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パッと見のデザインの良さから手に取った瞬間目に入るのは分かりやすく印字されたプライスタグ。3桁で表示されていることの方が珍しい同じ顔の洋服たちは1本のラックにギュウギュウに詰め込まれる。どこの街でも見慣れたファッション風 […]

パッと見のデザインの良さから手に取った瞬間目に入るのは分かりやすく印字されたプライスタグ。3桁で表示されていることの方が珍しい同じ顔の洋服たちは1本のラックにギュウギュウに詰め込まれる。どこの街でも見慣れたファッション風景だ。

プライスタグは奥深くに、そんなことは二の次で良いと思ってしまうほど美しくエレガントな洋服に触れた瞬間、指先から全身に伝わる何とも言えない幸福感に満たされるあの感覚をいつの間にか忘れてしまったのだろうか? 他都市と同様にファストファッションが蔓延るベルリンで出会ったオーダーメイドブランド“Gorsch the seamster”はそんな気持ちを思い出させてくれた。

ドイツの人気ブランドFRANK LEDERとオートクチュールのアトリエSTUDIO ITOに在籍しながら自身のブランドをスタートさせたばかりの新進気鋭デザイナー鈴木詠一氏へインタビューを行った。ユニークなキャリアとシンクロする計り知れない努力、そこから生まれた素晴らしいコレクションとともに人生観を覗かせてもらった。最後まで是非ご覧下さい。 

Interview:“Gorsch the seamster”デザイナー鈴木詠一が語る

【インタビュー】ベルリンの“仕立屋”鈴木詠一の手から生まれる洋服たち suzuki-eiici-interview_DSC4357-700x467

インタビュアー宮沢香奈(以下、宮沢) ルックを拝見した時から服作りに関していろいろ聞きたいと思っていたんですけど、まずは詠一さんの経歴について聞かないと! と思いました。デザイナーとしてというか、ファッションの仕事に携わってる人としてはものすごく変わった経歴ですよね?

鈴木詠一(以下、詠一) そうですね。外務省でしたからね。霞ヶ関に勤務して6年目にスペイン語の語学研修のためにメキシコに行きました。その時は語学研修だけだったので、毎日すごく楽しかったですね。友達がDJだったのもあって週4でクラブに行ってました(笑)。でも研修を終えたらボリビア(多民族国)の大使館への異動を告げられました。

宮沢 まさかの展開!! (笑)。

詠一 ホントに(笑)。スペイン語圏に勤務になることはもちろん分かっていたんですけど、まさかボリビアとは……! でも、メキシコでスペイン語研修も含め楽しませてもらえたので、断るわけにもいかず行きましたよね。とにかくショッピング出来るところなんてないし、正直僕に与えられた大使館の仕事もやりたい仕事ではなかったんです。それで買いたい洋服がないなら自分で作るかって思い立って地元のソーイングレディーのところへ教えてくれってお願いしに行ったのが服作りの最初ですね。

宮沢 いきなり門を叩いたんですね。しかもボリビアで(笑)。日本で服飾専門学校とかに通っていたわけではないんですよね?

詠一 全然です。でも、段々このままではダメだと思ったんですよね。収入は安定してるけどやりたい仕事ではない仕事を続けているのはどうなんだろう?って。だからそこで全く分からないパターンの引き方から一から習って、しかもスペイン語で。言われるがままに工業用ミシンまで買いましたから(笑)。でも全く縫えないし、「やっぱり学校行こう」って思ったんですよね。

宮沢 笑。普通はそうなりますよね。ボリビアから今度はいきなりセントマーチン(セントラル・セント・マーチンズ)ですか?

詠一 いえ、その前にNYのFIT(ニューヨーク州立ファッション工科大学)ですね。出張とかでも中南米をはじめいろんなとこに行っていたんですけど、ボリビアを脱出するためにNYにも行っていたんですよ。もうみんなオシャレに見えるし、街もなんてカッコイイんだろうって感銘を受けてNYに行くことに決めたんです。なかなか辞めさせてもらえなかったですけど(笑)。

宮沢 ボリビアから行ったら誰もがそう思うだろうし、もう全てが輝いて見えそうですよね(笑)FITはパーソンズと並ぶ名門ですが、今度はスペイン語ではなくもちろん英語になりますよね? 

