間に渡り、昼間はカンファレンスやワークショップが開催され、夜は連日クラブイベントが開催され、アムステルダムの街中がフェス会場となるビッグイベント。日本からも毎年多数の音楽関係者が訪れていた。

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「DEKMANTEL FESTIVAL 2014」

2014年スタートとまだ歴史の浅い「DEKMANTEL FESTIVAL」は、あっという間にオランダを代表するダンスミュージックフェスの一つへと登りつめた。アムステルダム近郊にある美しい国立公園の敷地全てが会場という贅沢なロケーションに、世界トップのアーティストが集結することからチケットは即ソールドアウト、オンラインでは高額で取引きされ、エントランスにはダフ屋が並ぶほどの人気を誇る。

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今は亡き偉大なDJ、Andrew Weatherallの姿も

爆発的人気!オランダのDEKMANTEL FESTIVAL現地レポート

アムステルダムを拠点とし、7年間に渡り、世界の至るところでパーティーを撮影してきた日本人フォトグラファー原田篤に現場で感じたことを語ってもらった。

「世界のどこに行っても“自分はアジア人だ”という誇りを持って撮影していましたね。オランダは180ヵ国の人種が集まる多国籍国家ですが、家賃は高いし、生活するだけでも大変でしたが、パーティーでは、出会う人と人との壁が崩れて言葉や時間、お互いの価値感を共有出来るのがすごく嬉しかったし、良い経験になりました。最高のダンスフロアと素晴らしいアーティスト、エンジニア、バーテンダー、フォトグラファー、クラブスタッフ、オーガナイザー、プロモーターに出会えたこと、友達と笑ったり泣いたり、苦しかったり、乾杯した記憶は自分にとっての財産だと思っています。だから、今の状況はとても寂しいですし、また再開出来ることを切に願っています。

僕はすでにオランダを離れて、現在は島根に在住していますが、日本でやれることをやっていきたいと思っています。現在は、松江拠点のレーベル「√9>」主宰の符和さんと「音x写真」をテーマとした「Future View」プロジェクトをスタートしました。符和さんと僕が描く未来に向けて様々なアイテムのリリースを予定しています」

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Ricardo Villalobos at Robert Johnson
Photo by Atsushi Harada

それ以外にも数え切れないほど多くのフェスやパーティーと出会ってきた。コロナ禍の世界では、何千人、何万人が集結するパーティーはすでに幻のように思えてしまうが、シーンの立役者たちはまだ誰も諦めてはいない。

宮沢香奈さんの記事はこちら