僕がまだ高校生だった1998年、ある若いレスラーがデビューを果たしました。そのデビュー戦を観た僕は、高校生ながらに絶対この人は大物になると確信したのを覚えています。その後、その選手は誰しもが認めるトップレスラーとして、団体だけでなくプロレス界を牽引し、いつしか「方舟の天才」と呼ばれるようになりました。

そう、その選手とは丸藤正道選手。今までの名勝負を挙げだしたらきりがないくらい、歴史に残る名勝負を繰り返してきた丸藤選手も、今年でなんとデビュー20周年を迎えました。そして、9月1日(土)には両国国技館で20周年記念大会「飛翔」が開催されます。記念大会まであと2週間を切った今、丸藤選手にインタビューをさせて頂き、丸藤選手が語る今までの歴史や現在の心境、今後の展望などに迫ることができました。

Interview:丸藤正道

——幼少の頃から根っからのプロレスファンだったとお聞きしていますが、昔1番憧れていたレスラーは誰かいらっしゃいますか?

1番か……1番はなかなか決められないですね。でも僕、プロレスの入りがロード・ウォーリアーズ(※1)だったので。あとは僕が小学生くらいの頃は四天王(※2)と三銃士(※3)で盛り上がっていた時代だったし、やっぱり三沢さんと武藤さんですかね。「1番」の答えになってないですけど……。

※1:アニマル・ウォーリアーとホーク・ウォーリアーによるタッグチーム。当時アメリカから来日し、圧倒的な強さで日本のプロレス界に衝撃が走った。

※2:当時全日本プロレスのトップ前線で活躍していた三沢光晴、小橋健太、川田利明、田上明は「プロレス四天王」と呼ばれていた。

※3:当時新日本プロレスのトップ前線で活躍していた武藤敬司、蝶野正洋、橋本真也は「闘魂三銃士」と呼ばれていた。

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——自分で聞いといて思ったんですけど、1番を決めるの無理ですよね(笑)。

そうですね(笑)。三沢さんに武藤さん、あとライガーさんも好きだったなあ。今だから言えるけど(笑)。ライガーさんに関しては、この世界に入ってから闘う相手になってけっこう抗争をしていたので、なかなか好きだったなんて言えなかったですけど、ライガーさんの「獣神サンダーライガースペシャル」のVol.1とVol.2のVHSは家にありますからね。

——SNSにあげてらっしゃったご実家の本もすごかったですね。

あれは、親がちゃんと綺麗に保存してくれていて。今ではけっこう貴重なのもあると思いますよ。

あの頃テレビでやっていたのが新日本と全日本だったので、その2団体を観てましたね。

——プロレス少年って、よくレスラーの技やパフォーマンスを真似すると思いますが、誰かの真似ってしていました?

それはね、もうグレート・ムタとスティングですね。だって、全日本の選手はそんなに派手な入場ってしないじゃないですか。だからその2人のパフォーマンスをよく真似してましたね。

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——当時、プロレスごっことかして、得意技とかもありましたか?

兄貴が3人いるので、親がいない時は布団の上でプロレスしてましたね。あと、うち田舎なので家の前に田んぼがあって、収穫した後の稲が重ねてあるんですよ。そこに更に稲を重ねてやってましたね。今になって考えたら、人ん家の田んぼなので怒られますよね(笑)。高い所から稲に向かって飛んだりとか、家では押入れから布団に向かって飛んでました。その時は、そんなにくるくる回らずに、シンプルなボディープレスとかニードロップをやってました。ムーンサルトみたいな技をやるようになったのは、もう高校生になってからですよ。高校のレスリング部の道場にマットがあるのと、レスリングって練習に使う人形があるんですよ。それを壁に立てかけてサマーソルトキックの練習したりとか、マットの上でムーンサルトとかシューティングスタープレスの練習したりとか。高校生の時にそういう技は練習してましたね。

——子供の頃観ていた中で、今でも思い出に残っている試合はありますか?

試合というよりは、僕がプロレス見始めて少し経った頃に三沢さんがマスクを脱いだのが衝撃でした。あれは、子供ながらにすごくワクワクしたのを覚えています。

——プロレスラーになる為に、子供の頃から続けていた事って何かありますか?

小学生の頃は特にスポーツクラブに入ってた訳ではなくて、でも普通に運動は好きだったので、遊びながら体力をつけていたと思います。

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——プロレスラーなりたいって思ったのはいつくらいですか?

