“東がおもしろい”その直感から現地情報を追い求めて何年が経っただろうか?“東”というのはベルリンのことではない、ヨーロッパにおける東=東欧のことである。ユーロではない独自の通貨で物価が安く、西欧に染まらない独自の感性を持っている。その中でもウクライナのキエフにおけるアンダーグラウンドカルチャーの成長が著しいことはこれまでにも幾度となく伝えてきた。そしてまた、キエフからまたしても興味深い情報が入ってきた。

そんな今回は、現在勢いを増しているキエフの新興レーベル〈Eleatics Records〉、そして、キエフの魅力についてお届けする。

常に世界各地の、特にヨーロッパにおけるアンダーグラウンドシーンにアンテナを張り、情報収集をするのが日課であり、仕事でもある。しかし、東京に住んでいた頃の方が熱心に収集していた気がする。なぜなら、私の住むベルリンはありがたいことに放っておいても“外”の情報が入ってくる環境下にあるからだ。ここを活動拠点とするために世界各地から一流アーティストが多数移住し、クラブやイベントスペース、レコードショップが数え切れないほど存在し、インターナショナルな人種が集まっている。たとえそれが、人口の一部の人間に当てはまることであっても、カルチャーが面白くならないわけがない要素が詰まっているのだ。

そして、そうやって得た情報を元に、ヨーロッパ各地を取材や旅行で回っているうちに現地のローカルシーンを担う人たちと出会っていくのである。私が音楽の仕事に携わるようになってからおそらく15年以上は経っていると思うが、一時もやめたいと思ったことがないのはこういった素晴らしい出会いがあるからであり、日本にいた時は体感出来なかった各地のローカルカルチャーに直に触れることが出来るからである。

そんなエキサイティングな日々を送っていたある日、冒頭でも挙げた通り、ウクライナのキエフを拠点とするダンスミュージックレーベル〈Eleatics Records〉のスタッフからコンタクトがあった。同レーベルは、DJ Kon’として90年代から活動しているAleksei Kononovをオーナーに、A&RチームのMaksym Zaiets, Viacheslav SenとKirill Buryak、マスタリングエンジニアのArseniy Volosを中心としたチームで編成されており、彼らが10年間に渡り得た経験と知識を糧に2017年の1月に設立された。

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スイス拠点のOnur Ozmanのリリースを皮切りに、D-Nox、Petar Dundovなど、世界的アーティストのリリースを精力的に行い、わずか3年でBeatportのmelodic house&technoジャンルで11位にランク入りした。そして、次にリリースを控えているのが、フレンチミニマルの奇才dOPによる初のEPというのだ。今まさに欲していた音であり、自分自身のダンスミュージク欲が再燃したのは言うまでもない。

Damien VandesandeとJonathan IllelによるフレンチデュオdOPは、ピアノやパーカッションといった生楽器を使ったオーガニックなサウンドにこだわりを持ち、グルーヴィーなジャズやトリッピーなファンクを取り入れた一筋縄ではいかないアヴァンギャルドなトラックに、Jonathanのアクの強いハスキーボイスが異彩を放つ唯一無二の存在である。彼らのライブパフォーマンスは常に型破りで煌びやか、時代を超越した強いメッセージ性を持ち、オーディエンスを虜にするカルト的人気を誇っている。

そんなdOPが〈Eleatics Records〉からリリースする記念すべき初EPのタイトルは『Carousel』。同曲は、エッジの効いたシンセに、パーカッション、そして、dOPサウンドに欠くことの出来ないJonathanによる妖艶なボーカルが際だつジャジーミニマルハウスに仕上がっている。また、ブルックリン拠点の人気デュオBedouinがリミックス参加しており、オリジナルのメロディーとボーカルをより強調させたエレガントでトリッピーなトラックに仕上げており、B面では、ベルリンとパリを拠点とするキャリアフィメールDJ、Jennifer Cardiniもリミックスを手掛けている。

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『Carousel』は、まさに実力派アーティストによるそれぞれの持ち味とdOPとのハーモニーが絶妙に絡み合った名盤と言える。3月後半にヴァイナルが先行リリースされ、4月24日にはデジタルにて世界同時発売が予定されている。以下からプレオーダーや試聴が可能となっているので、是非ともチェックして欲しい。

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プレオーダー

試聴

リリースする楽曲以外にも注目したいのが、アートワークである。レーベルのチームの1人としてロゴデザインからヴァイナルのアートワーク全てを担当しているのが、デザイナーのSergiy Romanyukである。白と黒のみで統一されたモノクロームの世界は、一環して宇宙をイメージさせ、その中に動物や人、自然などのモチーフが非常に細やかに繊細に描かれているサイケデリックとモダンが共鳴した異次元が素晴らしい。思わず、ギャラリーのように並べて鑑賞したくなる。

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キエフは時に“ネクスト・ベルリン”と呼ばれることがあり、これには賛否両論の意見があるし、私自身も最初にそれを聞いた時は正直ピンとこなかった。しかし、キエフのトップクラブ「Closer」との親交は深く、オーナーでDJのTimur Bashaとベルリン拠点の日本人DJ Yone-koによるパーティー<Wordless>は両都市で頻繁に開催されており、ベルリン拠点のフィメールDJ、VeraとAlexandraが主宰するレーベル〈Melliflow〉と「Closer」主催によるパーティー<Melliflow&Closer Kiev>も不定期開催されている。

ベルリンは90年代からすでにアンダーグラウンドシーンが出来上がっており、そのシーンを担う人物はキャリアからして年齢層も高い傾向にあるが、キエフは20代30代が中心となって今のシーンを作り上げているフレッシュさがある。若い感性を取り入れたファッションやアートも一緒に成長させており、クラブやフェスにオシャレな客層が多いことも納得である。

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「BRAVE! Factory」photo by : Hiroyuki Koshikawa
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「BRAVE! Factory」photo by : Roman Ketkov

キエフに関して自分が執筆した記事を思い出しながら、そろそろこの地へ再度足を運ぶべきだと考えている。

“Closer” PRインタビュー

キエフの街中にある壁画アート

「BRAVE! Factory」現地レポート