詠一 この10年間は本当に濃かったですね(笑)。ゴーシュは宮沢賢治の小説『セロ弾きのゴーシュ』にあるように、不器用な人間がいろんな経験を通して一人前になっていく。そういった意味が込められているんでます。まさに自分のことだなあと。特にブランドのコンセプトとかは決めていないんですが、強いて言うなら「ゴーシュ=未熟、不器用」ですよね。フランクのもとで学んだことや日々感じたことをノートに書き留めてるんですが、それをベースにアイデアをまとめたり、アンティークマーケットやベルリンのおじいちゃんおばあちゃんの格好が好きなので、こうゆうディテールいいなとか、この雰囲気良いなとかいろんなものからインスピレーションを得ていますね。
宮沢 ドイツの古くて良いものとかクラフトマンな雰囲気はデザインからもルックからもすごく感じました。またオーダーメイドっていうところにもグッときたというか、時代の逆をいってるなと思ったんですが、具体的にはどのような制作過程なんですか?
詠一 デザインからパターン、縫製まで全て自分一人で行っています。生地はフランクを通して買ったり、ターキッシュマーケットで買い付けてきたりもします。今はとにかく自分の作りたいものをシーズン毎に作って発表して、オーダーが入ったものから作っていってる形ですね。サイズの変更だけでなく、着丈や袖丈、ディテールの変更、生地の変更などその人の体型や希望に添って作ることが可能です。
宮沢 パターンや縫製のキレイさはさすがだなと思ったんですが、生地選びのセンスからちょっとしたディテール、ステッチに至るまで本当にキレイですよね。全ての工程を自分でやっているから当然といえば当然なのかもしれませんが、1点1点に思いが込められているのが分かりますし、普段着れる洋服であってもオートクチュールのような上品さも感じます。
詠一 ありがとうございます。そう言ってもらえるのは嬉しいですね。現在はフランクはフルタイムではなく、ベルリンで長いキャリアを持つオートクチュールのアトリエ“STUDIO ITO”でもアシスタントとして働かせてもらっているので、そこでも日々腕を磨いてます。
宮沢 どこまでストイックなんですか!! もう努力の賜物でしかないですね。。こんなに働いてる人ベルリンにいないと思いますよ(笑)ただ、現実的な話をしてしまうとオーダーメイドで作れる型数や枚数って限られちゃいますよね?ビジネスに関してもですが、今後のビジョンはどのように考えているんですか?
詠一 今はまだ実験的な段階なので、自分のスキルアップとともにコレクションを増やしていきつつ、近いうちに日本を拠点に展開したいと考えています。後々には工場生産も考えていかないといけないと思いますが、大量生産させて儲けたいわけではないし、ゴーシュではなくなってしまうから信頼出来る職人さんとか、僕は岩手出身なので地元で生産出来たら良いなとも思ってますね。洋服を通して「詠一っぽいね」って言われるような自分らしいものを作っていきたいです。
FRANK LEDERのもとにはアシスタントやインターン希望のメールや手紙が日々届く。「上司というか友達みたいな感覚だからものすごく仕事がやりやすいし、他のアシスタントも含めて一つのチームとしてやってる感覚ですよね。日本ではなかなかない環境だと思うし、僕は本当にラッキーだと思っています。」 と、鈴木氏は笑顔で語る。自身の自宅兼アトリエはまさに“仕立屋”そのものでテーラーだった祖父の裁ちバサミを形見のように大切にしている。寝ても覚めても洋服のことを考えている人に会ったのはいつ以来だろう?彼から話を聞きながらファッションが人生の全てだった20年前を思い出した。“Gorsch the seamster”の成長が非常に楽しみである。
素晴らしいエピソードをありがとうございました!!
【Gorsch the seamster 2017 AW Look】
Art Director: Hirofumi Abe
Photographer: Joji Wakita
Model: James Koji Hunt
*全ルックはこちらからご覧になれます。
【鈴木詠一 プロフィール】
1983年 岩手県に生まれる。
2002年 外務省入省
2008年 在メキシコ日本大使館勤務
2009年 在ボリビア日本大使館勤務
2014年 ファッション業界へ進むことを決め、外務省を退職。
ロンドンへ移り住みCentral Saint Martinsに通う。Foundation Courseを経て、同大学Menswear Courseに入学。
Central Saint Martins在学中にFRANK LEDERにてインターンシップを行う。そのままアシスタントとして在籍するため同大学を中退しベルリンへ移住。
2016年 自身のブランド“Gorsch the seamster”を始動
2018年現在 ベルリンにてFRANK LEDERでアシスタントを務める傍ら、オートクチュールのアトリエであるSTUDIO ITOでもアシスタントを務める。
まだ学校もなかった時代、弟子入りして独立した仕立屋の祖父の遺伝子と裁ちバサミを受け継ぎながら日々腕を磨く。
Photo by : Saki Hinatsu
Instagram @sakihina_photography