ベルリンの夏は忙しい。それは突然やってきてはあっという間に消えてしまう嵐のような存在であり、この時にしか体験出来ない魅力的な催しがここぞとばかりに開催されるからだ。Facebookに投稿されるイベント情報をチェックするだけでも目が回るほど。そんな慌ただしくてエキサイティングなベルリンの夏のイベントの中から年々勢いを増すフードフェスティバルにスポットを当て、実際に参加したいくつかのイベントをレポートしたいと思う。
京都からやってきたハイクオリティーなコーヒーショップ「%Arabica」
他都市より一足遅くやってきた“日本ブーム”の勢いは未だ健在だが、サードウェーブ、フォースウェーブ系コーヒーショップのオープンラッシュはそれを超えるベルリン。移住してきたばかりの4年前からカフェの数は異様に多かったが、コーヒーのクオリティーはまちまちで正直高いとは言えなかった。ところが、ここ1、2年の目覚ましい成長により信頼のおけるロースターと腕の良いバリスタがいる店が一気に増えたのだ。アメリカ資本のチェーン店が少ないベルリンならではなインディペンデントで個性溢れるコーヒーショップやカフェが多数出来たことは個人的にも非常に嬉しい。
中でも今一番のホットスポットといえば、昨年クロイツベルク地区にオープンした京都発のコーヒーショップ「%Arabica」だろう。日本ではロゴマークの”%”が印字されたオリジナルカップをインスタグラムに投稿するのがステイタスになっているほどの人気。ベルリン店では、8月31日から9月3日まで開催された「Berlin Coffee Festival」の一環でコーヒー専門誌「Standart Magazine」と同店のコーヒー豆を使用したエスプレッソマティーニのパーティーが行われた。白を基調とした洗練された店内はオシャレな来場者で溢れており、一般公開されていないパーティーだったこともあり、ここまでは想像通りだったが、思わずパーティーでもしたくなる150㎡という圧巻の広さに最先端のインフラ、人で溢れかえっているにも関わらず全く圧迫感のない開放的な空間には驚いた。
また、この日はArabicaのコーヒーメニューも全て無料で振る舞うというベルリンには珍しく太っ腹なサービスにも驚いたが、マティーニとフィズにはオランダの老舗ウォッカブランドKetel Oneが使われ、バーを担当したのはシャルロッテンブルクの有名レストランPanama内にあるTiger Barとあって、フリーのパーティーであってもイメージを崩さない徹底されたブランディングにとても感心した。味ももちろん美味しく、タパスとの相性もバッチリだった。
東京やパリ、ロンドンなどの有名店であれば当然のクオリティーかもしれない。しかし、ベルリンにおいてはまだまだ発展途上であり、こういった世界基準のセンスとサービスを提供出来る店が増えることで、感度の高い人も増えていってくれることを期待せずにはいられない。Arabicaのコーヒーに関してはまた改めて取材に行きたいところである。
伝説のクラブBAR25跡地でジャパン・フェスが開催
続いても日本をフィーチャーしたイベントを紹介したい。ベルリンで日本文化に特化したワークショップやポップアップをプロデュースし、移住前に取材させてもらった『AFTER25』の主要メンバーでもあるクリエイターチームNION Berlin主催のもと『NION week Festival』が開催された。クラブ、シアター、レストラン、バーなどが集結した複合施設Holzmarktの一部を会場に、野外スペースにはおにぎりやお好み焼き、ラーメン、日本酒などといった日本食のブースが立ち並び、赤い提灯が吊るされたエリア内は日本人DJがかける懐かしくエモーショナルなJ-POPとともにいつもと違う雰囲気を醸し出していた。
室内外ともに広々とブースを構えていたのは、アルト=トレップトーに店舗を構える“Mion Records”。日本でプレスされたレコードを多く取り扱うショップとして注目を集めており、日本人スタッフや日本語の話せるスタッフも在籍している。豊富な種類と中古盤3ユーロ~と良心的な値段にコレクターの喜ぶ姿も見られた。