詠一 実はボリビアにいる時から英語を勉強してたんです。スペイン語ではなく(笑)。

宮沢 なるほど(笑)。大使館時代は良い踏み台……ではなく(笑)。良い経験をなってたんですね。

詠一 本当にそうですね。大使館時代の海外勤務経験がなかったら今はないと思っています。でも、FITに受かったは良いけど、今度はあれだけ感銘を受けたはずのNYが合わなくなってしまったんですよね。それで、NYにセントマ(セントラル・セント・マーチンズ)の支部があることを知って、そこを受けてファウンデーションコースに受かったので今度はロンドンへ行くことになったんです。当時はそんなに名門って全然知らなかったんですけどね(笑)。

宮沢 FITといいセントマーチンといい、名門二校に受かったってサラッと言ってますけど、普通はなかなか受からないですよね?

詠一 英語は死ぬほど勉強しましたよ。FITはTOEFL、セントマはIELTSの点数が良くないと受からないので、朝起きてから夜中まで毎日ひたすら英語の勉強をやっていました。

宮沢 なるほど。それぐらいやらないといけないってことですよね…(遠い目)。

詠一 そうですね。それに、安定の公務員を辞めてまで選んだ道なわけだからもう後戻りは出来ないっていう覚悟がありました。親にも心配されてたし、これで英語が出来なくて大学落ちるとか恥ずかし過ぎるからとにかく必死でした。

宮沢 それが何歳の時ですか?

詠一 29歳の時かな、30歳のなる年だったかも。

宮沢 一番自分の人生について考える年頃ですよね。この時点ですでにロングストーリーですけど、セントマーチンズに関して教えてもらってもいいですか? 憧れてる人たちも多いと思うので。

【インタビュー】ベルリンの“仕立屋”鈴木詠一の手から生まれる洋服たち suzuki-eiici-interview_DSC4453-700x467

詠一 BA(ファッション学部)に入る前の準備コースがファウンデーションになります。イギリスの大学は3年制が基本で学科を選ぶ前にファウンデーションでいろんなことをやるんですよね。グラフィックデザインから紙で切り貼りして作るアート作品制作もやりました。パターンとかトワルとかソーイングとかそういった服飾造形の基本的なことはほとんどやらずに、布を使った授業と言っても古着を解体してそこから2、3着作るとか、そういったことをずっとやってました。

宮沢 へー、文化(服装学院)と全然違う!! とにかく1年間はデザイン書いて、パターン引いて、縫ってっていう服飾造形の基礎を叩き込まれましたからね。パターンとか苦痛でしかなかったですよ(笑)。

詠一 それは文化のやり方ですよね、完全に(笑)。セントマは技術に関して学ぶのではなく、感性を磨く感じですよね。リサーチもすごいしたし、とにかく本を沢山読みましたね。アーティスティックな授業でいろんなことをやれて楽しかったですよ。こうやって話してるといろいろ思い出してきて楽しいですね!

宮沢 聞いてるだけでも楽しそうです! 自分にこんな感性があったんだ! って気付けそうですし、世界中から集まった個性的でおもしろい学生も多かっただろうし、華やかなキャンパスライフが浮かびますね。

宮沢 専門学校時代といえば、私はとにかく遊んでましたね(笑)。学校は好きでしたけど、クラブとかライブとか遊びに行ってる場所での出会いや体験の方が刺激が大きかった気がします。学ぶことはもちろん大事ですけど、遊ぶというか、とにかくどんなことでも世間を知るには経験することが大事だなと。えっと、すみません! 話が逸れてしまいましたが、ファウンデーション中にメンズブランドをやろうと決めたんですか?


詠一 最初はウィメンズをやろうと思ってたんですけど、ある先生にいつもと違うことをやってみてと言われてメンズをやってみたら自分的にしっくりきたんですよね。そこからメンズウェアコースを受けて受かって進むことに。

宮沢 行きたいところに全部受かってしまうという順風満帆な“持ってる”人生だと思いますが、卒業後に同じセントマーチンズ出身のFRANK LEDER(以下、フランク)で働きだしたんですか?

詠一 いえ、僕、卒業はしてないんですよ。

宮沢 ええ??

詠一 セントマはどうしてこのデザインになったのかという過程を一番大事にするんですよね。その過程が見れないデザインは良いデザインではないというのが学校の方針だったんです。でも僕自身はそれは絶対だとは思わなかったし、先生によって評価が全然違うし。しかも、週1のチュートリアルだし、学校のミシンも調子悪いのが多くて、自宅で作業することが多かったんです。ものすごく高い授業料払ってるのにそれに見合ってないって感じてしまって、それで1年で辞めました。メンズウェア科で感じた印象なので、他の科は分からないんですけど。