本当にレスラーになろうって決めたのは、中学2年生の進路相談の時ですね。なんの為に高校行くのかみたいな話になった時に、将来はプロレスラーになりたいと決めて、レスリング部がある学校を探しました。

——高校卒業後はすぐに全日本プロレスに入門して、たしかデビューもすごく早かったですよね。

デビューまでは5ヶ月半という早さでしたね。デビュー戦は金丸さんにものの6、7分でやられましたが(笑)。

——デビューされてから今まで、いろんな団体に出られて、本当に多くのタイプのレスラーと試合されていますが、特に印象に残っている試合はありますか?

まずは21歳の時に高岩さんからGHCジュニアのベルトを獲った時ですかね。それまでの試合と違って、いろんな期待とか責任を背負いつつ結果を出せたということで、自分の分岐点という意味でよく挙げている試合ですね。デビューしてからその時はまでは、与えられた試合を必死にこなしていた中で、いろんな意味が含まれている試合というのは、その時が初めてだったような気がします。

他に挙げるとすると、三沢さんとシングルやった試合ですかね。3回シングルをやったんですが、それぞれにちゃんと意味があって。やっぱり特別ですよね。

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——三沢さんと闘った時の印象って何かありますか?

三沢さんも僕と同じで、ジュニアからヘビーに転向した人じゃないですか。でも、体は大きいわけですよ。そんな中でも、僕が当時やってたジュニアの動きというのに普通に付いてきてしまうのが、やっぱ凄いなって印象を受けましたね。あの大きな体で飛び回って、尚且つヘビー級の力強さも兼ね備えていたので。

——三沢さんの付き人時代、何か思い出に残っているエピソードってありますか?

よく聞かれるんですけど、実は試合のアドバイスはもらったことなくて。プロレスの話もそんなにしたことないんですよ。試合後にご飯連れてってもらったりとか、そっちの印象の方が強いですね(笑)。三沢さんが武道館のメインでタイトルマッチをした後も、三沢さんの運転で僕が助手席に乗って、そのまま飯に連れてってもらうみたいな。普通は付き人が運転するものですよね(笑)。

——三沢さんが好きだったものとか、よく食べに行ってたものはありますか?

錦糸町では中華が多かったし、上野ではすごく美味しいステーキ屋さんがあって。GAINというお店なんですけど、そこのステーキは僕が今でも日本トップクラスだと思ってるくらい美味しいんですよ。あと、北海道ではお寿司に連れてってもらいましたね。

あの頃って、まあ時代といえば時代なんですが、僕もなかなか良い思いをさせてもらった時期で。お弁当の買い物頼まれて1万円わたされて、お釣り全部くれたりとか。だから、1シリーズ終わってお財布を見ると、10万円くらい増えてて(笑)。

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——今回の大会「飛翔」の対戦カードを拝見すると、今までの丸藤さんの集大成と今のノアをミックスしたような印象を受けたのですが、カードを決める中で何か考えていたことってありますか?

全くもってその通りで、この大会の開催を発表した時にも言ったんですが、「僕の20年」を表現したいと思いました。今のノアで頑張ってくれている選手たちはもちろんのこと、この20年を振り返ると、いろんな人がいたからこその今の丸藤正道なので。全員を呼んだら大変なことになっちゃいますが(笑)。過去にいろんな出会いと別れがあり、正直、あまり良くない形でお互いが離れてしまった人もいるんですけど、本当にみんな快く出場という返事をしてくれました。

ファンの人たちからは「もっとこういう人を呼んでほしい」というリクエストもあったかもしれませんが、やっぱり「僕の20周年に関わった人」というのが一番の選定理由で、それを考えながら試合カードを組みましたね。

——そして、何と言ってもヒデオ・イタミさんとの対戦は発表時に映像の音が聞こえないくらいにファンが沸いてましたが。後輩でもあり、ライバルでもあり、今は友人でもあるイタミ選手への特別な思いってありますか?

おそらくファンの人たちも、俺と彼の関係を特別視してくれていると思うし。ノア所属になってからは彼とずっと切磋琢磨した時期があったからこそ、お互いが今の位置にいて、俺というプロレスラーの価値も多少なりとも上げられたと思うので、非常に感謝している部分はありますね。やり合ってた頃は感謝どころか「この野郎」っていう気持ちしか無かったけど(笑)。

——先日イタミさんにインタビューした時、イタミさんもすごく楽しみだとおっしゃってました。20周年記念大会の開催が決まった時から、自分の相手はイタミ選手だと決めてたんですか?