Holzmarktは映画にまでなった伝説のクラブ“BAR25”のファウンダー率いるHolzmarktクルーによって昨年オープンした注目のスポット。一旦は更地となったが、ヒッピー要素溢れるデコレーションや木材で統一された風情ある建物がBAR25当時の面影を残している。それに反してバーやレストランはモダンで高級感が漂い、イベントスペースとしても活用されているシアターの音響設備へのこだわりもかなりのもの。この日はナイトプログラムとして、DJ、ライブ、津軽三味線、亀甲縛りのショーなどが行われた。
今回初の試みとなった同フェスだが、ベルリンにおける日本文化の浸透がより深まり、日本人アーティストやクリエイターが世界で活躍する場が増えることを願っている。
菜食主義者以外からの関心も高いヴィーガンフェスが大人気
フードフェスティバルの中でも特殊で注目度が高いのが『Veganes Sommerfest』である。毎年8月末にアレクサンダー広場(Alexanderplatz)にて開催されている同フェスはヨーロッパ最大規模を誇り、出店数130、来場者数65000人にも上るモンスターフェスである。ヴィーガンフードの出店はもちろんのこと、化粧品、アパレル、健康関連グッズ、動物保護のための支援活動、トークショー、ライブなどといったプログラムも豊富。
実演販売ブースではベジミートやヴィーガンチーズが圧倒的な人気を誇っており、飲食ブースではチュロスやドーナツといったスイーツ類やラザニア、寿司、バーガーなどに行列が出来ていた。ヴィーガンフェスと知らなければ普通のフードフェスと変わらないメニューが多いため、個人的にはメニュー看板に分かりやすく使用している食材を記載して欲しいと思った。
ベジタリアンやヴィーガンといった菜食主義者が非常に多く、他都市にはない独自のスタイルのベジ&ヴィーガンの飲食店やスタートアップが存在するベルリンだが、同フェスはそういったトレンドとは少し掛け離れており、洗練された雰囲気は正直なかった。しかし、来場者の中には筆者も含む肉食主義者も多く見られ、ヴィーガンに関する説明に真剣に耳を傾けている姿を多く見た。こういった本格的な活動からヴィーガンとは何かを正しく知ることができ、健康だけでなく地球環境や動物保護にも繋がることを知るきっかけになることが何よりも大切なのかもしれない。
ビビッドなレッドで統一されたイタリアンフードフェス
ヴィーガンフェスと同時期に開催されていたのが『Italo Festival Berlin』だ。フェス会場としてはもはや定番であり、不動の人気を誇るURBAN SPREEを借り切って開催されていた同フェスはヴィーガンフェスに比べると来場者が少ないように思えたが、夜の方が盛り上がりを見せるエリアだけに当然と言える。
イタリアをイメージした赤いテーブルクロスが会場を華やかに演出しており、来場者も若くてオシャレな層が多く見られたのが印象的だった。当然ながらフードはピザとパスタがメインとなっており、ノイケルン地区に新たにオープン予定というイタリアン・シーフード・レストランも出店していた。フードフェスであっても必ずと言っていいほどDJやライブパフォーマンスがあるのがベルリンらしさであり、昼間は野外スペースを利用し、夜の10時からは室内スペースを利用するスタイルが多いのもまた特徴である。そのため十分なスペースが確保できるだけでなく、昼と夜に分けてプログラムを贅沢に組むことが出来るのだ。。
ベルリン独自のユニークなカルチャーを発信しているのはクラブだけに限らないことをお分かり頂けただろうか? 今回紹介したフードフェスはほんの一部であり、サマータイムの終わりまで毎週末開催され、冬にはまた違った形で開催される。ベルリンを訪れた際には是非とも足を運んでローカル気分を味わって欲しい。