3月13日金曜日、19時の新宿。
トー横前ではずらっと並んだキャッチの子たちが手を振ってくれる。ビカビカに光る歌舞伎町タワーを9階まで上ると、空気が一変する。

そこにあるのは、坂本龍一氏が監修したシアター音響システム「SAION -SR EDITION-」を完備した、音に徹底的にこだわった上映空間、109シネマズプレミアム新宿。

映画『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』、公開初日の上映イベントに行ってきた。
今日は映画本編の前に、Oneohtrix Point Never(以下OPN)のMVが上映される特別プログラム。
いやーすごい。結論から言うと、映画を観たというより音を体感したというのに近い。

目で聴く、耳で観る『マーティー・シュプリーム』とOPN IMG_9477-scaled

視覚化された音、拡張されるスケール

上映されたのは、最新アルバム『Tranquilizer』の収録曲。
タイトルの“Tranquilizer(トランキライザー)”は精神安定剤を意味するが、これは皮肉?
私にとってOPNの音楽は、むしろ感情をぐちゃぐちゃに揺さぶってくるようなものばっかりだ。

まずスクリーンに映し出されたのは「Measuring Ruins」のMV。
景色や作業風景、宇宙のイメージが断片的に重なっていく誰かの記憶の断片のような映像がフラッシュのように切り替わる。

「Lifeworld」ではドローンや蝶の映像が交錯するが、音のレイヤーの多さに驚く。
単純に音が重なっているというより、音を視覚的に設計しているのだろうか。

やっぱりこの人は音を観ている……視え過ぎている……

続いての「Cherry Blue」はPol Taburetによるビジュアルで、緊張感と不気味さが突出している。
“誰かの悪夢”を植え付けられるような居心地の悪さを与えてくるのもOPNらしい。

「Rödl Glide」では、ビット絵でゆっくりと進んでいた世界が、音の変化とともに崩れ落ちていく。
「D.I.S.」はスマホ画面のみで構成され、上下が反転するようなカットも多い。私三半規管弱いのに。

MV公開時にスマホで観たものとは、まったく別物だった。
OPNは音で世界のスケールそのものをコントロールしているんじゃないだろうか。

暗闇の中で浴びる映像は、もはや映像という枠に収まらず、音と共に押し寄せてくるひとつの「体験」そのものだった。

ここで気づく。
デカい音、デカいスクリーン、OPNの音楽、最高。

揺さぶられたはずなのに、妙に穏やかな心持ち。
この逆説的な作用が、OPNの音楽の大きな魅力である。

皮肉でもなんでもない、まさに『Tranquilizer』だ。

物語を動かす劇伴

MVの余韻に浸りながら始まった本編。
監督のジョシュ・サフディとOPNがタッグを組むのはこれで3度目だが、今作の劇伴も凄まじかった。

主人公のマーティーは、卓球を武器に成り上がろうとする、強烈な野心を持った男だ。
と、よく言おうとしたが彼はシンプルにクズである。
許せない、でも許したい。

映画全体としてはコメディ的な側面も強いが、そこにOPNの劇伴が乗ることで、シーンの印象が大きく変わる。
シリアスに引き寄せる瞬間もあれば、80年代的なシンセサウンドで一気に力を抜く場面もある。
この“緊張と緩和”のコントロールのせいで、こんなに馬鹿馬鹿しいのに何を真面目な気持ちにさせられてるんだと軽く腹も立った。

特に印象的だったのは、警察から逃げるシーン。
映像のスピード感と完全に同期し、劇伴がシーンを押し上げている。

無音や環境音の使い方にも、思わず唸らされた。
卓球というスポーツ自体がリズムを持っていることもあり、球の音や空間の余白と、OPNの音が自然に溶け合っていく。

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単なる劇伴にとどまらず、環境の一部として機能しながら、ときにシーンを喰らうほどの存在感を放ってくる。
映画全体が音によって動かされているようにも思えた。

今回のスコアは、Pitchforkで「BEST NEW MUSIC」に選出されるなど、劇伴としては異例の高評価を受けている。
その背景には、“時間軸の扱い方”が大きく関係しているように思える。

OPNは制作時、この物語を「1980年代にいる主人公が過去を回想している記憶」として捉えたという。
50年代の物語でありながら、あえて80年代的なシンセサウンドが使われているのは、単なるスタイルではなく、「記憶の質感」を音で表現するための選択だ。

ネオクラシカルな要素と電子音が同時に鳴っていることで、現実と理想のあいだでせめぎ合っているような印象も生まれる。

そしてその感覚は、劇中で流れるTears for Fearsの「Everybody Wants to Rule the World」や、New Orderの「The Perfect Kiss」とも見事に接続している。
チープで切ないシンセの音ってなんでこんなにグッとくるんだろう。

エンドロールが終わっても、頭の中ではまだあのシンセの音が鳴り止まない。

幸いなことに、劇伴を手がけたOPNが、4月頭に来日公演を行うことが決まっている。
ビジュアルを手がけるフリーカ・テット、そしてアンビエントの巨匠ララージも参加する今回のライブは、音・視覚・空間すべてを含めた最高体験になるはずだ。

OPNの音楽は、実体を持っている。
目で観て、身体ごと浴びたときにこそ本領を発揮する。
椅子に座って行儀よく聴いているだけじゃもう足りない。

今回の上映で、それをはっきりと実感した。

音なんて、デカければデカいほどありがたいですからね。
次はライブ会場で。

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EVENT INFORMATION

Oneohtrix Point Never Japan Tour 2026

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Osaka 2026.04.01 (Wed) Gorilla Hall
Tokyo 2026.04.02 (Thu) Zepp DiverCity

開演:19:00~ (開場 18:00~)
チケット:https://linktr.ee/opnjapan2026
Oneohtrix Point Never
with Freeka Tet
special guest: Laraaji

ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー
待望のニューアルバム『Tranquilizer』を完成させ、
奇才フリーカ・テットとの最新ライブセットで来日決定!
スペシャルゲストとして、アンビエントの巨匠、
ララージの出演が決定!

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