そうですね。いの一番に彼の名前が浮かんでたんですけど、正直難しいかなとは思っていました。本当に、対戦カードを発表するギリギリのタイミングでやっと出場が決まったんですが、もし間に合わなかったらメイン以外だけ先に発表しようかという状況だったんですよ。もし彼がダメだった時、他のカードを全部組んでしまってるから、俺は誰とやるんだって思って(笑)。だから、1つの賭けではあったんですよ。

やはり、彼の気持ちだけじゃ動けない部分もありますしね。今回の大会の実施が決まった時って、WWEでは「レッスルマニア(※4)」が控えていて。それが終わらないと、返事なんてくるわけないという状況でした。「レッスルマニア」が終わってから交渉をしようということになって、だから本当に時間が無かったんですよ。

※4:WWEが主宰する、年間を通じて最大のイベント。

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——特に若い選手にとっては、両国国技館という大きな舞台で満員のお客さんの前で試合をすることは、とても良い経験にもなるかと思いますが、それに関しても何か考えてらっしゃることってありますか?

俺はありがたい事に大きな会場で何度もやらせてもらってて。東京ドームにも何度も出たし、武道館も過去には年間4回やってて毎回超満員で。他の団体さんも含め、全国各地いろんな大きな会場で試合させてもらってきたので、それも丸藤正道を作り上げてくれた1つの要因だと思うんです。今の若い選手たちには、なかなかそういう経験をさせてあげれてないんですが、スケールが大きな会場でやると、スケールが大きなプロレスができるようになると思います。

1万人くらいの人が自分だけを見ている状況って普通は味わえないし、その大観衆を飽きさせてはいけないという事も必要になってくるんですよ。そういった経験を積むと、おそらくどこに行っても対応できるレスラーになるんで。だから今回の両国で、沢山の人の前でプロレスをやることの「楽しさ」「気持ち良さ」をしっかりと感じてほしいと思ってます。

今のノアに所属している若い選手は、他にも選択肢もあった中でノアを選んでくれてるので、今の時期は大変なことや辛いことが多い中ですが、少しでも「プロレスラーになって良かった」という感覚を味わってくれたら嬉しいですね。

——いよいよ20周年大会が近くなってきましたが、緊張やワクワクなど、現在はどんな心境ですか?

いつも通り自然体ですね。試合よりも他のことが忙しい気もしますし(笑)。本当に沢山の人に協力してもらっているので、1人も嫌な思いはさせたくないんです。ファンの人はもちろん、選手や関係者もみんなで楽しく終われる興行にしたいと思っています。お客さんが両国を出て駅まで歩く間に「今日楽しかったね」って言ってくれるような大会にしないといけないと思うので…やっぱり試合以外が心配だなあ(笑)。

——まずは20周年記念大会だとは思いますが、その後の展望で何か考えてらっしゃることってありますか?

1つは今回の20周年記念大会で燃え尽きないように気をつけること(笑)。あとは、今回の大会が今後のノアにしっかり繋がっていくようにしたいですね。おそらく、選手もスタッフも今回の両国で学ぶことがあると思うので、それを各々が理解して実行して、自分よりもノアに還元されるようにしたいです。次の日もすぐ後楽園で試合があるし。だから、前の日あんまり飲めないんですよ。

——ちゃんと飲まないですか?(笑)

危ういですね(笑)。

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——それでは最後に、みちくさボンバイエの読者に20周年大会「飛翔」の見どころも含めてメッセージをよろしくお願いします。

見どころ? 全部です。

——できれば、もう少し細かく丁寧に教えてください(笑)。

思わずKENTA(※5)風に答えちゃいました(笑)。

そうですね。初期のノアを見てた人たち、ノアを見なくなった人たち、ノアをずっと応援してくれてる人たち、他の団体で俺を見て来てくれる人たち、いろんな人がいるとは思うんですが。やっぱりノアという団体は、偉大な先輩たちによって創りあげられたものなので、そういうものを僕たちが守ろうとしている姿を見て感じてほしいし、これから新しいものを見せていこうという意思も感じてもらえると思います。試合に関しては、本当に最初から最後まで楽しんでください。

※5:ヒデオ・イタミ選手のプロレスリング・ノア所属時代のリングネーム。

——ありがとうございます! さすがインタビュー慣れてらっしゃいますね。

本当ですか? このまえのKENTAのインタビューより喋れてました?

——はい、だいぶ(笑)。

(笑)。

以上、丸藤正道選手へのインタビューでした! ジュニアでもヘビーでも、プロレス界を常に牽引し続けてきた丸藤選手の集大成となる今回の記念大会。また、メインで対決する丸藤選手とイタミ選手も、お互いをすごく意識していて期待が高まります。絶対に素晴らしい大会になること間違いないので、ぜひ皆さん会場へ足をお運びください。

次回のみちくさボンバイエもお楽しみに、それでは。

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EVENT INFORMATION

丸藤正道20周年記念大会「飛翔」

2018.09.01(土)
OPEN 13:30/START 15:00
両国国技館
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