【インタビュー】ベルリンの“仕立屋”鈴木詠一の手から生まれる洋服たち suzuki-eiici-interview_DSC4500-700x467

宮沢 ロンドンのファッションカレッジはめちゃくちゃ高いって聞きますよね。日本も高いですが……。

詠一 なんで服飾って高いんでしょうね(笑)、当時1ポンド180円ぐらいで授業料は1年間で300万ぐらいでした。それが毎年上がっていくし、この授業内容でこの金額はないなと思ってしまいましたよね。あまり設備も整ってないのに。もちろん在籍していれば有名ブランドでインターンも可能だし、メゾンに就職出来たりビッグチャンスも確かにあります。でも僕はメゾンで働きたかったわけじゃなくて自分でやりたかったから。そんな悩んでた時に友達から詠一が好きだと思うからってFRANK LEDERというブランドの存在を教えてもらって、かっこいいなと思って直感ですぐにインターンの応募をしました。ドイツ語話せないけどいい?って聞いて、ポートフォリオを作って送ったらフランクから来なよって言われたので1週間後にはもうベルリンへ行きましたよね。

宮沢 なるほど。ベルリン移住のきっかけ自体がもうフランクだったんですね。

詠一 はい。セントマの1年が終わって、2年が始まるまでの2ヶ月半の間フランクでインターンとして働いていたんですけど、とにかく学校より全然勉強になるし、為になることが多かったんです。自分の世界観をものすごく持ってるし、話してるだけでも刺激を受けました。それで、悩んだ結果、学校を辞めてフランクでこのまま働きたいと申し出たんですよね。「将来自分でブランドをやりたいからそのためには学校ではなく、あなたのもとで学んで、いろいろ経験してから自分でやりたい。」と。正直お金の問題もありました。デザインや感性重視過ぎて技術が身に付かないから就職先が困難になるしこのまま貯金だけなくなって終わったら自分のブランドも始められないという不安もありました。そんな背景を知りながらフランクは僕のためになるならと雇ってくれた上に、ビザの取得の際にもものすごく協力してくれたんです。

宮沢 セントマーチンズに関しては残念な部分が見えてしまいましたけど、在籍中のフランクとの出会いは詠一さんの人生を変えるものになったんですね。

詠一 まさにそうですね。2年経ちましたけど、まずフランクの考え方から影響を受けています。どうディテールを落とし込むかとか、とにかく自分で手を加えるのが好きな人なので1日中手を動かしてるんですよね。

宮沢 フランクでは主に何を担当されてるんですか?

詠一 パターン担当です。

宮沢 え、パターン!? 感性を追求するセントマーチンズの内容とは真逆にいってますよね?(笑)。

詠一 一応、セントマでも2日間ぐらいはやりましたよ(笑)。基礎のパターン見本を渡されて、「はい、グレーディングはこんな感じでやってね、以上!」みたいな(笑)、

宮沢 笑。メンズといえばもうパターンが命なところがあると思うんですが?

詠一 もう独学でやりましたね。自分で教科書買って勉強しました。文化も買ったし、アミコ式(アミコファッションズ)も買ったし、雑誌の付録に付いてるパターンで研究したり、友人に聞いたりといろいろです。フランクに関しては、外注のパターンナーもいるので相談しながら徐々に覚えていきました。毎シーズンの定番もあるし、アーカイブも豊富なので上がってくるデザインをパターンに落とし込んで、修正するのが主な作業になりますが、今では一から自分が引いたパターンもあるし、自信を持ってやれるようになりましたね。パターン引くのが一番楽しいです!

宮沢 その努力とこれまでのかなり濃い人生の中でついに始動させたのが自身のブランド“Gorsch the seamster”(以下、ゴーシュ)だったんですね。

【インタビュー】ベルリンの“仕立屋”鈴木詠一の手から生まれる洋服たち suzuki-eiici-interview_DSC4207-700x467
”Gorsch the seamster” Photo by Saki Hinatsu
【インタビュー】ベルリンの“仕立屋”鈴木詠一の手から生まれる洋服たち suzuki-eiici-interview_DSC4258-700x467
”Gorsch the seamster” Photo by Saki Hinatsu

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宮沢香奈(Kana Miyazawa)

宮沢香奈(Kana Miyazawa)

フリーランスライター/コラムニスト

長野県生まれ。文化服装学院ファッションビジネス科卒業。 セレクトショップのプレス、ブランドディレクターを経たのち、フリーランスとしてPR事業をスタートさせる。ファッションと音楽の二本を柱に独自のスタイルで実績を積む。2012年頃からライターとして本格的に執筆活動を開始し、ヨーロッパのフェスやローカルカルチャーを取材するなど活動の幅を海外へと広げる。2014年に東京からベルリンへと活動拠点を移す。現在、Qetic,VOGUE,繊研,men's FUDGEなどで連載を持ち、多くのファッション誌やカルチャー誌に寄稿している。また、国内外のカルチャー情報&体験を提供するアクティビティーコマースBANANAにて、現地ガイドを担う。

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