またひとり、才能溢れる若き日本人アーティストと出会った。共通の友人から紹介された武田竜真(Tatsuma TAKEDA)というアーティストはこれまで出会ったアーティストとはまた違う雰囲気とベクトルを持っていた。ベルリンからドレスデン、そして今またベルリンに拠点を移した彼はある側面において”ベルリンぽくない”アーティストとも言えるだろう。
ベルリンのKunstquartier Bethanienで3月に開催されていた個展『Death Becomes Her』のレポートとともに武田竜真という一人のアーティストに迫る。
レポート:武田竜真 個展『Death Becomes Her』
カールステン・ニコライが教授。古典美術から表現するコンテンポラリーな発想
ベルリンには住みながら創作活動が出来るアトリエやスタジオ兼住居といったアーティストレジデンスが多数存在する。姉妹都市である東京の文京区に本拠地を構える“Tokyo Arts and Space”もKunstquartier Bethanien(以下、ベタニエン)内にギャラリーとレジデンスを持っており、3ヶ月間そこに住みながら作品を制作し、ギャラリーで個展を開くまでが1つのプログラムとなっているアーティスト支援を行っている。ベタニエンは病院の跡地とあって夜は少し怖く感じてしまうがとても風情のある洋館で絵画でも彫刻でも映像でもアートが映える場所である。もちろん希望するだけでは利用することは出来ない。そこまでのプロセスもきちんと存在する。
武田竜真は多摩美術大学の絵画学科油絵専攻科を首席で卒業し、ドレスデン美術大学にてディプロム課程を修了し、現在は最高学位であるマイスターシューラーとして籍を残しながら個人の活動を行っている。当然ながらドイツ語も英語も堪能。プロフィールを見るだけでも優秀なのは一目瞭然だが、電子音楽レーベルの最高峰〈Raster-Noton〉主宰であり、現代美術の世界においても高い評価を得ているカールステン・ニコライが教授というからいろんな角度から興味津々であった。
そんな彼の作品は非常にユニークで、そこに“カールステン”カラーはあまりなく、これまで見たことのない独自の世界観が広がっていた。古典美術がベースにありつつコンテンポラリーでもあり、淡々とした口調で語られる作品の背景にはいろんな要素が織り交ぜられ、複雑にも感じる手法は少し哲学的でもあった。
「僕は生まれつき色盲なんですよ。だから昔から白黒の絵を描けとか言われてたんですけど、自分はカラフルな絵を描きたいんですよね(笑)。だったら、どうすれば描けるのか? 実物の色に近付けるのか? そういったことを考えながらいろいろと試行錯誤してきました。今は制作の時にはいつもスマートフォンアプリの”Color Helper”を使って描いています。色の認識には乏しいけれどその分明度の認識には長けてるですよね。だからアプリを使えば僕にもカラフルな絵が描ける。それを証明してみせてるような感じですかね?(笑)今回の花の作品は2、3年前から手掛けているシリーズになるんですが、17世紀頃のヨーロッパには各地から集められたいろんな種類の花があって、静物画として描かれることも多かったんです。美術史にも多数残されてるんですが、そこからインスピレーションを得て描いています。今回はベルリンでのエキシビジョンだったので多種多様な人種であるベルリンをイメージしてみました。」
色盲の画家には初めて会った上に制作方法も初めて聞くことばかりで素人の自分には最初理解出来なかったが、技術はもちろんのこと、追求する意欲と発想力にも長けていないと到底実現できないのではないだろうか?